04/04. ガーシュ王国のはじまり(2)
続いて現れたのは、木製の武器や鎧で身を固めた三人の男の子だ。
みんな、どこか粗暴な雰囲気をかもしだしている。
「俺は、家族や友だちのために、他のやつらと戦う。戦わなければ、俺たちの食べ物がなくなっちまうんだ」
「俺だってそうさ。だって戦わないと、俺の領土がめちゃくちゃにされちゃうからな」
「僕だって同じだ。知っているんだぞ。お前たち、僕の故郷に火を放つつもりなんだろう。そうはさせない」
当時の部族の長を演じている三人は、勇ましい感情を伝えていた。
食糧を手に入れるため、部族の支配する土地を広げるため、ただ自らの強さを証明するため――理由はさまざまあったはずだが、とにかく歴史とは、結局は争いが積み重なったものだ。
悲しいけれど、これは事実として受け入れるしかない。
人間も魔族も、この地を舞台に、気の遠くなるような時間の中で、多くの争いを繰り広げてきた。
その流れが、今へとつながっているんだ。
「このように、いろいろな種族のリーダーは、自分の家族や仲間を守るために、敵対する相手と戦いました。そういうことが繰り返されて、だんだんと小さな国ができあがっていきます。勝った方が負けた方を支配して、どんどんどんどん大きくなっていったのです――そして、時代は進みます」
さっきとは別の語り部役の女の子が、ステージの上へ。
歴史の物語ということで、ナレーション部分は重要。
台詞も多い。
だから、何人かの子供たちで、その立場を分散しているんだ。
「この国のはじまりをお話しするには、ざっと数百年ほど、今から時を戻さなくてはいけません。その頃、この地は、とても激しい戦いの場所となっていました」
四季を持ち、川が流れ、肥沃な平地と緑あふれる森林が広がる大陸の一角――そこに、現在のこの国は位置する。
豊かな自然があるということは、当然、人間にも魔族にも好ましい環境となる。
各部族が入り乱れる熾烈な争いの場となることは、もはや当然のことだったんだ。
「そう、戦乱時代です」
語り部の女の子が言い切る。
戦乱時代。
文字通り、世の中が、戦いで大きく乱れた時代だ。
「「「「「うぉーっ」」」」」
舞台に上がってきたのは、五名の子供たち。
すでに出てきていた男の子たちのように、何らかの武装をしている。
少し違うのは、彼らは皆、くすんだ緑色の顔をしていること。
野草をすりつぶした染料で化粧をしているんだ。
「「「「「うわぁーっ」」」」」
次に、また別の子供たちが五名。
彼らは武装はおろか、それらしい衣装も身につけていない。
何だか、普段の服装とたいして変わらないように見える。
「俺は魔族」
「俺も魔族」
「僕だって魔族だぞ」
武装している方の子供たちが、腕を掲げて声を上げた。
なるほど。
あの緑色の化粧で、人間とは別の存在であること――つまり、何らかの魔族であることを表現しているんだな。
「俺は強いから、弱いやつらから食べ物を奪うぞ。それで国をもっと大きくするんだ」
「家も着るものも全部、俺たちの国がもらう。弱いやつから取り上げるのは、すごく簡単だ」
「弱いのは人間。だから僕たちは、人間たちの国を襲うんだ」
魔族役の子供たちが、武器を持ち上げて威嚇する。
「ああ、私たちの食べ物が」
「僕の家が壊されちゃうよ」
「やめて、お父さんとお母さんに乱暴しないで」
普段に近い服装の子供たちは、どうやら当時の人間の役らしい。
魔族に襲撃された状況を、台詞で説明していた。
「「「「「めちゃくちゃにしてやる」」」」」
「「「「「助けて」」」」」
子供たちが、舞台の上で追いかけっこ。
背景として置かれていた丸太の積み木で作られた家が崩れ、下にいたアミカちゃんとマルセラ姉さんが、枝や布きれを軽く投げ入れる。
混乱の様子を、あれで表現しているんだ。
しばらくすると、彼らは全員、ステージの外へ。
残っていたのは、語り部の女の子だけだ。
「魔族はとても強く、人間では太刀打ちできません。この時代、人間の村や町、もちろん国も、各地にたくさんありました。けれど魔族により、次々に滅ぼされてしまったのです」
ぽつんとたたずむ女の子の姿が、焼け野原になった当時の集落を想像させた。
「ふふんっ、やっぱり魔族は偉大なのよ」
話の流れが好みだったのか、フィンネが言う。
「私もいつか、この国を支配して、それで――」
「(ギィーッ)」
「「(ギィ、ギィ)」」
そんな彼女に、マサンたちが『しぃーっ』のポーズ。
おいおい、使い魔の方がマナーいいじゃんかよ。
確かに、周りの人の迷惑だもんな、こういうときの独り言。
「……わ、わかってるわよ」
正しい指摘に、いつもは強気のフィンネも、素直に受け入れていた。
「しかし、村や町、自分の国を滅ぼされたのは、人間だけではありませんでした」
語り部の女の子が続けると、また舞台に魔族役の男の子が数名現れた。
みんな武器を持ち、それぞれをにらんでいる。
「ある魔族が、人間の村や町を襲います。すると別の魔族が、人間を襲った魔族の村や町を攻撃するのです。けれど次の日には、さらに別の魔族が……」
女の子が語っている中で、男の子たちが戦いの演技。
一人が消え、二人が消え、最後に残った一人も、苦しそうに舞台から去っていった。
「これが戦乱時代です。人間でも魔族でも関係ありません。ただ、毎日毎日、戦いの連続でした」
淡々とした台詞が、逆に当時の恐ろしさを訴えてくる。
演劇では割愛されているけど、もちろん人間たちも、魔族に一矢報いたことはあっただろう。
けれど、全体としてはやはり、人間は劣勢だった。
だからどうしても、人間は襲撃される側。
自分たちの集落を守ることに精一杯だったと、歴史は伝えている。
このような時代の流れは、人間が魔族を制圧できるかどうかではなく、いったいどの魔族が戦乱時代の覇者になり、この地を統べるのかに向かっていく。
語り部役の女の子が去り、舞台にまた、魔族役の男の子たちが。
「俺が一番強いんだ」
「違う、俺だ」
「僕の魔法が最強だから、一番強いのは僕なんだ」
もちろん、台詞の声色は幼い。
けれど、当時の有力魔族たちが、自分の強さを誇示するために同じ趣旨の想いを抱いていたことは、きっと間違いないはずだ。
誰が最強なのか。
誰が戦乱時代を制し、この地を支配するのか。
今とは違う荒々しい空気が、数百年前、確かに流れていたんだ。




