儀式②
七年前に死んだとされる少女──いや、女性が、偽物の正体。
いったい、何を根拠にそんなエキセントリックなことを宣うのか──と、すかさず葉月が尋ねると、
「……まずだいいちに、初めに私が助けた方の『宰くん』にはある物がなかった。なのに、どう言うわけか、気付いた時にはソレが彼にあった。……女性にはなくて、男性だけにあるはずの、ソレが」
「は? 何の話だ? ──まさか、下ネタ?」
「違イマス。もっと健全な話デス」
彼女はしばし考え込んでいたようだが、結局答えは出なかったらしい。
「ああもう! わかんねーからさっさと教えろよ! ……つうか、あんな適当なこと言って時間稼いでるだけだろ!」
「……そんなセコイことしません。──私もまどろっこしいのは嫌だから、さっさと正解を言うけど、答えは至って単純──」
などと言いつつも、シッカリをもったい付けた後、
「……喉仏、だよ。──最初の『宰くん』には喉仏がなかったのに、今の宰くんにはいつの間にかちゃんとあった」
「な──る、ほど……」どこか拍子抜けした様子で、葉月は呟く。
「……どれだけ見た目が女の子みたいでも、ここばっかりは本当の性別が反映されるところ。……だから、私は途中まで──昨日、君たちにアルハラされた時に彼の喉を見るまで、宰くんは女の子なんだと思ってた」
つまり、あの時宰の上に覆い被さった彼女が、「……おかしい」と呟いたのは、ないと思っていた喉仏を発見した為だったのか。
そこまで説明した燎子は、すぐさま小声で「……じゃなきゃ、目の前で着替えたり、無理に脱がしたりなんてしないし……」と、付け足した。
「は? 着替え?」
「……ナンデモアリマセン。──とにかく、これが宰くんと朔さんが入れ替わっていたと言うことの根拠の一つ目。
……そして、二つ目は、二人がとてもよく似ていたと言うこと。髪の毛の色は違ったようだけど、染めればどうとでもなるし、そこに黒巫女の変装技術が加われば、より完璧な物になるはず」
「ち、ちょっと待て……! それじゃあ、あんたは朔さんが宰に成りすますのに、うちの者が──いや、観月姉が協力していたっつうのかよ!」
「……そう。──正確には、センパイの方からそれを持ちかけたはず」
「観月姉の方、から……⁉︎」
探偵は、窮屈そうに頷く。
「……宰くんにバイトを斡旋したのは、他ならぬセンパイ。私が直接電話を受けたんだから、これは確か。……そして、朔さんが宰くんに成りすましてうちに来たと言うことは、初めからセンパイと示し合わせていたと考えるのが自然でしょ?」
「け、けど、なんだってそんなこと」
「……おそらくは、処分する為。──朔さんを殺害することが、古神の一族の目的だった」
「なっ──」
すでに、この日何度目かわからない衝撃。
葉月は今度こそ、言葉を失った。
「……そう考えれば、『宰くん』──に変装した朔さんが、マジュウに襲われたことも説明が付く。すなわち、アレは朔さんを抹殺する為にセンパイたちが差し向けた、刺客だったんだよ。
……また、葉月にだけ真実を隠していた理由も明白だね。……宰くんの実のお姉さんを殺すなんて、君は反対するに決まってるから」
「……そ、そりゃ突然だろ! そんなことしたら、あいつが…….」
「……センパイたちの本当の計画は、こうだった」
狼狽えている様子の彼女をまっすぐに見据え、燎子は容赦なく紡ぐ。
「……密かに朔さんが生きていることを知った──あるいは、知っていてわざと生かしていたか──センパイは、彼女と接触。そして、今回の『儀式』のことを虚実を織り交ぜて朔さんに話した。──たぶん、宰くんが『「儀式」の供物として死ぬことになる』とでも、教えたんだろうね。
……で、それを聞いた彼女が何を考えたか。……自分の生き別れた弟に、命の危険が迫っていると知ったら……。──葉月なら、どうする?」
「私なら……『助けてやりたい』って、思うけど……」
「……そう。それが当然の人情。──そして、おそらく朔さんも同じことを考えた」
「えっ? ──ま、まさか!」
「……朔さんは、宰くんを助ける為に──もっと言えば、身代わりになる為に、彼のフリをしてバイトに向かったんだよ」
朔は弟の身代わりとなる為に、彼に成りすましていた。そして、燎子曰くその変装に観月らが一役買っていたのだとすれば、その目的は彼女を誘き出して殺すこと。
つまり、「儀式」の話その物が、悪意に満ちた陥穽──家族を想う心を利用する為の、非情なまでに非道な奸計だったのだ。
「そ、そんな! そんな、惨いことを……!」
「……本当に、ね。
……さて、話をまとめるけど、初めに『宰くん』だと思われていたのは彼に変装した女性──朔さん──で、それがいつの間にか、ちゃんと男の子に変わっていた。……この『入れ替わり』が行われたのは、あの時乱入して来たアンノウンに、『宰くん』が攫われた直後だと考えられる。──そして、二人が入れ替わったと際、同時に朔さんは殺されてしまった可能性が高い」
「つまり、あの翅の生えたマジュウが朔さんを……⁉︎」
「……おそらくは。──で、そうなって来ると、当然『本物の宰くんはどこに行ってしまったのか』と言う疑問が出て来る。たぶん、すでにセンパイたちに捕らえられているんだろうけど……」
言いさした彼女は、初めて相手から視線を外した。
わずかに間を置いた後、燎子はこんなことを呟いた。
「……そもそも、あの日私のバイトが長が引いたのだって、オカシイと言えばオカシイ。……もし、それもセンパイたちの仕組んだことだとしたら……」
ゴクリと、葉月が唾を呑むのがわかった。彼女の面には明確な恐怖──これ以上衝撃的な事実を知ることへの怯えが、見て取れた。
──しかし、探偵の推理は止まらない。
「…………そう、か……。……やっぱり、彼の正体は──」




