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マジュウ・コラージュ  作者: 若庭葉
破──儀式編
20/46

訪問②

「ああ。どうだ? 驚いたかー?」

「そ、そりゃあ、まあ……」

「そうかそうか。──じゃあ、そう言うことだからなっ! よし燎子、もう一戦しようじゃないか。もちろん、他のゲームでもいいぞー?」


 観月はすでにコントローラーを握り直しており、さっさとキャラクターセレクトの画面に戻る。

 少年は一瞬虚を突かれたように言葉を失った後(のち)、


「……えっ? ……終わり⁉︎」

「まあ、私らも詳しく知ってるわけじゃねーからな。あとは燎子さんにでも聞いてくれ」


 と、次女の方がアッサリ答えた。彼女たちは本当に、もうそれ以上この話を広げる気はないらしい。


(ま、丸投げ⁉︎)


 呆れると言うよりもはや焦っている様子の宰を他所に、姉たちはスッカリ平常運行に戻っていた。

「……その前に、煙草休憩を……」と言いつつ、燎子は脱いでソファーの背にかけてあったジャケットに手を伸ばす。

 瞬間、「いいけど外でな?」と、葉月から待ったをかけられた。


「…………じゃあもう帰る。他にも気(、)に(、)な(、)る(、)こ(、)と(、)はあるけど、一応用も済んだし」

「お前は相変わらず自由だなー。本当に帰るのかー?」


 観月が尋ねた時には、すでに燎子は立ち上がり、ジャケットを羽織っていた。そして、「何か文句でも?」と言うように、小首を傾げる。


「さすがに唐突すきるでしょ。まだたいして遅い時間でもねーし。──なんなら、一杯やって来ましょうよ」


 ニヤリと口角を吊り上げた葉月は胡座を掻いたまま、あまりにもオヤジ臭いジェスチャーをしてみせた。

「……いや、でも……」と、探偵は無表情ならも返事に窮しているらしい。

 すると、その隣りの長女が、妹と同じ笑みを湛え、


「遠慮することはないぞ。こんなこともあろうかと、ちゃんといい日本酒(さけ)を用意しておいたからな」


 観月はいつの間にか、「姉冥利」と言う妙な銘柄のラベルが貼られた一升瓶を、両手に抱えていた。見た目的に言えば法律に引っかかりそうな絵面である。


「……ソンナ物どこから」

「んー? 普通にソファーの裏にずっと置いてあったぞー? ──とにかくそこに座り直しなさい。呑みニケーションといこうではないかー」


 一見して無邪気な笑顔を見つめた燎子は、やがて渋々と言った風に腰を下ろした。

 と、同時にさりげなくキッチンに向かっていたらしい葉月が、彼女の前にコップを差し出す。大儀そうにそれを受け取ると、今度は長女の方が、嬉々として清酒を注(つ)いだ。

 コップの中の透明な液体を、燎子は見慣れぬ食べ物を前にした犬のように、ジッと見下ろす。観月たちは相変わらず楽しそうに、「さあさあグイッと」などと囃し立てていた。


「あ、あの、篝さん、あんまり無理しない方が……」


 控えめに止めようとした宰だったが、その声は届かず──むしろ、彼の言葉にムキになった可能性すらある──、意を決したらしい彼女は、とうとうコップを呷るのだった。

「あっ」と声を出した少年の目の前で、燎子の白い喉はゴクゴクと動き、唇の端から零れた一筋が伝い落ちた。

 無謀にも中身を一気に飲み干してしまった彼女は、口許を手の甲抑えつつ、「ヒック」と息を吐き出す。早くも顔を桜色に蒸気させており、色っぽくもあるが、目が据わっている為むしろ怖い。


