04/06. ガーシュ王国のはじまり(4)
「自分や、自分の国のみんなが殺されないように言うことを聞いていた各地の王さまたちでしたが、たとえ言うことを聞いていても、黒翼の魔将は、支配した国の人間や魔族を殺しました。特別な理由はありません。腹が立った、嫌いだから――その程度の理由で、村や町をめちゃくちゃにしてしまうのです」
語り部の男の子が、さらに悲しそうに話した後、
「何よ、自分の国でしょ!? 自分の国の村や町なら、大切にしてあげなきゃダメじゃない。私が女王なら、ちゃんと面倒みてあげるわよっ」
「「「ギィ」」」
フィンネが声を上げ、マサンたちも同調した。
……は、入り込んでるなぁ、こいつら。
でも、気持ちは理解できる。
戦いの時代、敵対勢力と争うことは避けられない。
けれど勝負がついたなら、それ以上の攻撃は無意味。
仲良く――とはいかなくても、命を脅かす必要なんてないはずだ。
しかし、黒翼の魔将は止まらない。
まるで、殺戮そのものを楽しんでいるかのように。
「俺は、王の中の王だ。あの国もこの国も、全部俺のものだ。俺のものだから、そこで暮らす人間も魔族も、みんな俺の好きにしていい。俺が一番偉いのだからな」
黒翼の魔将は、圧倒的暴君だった。
舞台上の子供たちのように、当時の誰もが、為す術なく、あのようにひれ伏していたに違いない。
「はははははっ」
高笑いを残して、黒翼の魔将が舞台を下りる。
体を縮めていた他の子供たちも、ここまでの語り部も、それに続いて消えた。
戦乱の世は、人間にも魔族にも、最も恐ろしい時代に突入していた。
「このまま黒翼の魔将は、ずっと一番の王さまなのでしょうか? 誰か、あの恐ろしい魔族を倒してくれる勇者は現れないのでしょうか?」
新しい語り部は、再び女の子。
彼女の呼びかけに応じるように、男の子が一人、ステージに現れる。
生成りの短いマントと木製の剣を持つ彼は、険しい表情で口を開いた。
「このままでは、みんなが楽しく暮らせる平和な時代は訪れない。誰かが戦わなくてはいけないんだ。だったら、俺がやる。俺が、あの恐ろしい魔族を倒してやるんだ」
宣言するように、生成りマントの男の子が、剣を突き上げた。
「いいじゃない、いいじゃない。出てきたわよ、やってくれそうな感じのやつが」
「「「ギィ」」」
今後の展開を予感させる人物の登場に、興奮しているフィンネとマサンたち。
「彼は、人間の戦士。とある小さな国の王子でした」
語り部の女の子が補足する。
あの男の子が演じている武人が、この国のはじまりを決定づけた人物なんだ。
「人間なのは気にくわないけど、まぁいいわ。私、さっきの偉そうな魔族、あまり好きになれないし。戦うなら、私が応援してあげるわよ。頑張りなさい」
すっかり劇に夢中のフィンネ。
それをおもしろく思ったのか、客席のどこかから、かすかな笑い声が聞こえた。
さて、いきなり登場した王子だけど、もちろん歴史的には背景がある。
黒翼の魔将の支配下にあった魔族の小国が、別の小国を襲撃する事件が起こった。
当時、まだ黒翼の魔将の脅威から逃れていた人間の小国を、勢力拡大のために襲ったんだ。
その魔族による襲撃を、人間たちは自力で退ける。
小国の王の息子である青年が先頭に立ち、敵を打ち砕いた。
言うまでもなく、その王子こそ、舞台上の彼が演じている戦士だ。
文献によると彼は、討ち取った魔族の長の首を手に、高々と宣言したらしい。
このままでは、戦乱の世は終わらない。
人間も魔族も平和を望んでいるはずだ。
ならば、自分が真の王となり、人間と魔族が手を取り合って暮らせる国を建てる。
――と、このように。
「王子にして立派な戦士でもある彼は、仲間を集めることにしました。優しくて勇敢な彼の呼びかけに、多くの人間や魔族が応じたのです。仲間を増やした王子は、そのまま、その国の王さまになりました」
語り部の女の子が言うと、また舞台の上にたくさんの子供たち。
王子役の男の子は、みんなと次々に握手をしていった。
小国の王子の宣言に、他の人間の集落や、いくつかの魔族の部族が賛同。
父から玉座を受け継ぎ王となったその青年は、小さかった国を次第に拡大させていく。
けれど、それを無視する黒翼の魔将じゃなかった。
舞台に、ダダダッと三人の男の子が。
「お前ら、最近、偉そうにしているらしいな」
「俺たちに逆らうと、ひどいぞ」
「何たって、僕たちの王さまは黒翼の魔将だからね。一番強いんだ」
仲間を増やした王子――もとい、若き王に、黒翼の魔将の刺客が迫る。
新国王の仲間役たちが、現れた魔族にひるむ。
青年国王本人も、少し不安そうな演技をしていた。
そこに救いの手。
出てきたのは、白いローブに杖を持った女の子だ。
「大丈夫、私に任せてください――えいっ」
「「「うわぁーっ」」」
女の子が杖を振ると、魔族役の男の子たちが倒れる。
攻撃魔法を表現しているんだな。
「助けてくれたのは、王さまの妹君でした。彼女は優秀な魔法使い。平和な時代のために、兄をサポートしていたのです」
「ありがとう、俺の大切な妹よ」
「兄さんの願いは、私の願いでもあるのです。誰もが安心して暮らせる未来のために、私も立ち上がります」
語り部の女の子に続いて、兄妹の二人が会話を交わした。
若き王には、一人の妹がいたようだ。
魔法に長けた女性だったらしく、その力で、戦いに大きく貢献したのだとか。
彼女もまた、今後の展開に関わる重要人物なわけだけど、さて、どういうふうにまとめるんだろうな。
ここまで、俺が読ませてもらった脚本と、大枠は変わっていない。
けれど細かい点は、やっぱり少し違っていた。
まろやかさというか、史実に反しない程度に表現を抑えたり、あえて言うことのない部分をカットしている感じ。
だとすると、あのダークエルフの件も、もしかしたら――。




