01/09. それは、記憶に新しい過去(1)
「――だから俺は、別にリリウにいやらしいことをしようなんてつもりは、まったくないんだよ」
とりあえず食事を済ませた後、昨晩の出来事と、俺がぬるぬる好きのエロエロ男子じゃないことを説明したんだけど、
「……ふーん、そうですか、ふーん」
アミカちゃんは冷ややかな態度のまま、中途半端な返事をしただけだった。
「わ、わかってくれたのなら、俺はそれでいいんだけどさ……あはははは」
「……つまりそれでも、牧師さまがリリウさんを押し倒したことは事実なんですよね?」
「そ、その言い方だと、ずいぶんと誤解を招く――」
「事実なんですよね、牧師さま?」
「……はい、ごめんなさい」
理由はとにかく、そう詰め寄られたら否定はできない。
俺は素直に、アミカちゃんに謝ることにした。
「(……もう、やっぱりリリウさんは危険でした)」
テーブルの向かい側で、何かをつぶやいたアミカちゃん。
すると俺から、となりのリリウに目を移す。
ダークエルフの――というより、女の子として均衡のとれた体を、隅々まで確認するみたいに。
「な、何? そ、そんなジロジロと」
アミカちゃんの視線に気づいたリリウが、少し戸惑いをみせた。
ぬるぬるにされるのが怖いのか、彼女は椅子に座りながらも、さっきより俺との距離を開けている。
そんなことしないってのにさ、まったく。
「いくら牧師さまが誠実だとしても、リリウさんの体つきは、やはり目の毒です。牧師さまも、その……お、女の人の体に興味がある男性ですからね」
「あ、あたしが悪いみたいに言わないでよ」
アミカちゃんの発言に、リリウが反論する。
「き、昨日のことはとにかくとしても、結局はこいつが、その……あ、あたしにスケベなことをしたい気持ちがあるのがいけないんじゃんか」
「おい、ちょっと待て、リリウ」
さすがに、このまま聞き流すわけにはいかない。
「あのな、勝手に俺をスケベ野郎にしてんじゃねーよ」
「ど、どうせ下心があるから、あたしを無理やり、食事に招いてたんでしょ? そ、その……ぬ、ぬるぬるご奉仕をさせるために」
「ダークエルフに恐れをなして俺が食事を提供してるっていうお前の設定は、いったいどこに行っちゃったんだよ!?」
「あ、あたしは、食事に誘われたくらいじゃ、あ、あんたにぬるぬるご奉仕なんてしてやらないからっ!!」
「とりあえず前提として、その『ぬるぬるご奉仕』ってのは、いったい何!?」
「や、やや、やっぱりあんた、ものすごくぬるぬるに興味津々!?」
「そういうつもりで聞いたんじゃねーっての!!」
自分でもわけのわからないことをリリウと言い合っていると、
「牧師さまっ!!」
大声でアミカちゃんが叫んだ。
「「…………」」
俺とリリウは、思わず無言に。
「本当に、ほんっとうに仲良しなんですね、リリウさんと」
アミカちゃんは、俺を見て笑っていた。
けれど目だけは、明らかに笑っていない。
「な、仲良しってわけじゃな――」
「私、今日は帰りますね。お昼、どうもごちそうさまでした――それでは」
立ち上がったアミカちゃんが、家の玄関まで歩いていく。
そのまま手をかけて、ドアを開いた。
「あ、ちょ、アミカちゃ――」
「それでは」
ばたんと強めに扉を閉めて、アミカちゃんは出ていってしまった。