「おおっ、いい呑みっぷりだなー。ほらっ、おかわりだぞー。ワハハハハ」


 何気に先ほどよりも多く酒を注ぎながら、観月は自分でも瓶をラッパ飲みする。見た目に反して、相当な酒呑みのようだ。

 また、葉月は葉月でいつの間にやら缶ビールを開けており、片膝を立てて座りつつゲラゲラと笑っていた。


「宰ぁ、お前も呑めよぉ。ほらほら」

「いや僕まだ未成年だし」

「いいじゃねえか、そんなカタイことは。それとも何? もしかして姉ちゃんの言うこと聞けねえの? イッチョ前に反抗期気取りなの? なぁ」


 完全に絡み酒状態の葉月は反対側の宰の方までやって来て、隣りに座りつつ缶ビールを彼の頬に押し付けた。


「ちょっ、やめて葉月姉(ねえ)。本当、いろんな方面から怒られちゃうから」

「へーきだって、チョットくらい。なんたって、今は夏(、)休(、)み(、)なんだからよぉ」


 彼は慌てて両の掌(てのひら)を見せたが、その程度のことで抵抗できるはずもなく……。

 宰の口は──実際に呑んだか否か想像に任せるが──、アルミ缶によって強引に塞がれた。

「くっ」と苦しげに呻いた宰は、ソファーに倒れ込み手を着いて体を支えた。打ち上げられた人魚のような姿勢で口許を庇う様子は、「敗者の図」以外の何物でもない。


「……さ、さすがに酷いよ二人とも! 篝さんだってお酒弱いのに」


 そう言いながら顔を上げた彼は、途端に続く言葉を呑み込んだ。

 少年のすぐ目の前──流れた髪から香りが伝わって来そうなほど近くに、燎子の蒸(、)気(、)し(、)た(、)能(、)面(、)ヅ(、)ラ(、)があったのだ。

 いつの間にか宰に覆い被さるような体勢になっていた彼女は、何故かジッと彼のことを見つめている。この突然の奇行に対し、少年はやはり乙女のように、頬を赤く染めた。

 アルハラ姉妹の二人も、少々面食らった様子で視線を交わす。


「か、篝さん……⁉︎」

「……………………お(、)か(、)し(、)い(、)」視線を合わせたまま、ダシヌケに彼女は言った「……な(、)ん(、)で(、)……」

「あっ、あのっ、いったい何を……」

「……確(、)か(、)め(、)な(、)い(、)と(、)」

「へ?」


 直後、あろうことか燎子は彼のズボンに手をかけ、それを脱(、)が(、)し(、)に(、)か(、)か(、)っ(、)た(、)ではないか!


「ちょっ、えっ──な、なんで⁉︎ や、やめてください!」


 悲鳴を上げた宰は、慌てスウェットを手で押さえたが、膂力と神速(はや)さで彼女に叶うはずもなく。


「いやぁぁぁ⁉︎」


 姉妹が止めに入る隙も与えず、燎子は問答無用で彼のズボンをずり下ろしてしまった。

 ト(、)ラ(、)ン(、)ク(、)ス(、)と(、)共(、)に(、)。


「……………………」


 彼女は無駄に澄んだ瞳で、暫時そ(、)こ(、)に(、)あ(、)る(、)物(、)を凝視した。


「……………………」


 が、ほどなくして、一段と顔を赤くさせたかと思うと、すぐさま両手で覆い隠し、そのままカーペットの上に倒れ込んでしまう。三人が唖然とした様子で見つめる中、子供のように体を小さく丸めた彼女は、唐突に、


「…………じめて、見た……」


 そう呟いたきり、マンジリたりとも動かなくなった。


「お、おーい、燎子さん……?」


 床な膝を着けた葉月が声をかけつつ肩を揺すったが、反応はない。


「……ダメだ、寝てやがる」

「本当に何がしたかったんだこいつは」


 姉妹が呆れた様子で会話する中、宰はシャツの裾で大事な部分を隠しつつ、いそいそと下着を履き直す。


(……さ、さすがに、これは大目には見れそうにないです!)


 ※


 それから、さらに何時間か後のこと。

 古神家のリビングの灯りは消え、今は二つの寝息が聞こえて来るのみだった。

 そして、引き戸の扉で区切られた隣りのダイニングでは、場所を移して飲み続ける姉妹の姿が。


「……観月姉(ねえ)はさぁ」手酌で日本酒を注ぎ足しつつ、「朔(はじめ)さん──宰の本当の姉ちゃんに会ったことあんだろ?」

「まあなー。それがどうかしたのか?」


 酒の入ったコップを小さな両手で持ちつつ、長女(あね)は聞き返す。


「どんな娘(こ)だったんだよ」

「……そんなこと聞いてどうするんだ?」

「いいだろ、別に。ちょっと気になったんだよ」

「そうだなぁ……取り敢えず、宰にソックリだな。髪の毛の色以外は」

「……それで?」

「後は……まあ、普通にいい娘(こ)だったぞ。明るくて、優しい女の子って感じで」

「……ふうん」

「……不安なのか? ちゃんと宰の姉をできているのかって」

「うるっせぇな、そんなんじゃねえよ。……ただ、あいつの家族はもう私らだけだから」


 彼女はそう言うと、手の中の物に視線を落とす。わずかに揺らいだ小さな水面が、暖色の照明を反射した。

 ──ほどなくして顔を上げた葉月は、真剣な表情で向かいの席を睨む。


「つうか、私はまだ昨(、)日(、)の(、)こ(、)と(、)許したわけじゃねえからな」

「……すまなかったよ。もう何度も謝っただろ?」

「そー言う問題じゃねえんだよ。……私に無断で宰を」言いかけた彼女は、内容を変えたようだった。「とにかく! もう変な隠しごとはすんなよな! 特に、あいつが傷付くようなことは!」

「……ああ。わかった。約束するよ」


 小さく笑った観月は、乾杯し直すようにコップを差し出した。妹の方はまだ機嫌が収まっていない様子であったが、それでもすぐに腕を伸ばす。

 コツンと小気味よい音が、夜中のダイニングに響いた。

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