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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第2章 少年牧師と、風を奏でる森の民
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04/07. ガーシュ王国のはじまり(5)

「くそう、人間のくせに」

「俺たちは魔族、強いんだ」

「お前なんかより、ずっと強いんだぞ」


 妹君の魔法でやられた魔族たち。

 彼らが、再び立ち上がる。


「やめろ、もう勝負はついた。俺たちが戦う必要はない」

「うるさい」

「俺たちは負けられないんだ」

「負けたら、僕たちは黒翼の魔将に殺されちゃうんだ」


 諭す人間の王に対して、魔族は退かない。


「「「うぉーっ」」」

「ならば仕方ない――えいっ」


 向かってきた魔族に対して、若き王が剣を振る。

 勝負は一瞬でついた。


「「「うわぁーっ」」」


 舞台から消えた魔族役の三人。


 戦いを終えた王に、仲間たちが集まる。


「俺は、必ず平和な国をつくる。その日まで、剣を置くことはない。走り続けるんだ」

「「「「「おーっ」」」」」


 高らかに宣言した若き王に、周りのみんなが応じ、全員で勝利を分かち合っている。


 語り部の女の子は、無言のまま直立。


 すると、土色に化粧をした男の子が一人、まるで空き巣に入るような素振りで現れた。


「ほうほう。あれが、最近勢いのある人間の王さまか。思っていたより手強そうだ。どれどれ、ちょっと仕掛けてやろうかな」


 悪だくみ満々といった感じ。

 どうやら、問題のシーンに入ったみたい。


 語り部の女の子が口を開く。


「あれは、黒翼の魔将の部下の魔族です。陰からこっそり、その様子を見ていたのでした」


 ゆっくりと若き王に近づいた魔族が、大きな声で叫ぶ。


「えいやぁーっ」

「う、く、苦しい」


 声と同時に、その場でうずくまる若き王。


 混乱する周囲の仲間たち。


 そんな中、語り部役だけは冷静だ。


「王さまの強さは、最強といわれる黒翼の魔将に匹敵するほど。これを知った部下の魔族は、卑怯ひきょうにも呪いの魔法をかけたのです」

「くそう、油断した」


 胸を押さえて、呪われた演技をする若き王役の男の子。


「上手くいった、上手くいったぞ」


 自分の魔法が効いたことに、小躍りする魔族。


 そこに現れたのは、あの黒翼の魔将だ。


「お前が、俺を倒そうとしている人間か。ふははっ、無様だな。安心しろ、すぐ楽にしてやる」 


 かなりはしょっているけど、まさに大ボス登場って感じ。


 この場面に入ったってことは、もう『あの事実』について指摘する必要はない。

 アミカちゃんは、こういう演出を選んだんだな。


「……そっか」


 となりのリリウが、また小さくつぶやく。


「ありがとね、アミカ」


 伝わったんだな、リリウに。

 アミカちゃんの選んだ優しさが。


 戦乱時代の終期。

 若き人間の王の勢力と、黒翼の魔将の勢力の二つが残る。

 真の王は一人。

 激突は必至だった。


 しかし、未来を決める戦いを控えた若き人間の王は、黒翼の魔将に属する魔族によって、邪悪な呪いをかけられてしまう。

 気力や体力を低下させるたぐいの呪文をかけられてしまったようだ。


 問題は、その呪いをかけた魔族。


 何せ、その魔族というのが――。


「ひどいことするわね。部下に呪いをかけさせて、無様も何もないじゃない」

「「「ギィギィ」」」


「部下も部下よ。自分のところの王さまを信じてるなら、その勝利を、のんびり待っていればいいの。いったい、どこの魔族かしら? やるなら堂々とやりなさい。人間相手に、小細工なんかいらないのよ」

「「「ギィーッ」」」


 自分たちに重ね合わせているのか、黒翼の魔将側を批判するフィンネとマサン三体。


 歴史を知っている俺としては、いろいろつっこみたい部分もあるが、やめておく。


 だって、周りにいるナコタのみんなが、すごく温かい目で、フィンネのことを見てるから。

 歴史は歴史として、だけど今は今として――そういう想いが、言葉に出さなくても伝わってきたから。


「……ふん」


 親が幼い子を見守るような、くすぐったい雰囲気を、彼も感じたんだろう。

 気だるそうに、イェルクさんが鼻をこすった。


「俺は、負けない。平和な未来のために、お前を倒す」


 舞台上。


 やや苦しそうな演技をしながらも、若き王が立ち上がった。


「かかってこい、人間の王よ」


 剣を抜く、黒翼の魔将。


 周囲の子供たちは、みんな舞台から去る。


 最終決戦の始まりだ。


「えいっ」

「やぁーっ」


 若き人間の王と、黒翼の魔将。

 激しく剣をぶつけ合う二人。

 必死に演じる彼らの気迫が、当時の戦いの空気を、確かに感じさせてくれた。


 実際は、互いの勢力が入り乱れてのものだったと想像される。

 呪いによって万全ではなかった若き王だが、平和への強い想いが、彼に力を与えたようだ。

 戦乱時代どころか、この国の歴史上最強の魔族といわれている黒翼の魔将相手に善戦した彼は、仲間たちのサポートもあって、ついに夢を手にする。


「ぐわぁーっ」


 若き王役の男の子が、黒翼の魔将を斬り捨てた。


 倒れた黒翼の魔将。

 最悪の暴君は、ここで敗れる。


 その種族はグリゴリ。

 黒い翼と褐色の肌を持つ、恐ろしい魔族だ。


 しかし、この暴君の死を期に、グリゴリという魔族は、文献にはおろか、現実にも存在しなくなってしまう。


 もちろん、当時の戦いとは無関係なグリゴリが子を残し、現在、その末裔まつえいが国内の秘境に隠れ住んでいる可能性はある。


 だが、少なくとも今日こんにちまで、おおやけには確認されていないようだ。


 黒翼の魔将は、地上最後のグリゴリだったのか?


 これは、王国の歴史に残る大きな謎だ。


 仮説として、黒翼の魔将の強さに理由を求めるものがある。

 黒翼の魔将は、同族同士で争った上での勝利者で、まさにグリゴリの中のグリゴリだった――と考えるんだ。


 つまり、彼が力を示し始めた時点で、すでに他のグリゴリは、未来の暴君の手によって殺されていたと理解する。


 これを前提とするなら、黒翼の魔将の驚異的な強さも納得できるだろう。

 運動能力に優れ、魔力も膨大な種族である他のグリゴリを地上から殲滅せんめつした一個体だ。

 まれに見る凶悪さとその戦闘力は、当然ケタ違いになる。

 歴史上最強の魔族とされるのも無理のない話だ。


 とにかく、彼の死をもって、グリゴリはいなくなった。


 決着はついた。

 時代は、若き王を選んだんだ。

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