インタールード④:白の記憶
──七年前。
白い壁のその家にはささやかな庭があり、敷地を囲むブロック塀の角の辺りに、小さなブランコが設置されていた。ロープと木材で造られた、手作り感満載の遊具だ。
一つしかないその座席には、小さな子供が腰下ろしており、浮かない顔で前後に揺れている。一見して女児か男児かわかり辛い見た目であり、膝の上にレッサーパンダのぬいぐるみを乗せている為、知らない人間が見たら間違いなく前者だと断ずるだろう。
「どーしたの? 宰。何かあった?」
白いセーラー服姿の少女が、その子の横から声をかけた。夏季用の制服と同じ色をした髪が、陽光を反射して眩しい。
しゃがんで目線を合わせながら、彼女は小首を傾げた。すると、その子供──宰は俯いたまま、
「またバカにされた……『ふるがみくんって、ほんとは女の子なんでしょ?』って──クラスの女子から」
「あらら。それで落ち込んじゃったのか。──それくらい可愛いってことなんじゃない? 褒めてくれたんだよ、きっと」
「そんなの知らないもん。かわいいなんていわれても、うれしくないし……」
「うーん、そうかそうか。小学生にも悩みはあるんだねぇ」
体を起こした少女は、シミジミと頷いた。
「でも大丈夫っ! きっとお姉ちゃんくらいの年齢には、ちゃんと男らしくなってるって!」
「ほんとに……?」
「ホントホント。──だからほら、それくらいでくよくよしないのっ。“シルキーちゃん”も言ってるでしょ? 『苦しい時こそ笑顔が大事! しょっぱい涙もペロリと舐めちゃえ』って」
「う、うん……!」
宰は控えめながらも、はにかむように笑った。
それから、姉のことを見上げ、
「そういえば、にてるよね。はじめおねえちゃんと、シルキーちゃん」
「そりゃあそうだよー。だって、私本当はシルキーちゃんだもんっ」
「えぇー、うそっぽい」
「嘘じゃないって。ほらっ、シルキーちゃんと同じ顔でしょ?」
そう言って、彼女は口の端から舌先を出し、ウインクして見せた。幼い弟はよほどおかしかったようで、キャッキャと甲高い笑い声を上げる。
「今日だって、“ミュータンス”を退治してて来たんだからっ。すっごい強敵だったんだよ? 攻撃を食らっちゃって、こうドバァッと血が出──ぶっばぁぁっ⁉︎」
──言いかけた矢先、彼女は本当に血を噴き出した。
それも、地面に置いたケチャップに飛び乗るかのような、スサマジイ勢いで。
「お──おねえちゃん⁉︎」
まるで返り血のようにその飛沫を浴びた弟は、暫時間を置いてから、喫驚した様子で叫けぶ。
「おねえちゃん」は真っ赤に染まった手で口許を抑えながら、
「……だ、大丈夫、大丈夫。これくらい、いつものことじゃん。──それより、ね、私もすかさず反撃してね」
「そんな話してるばあいじゃないよ! 元からしんじてないし、もうやすんでて!」
「え〜、でもここからがいい話──ウッ」
「だから、どうしてムリするの⁉︎」
宰は心配そうな、それ以上に呆れような顔で、ぬいぐるみを抱いて立ち上がった。
「ごめんごめん。……取り敢えず、今日はおとなしく寝とこうかな」
そして、踵を返した彼女は、そこでようやく気付いたらしい。
──その人物が、庭の入口に佇立していることに。
それを見た「はじめ」は、一瞬驚いたような表情をしてから、ペコリと会釈した。
「あ、どうも……」
「…………」




