↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後、空き教室の3センチ  作者: 三日月
第二部:①過保護な妹たちと甘すぎる秘密の条約

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/51

第三十八話:疑惑の朝食と、覗く真実

「お兄ちゃん、今朝はなんだか頑(かたな)くなに首元(くびもと)を隠してるよね?」


朝日(あさひ)が燦々と差し込む我が家のダイニングルーム。


食卓(しょくたく)の中央(ちゅうおう)で箸を止め、じーっと俺の喉元(のどもと)を睨みつけてきたのは、長女の愛陸(あいり)だった。短め(みじかめ)の黒髪を揺らし、ぷくーっと頬(ほほ)を膨らませながら、俺の着ている(きている)制服の襟(えり)へと鋭い視線を注いでいる。


今日の俺は、家の中であるにもかかわらず、学校の学ラン(制服)の第一ボタンを一番上まで完璧に(かんぺきに)留め、さらにホック(留め具)までガチガチに固定していた。昨日の放課後、旧第一資料室《きゅうだいいちしりょうしつ》の暗闇で涼風瑠愛(すずかぜるあ)につけられた、あの小さく甘い痕跡(キスマーク)を隠すためだ。


「な、なにがだよ。今朝はちょっと風が冷えるから、風邪を引かないように襟(えり)を立ててるだけだろ」


「ウソだね!」


向かい側に座っていた次女の愛空(あいら)が、波打つ(なみうち)ロングヘアをバサッと揺らしながら身を乗り出して(みのりだして)きた。


「今の時期に風邪対策なんて滑稽(こっけい)すぎるよ! 愛空ちゃんの『お兄ちゃん異常検知システム』によると、そのホックの奥には絶対に……絶対に妹に見せられない『何か』が隠されてる!」


(っ……! この妹たちの勘の鋭さは本当に異常だ……!)


喉の奥に固形物(こけいぶつ)が詰まったような感覚を覚えながら、俺は冷や汗を必死で押し殺して味噌汁(みそしる)を啜った。


その時、俺の右隣(みぎとなり)から静かに近づいてきたのは、三女の愛海(まなみ)だった。


「お、お兄様……。私……お兄様の首元を温めるために、温かい(あたたかい)蒸しタオルをお持ちしました……。ですから、そのお洋服のボタンを……解いていただけますか……?」


愛海は大きな両手で、湯気(ゆげ)の立ち上るタオルを大切そうに抱えながら、湿り気(しめりけ)を帯びた瞳(ひとみ)で俺を見上げて(みあげて)くる。その愛くるしい(あいくるしい)表情の裏には、「お兄ちゃんの不審な点をすべて剥ぎ取りたい」という強い束縛(そくばく)の意思が宿っていた。


「あ、ありがとう愛海……! でも本当に大丈夫だ! タオルは自分でやるから!」


「ダメ!!」


愛陸がバンとテーブルを叩いて立ち上がった。


「そこまで頑なに(かたなに)拒むなんて余計に怪しい! 愛空、愛海! お兄ちゃんを押さえつけなさい! 今すぐ首元のホックを解除して検分するわよ!」


「了解! お兄ちゃん、大人しく年貢の納め時だよ!」


「お、お兄様……お許しください……! 私、お兄様の秘密を知りたいんです……!」


「待て! やめろお前たち! 飯の最中に何やってんだ!!」


突如(とつじょ)として巻き起こった、我が家の不毛な(ふもうな)捕獲劇(ほかくげき)。


愛陸が前から俺の手首を掴み、愛空が後ろから肩を抱きすくめ、愛海が必死に俺の制服の裾(すそ)を引く。三人の小柄な(こがらな)妹たちによる怒涛の(どとうの)連携プレイに、俺は絶体絶命(ぜったいぜつめい)の危機に陥っていた。


(まずい……! ホックを外されたら、瑠愛のつけたキスマークが一発でバレる……! そうなったら今度こそ妹たちが暴走して、瑠愛に危害が及ぶかもしれない……!)


俺が全身の筋肉に力を込め、必死で(ひっしで)抵抗していたその時――。


ピコン、とポケットの中でスマホが小さく通知音(つうちおん)を奏でた。


「……ん? お兄ちゃん、スマホ鳴ったよ?」


愛陸が眉根(まゆね)を寄せ、拘束する力をわずかに緩めた。その隙を逃さず、俺は手首を振りほどいてスマホを取り出した。


画面に表示されたのは、涼風瑠愛(すずかぜるあ)からのメッセージ。


『……黒木くん、おはよう。もう家の近くの角(かど)で待ってる。……首元の痕、妹さんたちに見つかってない……?』


「っ……!」


そのメッセージを見た瞬間、昨日の放課後の濃密な(のうみつな)記憶(きおく)が脳裏に蘇った。


俺の膝の上に乗り、萌え袖の手を首元に回し、甘い吐息を漏らしながら唇を重ねてきた彼女の姿。


「お前たち! 俺はもう学校に行く! 鍵の施錠は頼んだぞ!」


「あっ! 逃げた! お兄ちゃん待ちなさいってば!!」


「追いかけるよ愛陸姉ぇ! 愛海、靴履いて!」


俺は妹たちの制止(せいし)の声を振り切り、鞄をひっつかむと、弾かれたように(はじかれたように)玄関から脱出したのだった。


◇◇◇


通学路の曲がり角。


朝の清々しい空気(くうき)が漂うブロック塀の影(かげ)に、彼女は立っていた。


涼風瑠愛(すずかぜるあ)。


朝日を浴びてキラキラと輝く細い髪。ダボついた制服の萌え袖(そで)を前でキュッと握りしめ、琥珀色(こはくいろ)の瞳を不安そうに揺らしている。


俺の姿を捉えた瞬間、彼女の表情がパッと華やか(はなやか)に華やいだ。


「……黒木くん!」


瑠愛は足音(あしおと)もなく駆け寄ってくると、そのまま俺の胸元へと飛び込んできた。


距離にして、ゼロ**センチ**。


「っ……! 瑠愛、誰かに見られる――」


「……嫌。……無事で、よかった……」


瑠愛は俺の学ランの生地を萌え袖(そで)の手できつく掴むと、首元のガチガチに留められたホック(留め具)をそっと指先で撫でた。


「……ちゃんと、隠してくれたんだね……。私の……痕跡(しるし)……」


「隠さないと家を出られなかったんだよ……。今朝も妹たちに囲まれて、危うく剥ぎ取られるところだったんだからな」


俺が苦笑いしながら呟くと、瑠愛は耳たぶ(みみたぶ)をぽっと朱色(しゅいろ)に染め、上目遣い(うえめづかい)で俺を見つめ返した。


「……ふふ。……妹さんたちに、見られなくて……残念な気もするけど……」


「おいおい……」


「……でも、黒木くんが私のために必死で(ひっしで)隠してくれたのは……すごく、嬉しい」


瑠愛はつま先立ち(さきだち)になると、俺の耳元へ唇を近づけ、甘く(あまく)湿った吐息を吹きかけてきた。


「……ねぇ、黒木くん。……今日の放課後も……あの資料室で……上書き、させてね……?」


「っ……」


学園の「氷の姫君(こおりのひめぎみ)」が魅せる、あまりにも直球で甘い束縛(そくばく)。


角の向こうからは、俺を追いかけてくる三つ子(みつご)の妹たちの騒がしい足音が聞こえ始めていた。


過保護な妹たちの密着包囲網と、一線を越えて甘さを増す瑠愛との「秘密(ひみつ)の放課後」。二つの熱量に挟まれながら、俺の青春はどこまでも過熱していくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。