インタールード②:鉛の記憶
──七年前。
そこは冷徹たい鉛色に閉ざされた、窮屈な空間だった。壁も床も天井も──何もかも薄汚れた鉛色をしたその部屋は、まさしく独房。窓すらなく、出入り可能な扉は一つだけだ。
家具らしき物と言えば、奥の壁に沿って置かれた寝台くらいで、その上には一人の女が腰かけていた。彼女こそが、この鉛の獄の主なのである。
囚人は白い装束を纏っており、それと同じ色の髪を長く伸ばしていた。一見して年齢のわかり辛い風貌であり、端正な顔立ちをしている。ツキヌクように白い肌や酷く華奢な体付きは、気を抜けばすぐにでも霧散てしまいそうなほどあえかだった。
「…………あの人は、死んだのね……」
何もない壁の方に視線を向けた横顔で、彼女は尋ねた。
対して、その人物は答える代わりに、ある品を取り出して、彼女の横に放り投げる。
シーツの上に音もなく落ちたのは、表面が爛れたオイルライターだった。
「……そう」彼女はそれを一瞥すると、軽く目を伏せ、「……あなたが殺したのね……」
「…………」
「……いいわ。こうなることは、わかっていたもの……あの人と、初めて逢った時から……」
再び瞼を開いた女の目は、どこか遠い過去を見つめているようだった。
「……そのライター……勝手に処分しておいて。私が持っていても意味がないわ。──どうせ、明日には死ぬのだから」
全てを悟りきった──あるいは諦めきったような静かな声を、その人物は黙って聞いていた。女の肌や髪、そして着物の白は、鉛の縛に抗うには、あまりにもか弱い。
「…………」
その人物は寝台に歩み寄ると、ライターを取り上げ、上着にしまい入れた。
そして、ツカツカと冷たい靴音を響かせ、鉛の看守の如き足取りで、部屋を出て行く。
──バタンッと閉じられたドアの中心で、髑髏の装飾が笑っていた。




