↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後、空き教室の3センチ  作者: 三日月
第一部:①放課後の不干渉条約

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/51

第五話:隠れ家の訪問者?

僕と涼風瑠愛(すずかぜるあ)の「放課後の不干渉条約」が始まってから、二週間が過ぎた。

特別棟の二階、突き当たりにある『旧・第一資料室』。

ここは誰にも邪魔されない僕たちだけの秘密基地……のはずだった。

「……ねえ、黒木くん」

カリカリとノートに文字を走らせていた僕に、瑠愛が低く緊張した声をかけてきた。

顔を上げると、瑠愛は本を閉じ、すりガラスの付いた木製の扉をじっと見つめている。

廊下から、バタバタという足音が近づいてきていた。

それも、一人や二人じゃない。運動部か何かのアホみたいな大声まで聞こえてくる。

「おい、ここ開いてんぞ!」

「マジ? サボり場所にちょうどよくね?」

「……っ」

瑠愛の顔からサッと血の気が引くのが分かった。

クラスで「高嶺の花」として孤立している彼女だ。もし男子生徒たちに踏み込まれ、僕と二人きりでこんな場所にいるところを見られたら、明日からの学校生活でどんな噂を立てられるか分からない。

何より——この静かな居場所を、荒らされたくなかった。

足音が扉のすぐ手前で止まる。ガチャリ、と真鍮のドアノブが倒れる音が響いた。

「(こっち!)」

僕は咄嗟に瑠愛の手首を掴み、部屋の隅にある大きな木製本棚の陰へと引きずり込んだ。

「ん……っ!?」

瑠愛の小さな悲鳴を殺すように、もう片方の手で彼女の口元を優しく覆う。

直後、キーッと嫌な音を立てて扉が開いた。

「うわ、ホコリ凄っ! なんだここ、ただの物置じゃん」

「なんだよー、期待させんなって。戻ろうぜ、ジュース買ってさ」

二人の男子生徒が雑に室内を覗き込み、すぐに扉を閉めて足音は遠ざかっていった。

「…………ふぅ」

安堵の息を吐き、僕は手元に意識を戻した。

そして、自分が仕でかした状況のヤバさに気づいて凍りついた。

(……やばい、近すぎる……!)

本棚と壁の狭い隙間。

僕は瑠愛を庇うように押し押しにする形で、彼女を抱きすくめる格好になっていた。

僕の腕の中に、すっぽりと収まっている瑠愛。

見上げれば、息が触れ合いそうな距離に彼女の顔があった。大きな瞳が驚きで揺れていて、長い睫毛が細かく震えている。僕の手はいまだに彼女の柔らかい唇を覆っていた。

「……あ、ご、ごめんっ!」

慌てて手を離し、弾かれたように距離を取ろうとしたが、背後は壁だった。

逃げ場のない狭い空間で、僕の顔は火が出そうなほど熱くなる。

「ごめん涼風さん! 咄嗟だったから……怪我とか、してない!?」

必死で謝罪する僕を、瑠愛はじっと見つめていた。

彼女の顔は、僕以上に真っ赤に染まっている。胸元に添えられた彼女の指先が、制服の生地をキュッと強く握りしめていた。

「……怪我は、してない……けど」

瑠愛は震える声で呟き、ぺたんとその場にしゃがみ込んでしまった。

膝に顔をうずめ、赤くなった耳だけを覗かせている。

「……心臓、壊れるかと思った……」

「っ……本当にごめん!」

「そうじゃない……っ」

膝の間から、消え入りそうな声が漏れる。

「黒木くんが……急に引っ張るから……」

瑠愛はちらりと上目遣いで僕を見つめると、恨めしそうに、でも少しだけ泣きそうな瞳で小さく口を尖らせた。

「……手、すっごく温かかった……」

その言葉の破壊力に、今度は僕の心臓が破裂しそうになった。

侵入者は去り、部屋には再び静寂が戻ってきた。

けれど、狭い本棚の隙間に残った二人の熱気と、高鳴るふたつの鼓動は、いつまでも鳴り止まなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。