↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後、空き教室の3センチ  作者: 三日月
第二部:①過保護な妹たちと甘すぎる秘密の条約
PR
38/51

第三十七話:宵闇の痕跡と、秘密の帰路

資料室(しりょうしつ)の窓の外は、すでに濃紺(のうこん)の宵闇(よいやみ)に包まれていた。


窓硝子を透かして差し込む街灯(がいとう)の頼りない光だけが、二人の重なり合う(かさなりあう)影を薄暗い床の上に浮かび上がらせている。


「……ん……っ……」


何度目かの口づけ(くちづけ)が離れた瞬間、涼風瑠愛(すずかぜるあ)の口元(くちもと)から甘い(あまい)吐息が漏れた。


俺の膝の上に跨がるように腰掛けたまま、彼女は萌え袖(そで)に包まれた両手を俺の胸元にギュッと押し当て、肩(かた)を小さく上下させて息を整えている。琥珀色(こはくいろ)の瞳(ひとみ)はとろりと潤み、耳たぶ(みみたぶ)どころか首筋までが熱い(あつい)朱(あか)に染まっていた。


「……瑠愛……。もう、こんな時間だ……」


俺が低く囁くと、瑠愛は萌え袖(そで)の先端で俺の下唇(したくちびる)をちょんちょんと優しく撫でてきた。指先を通して伝わる彼女の体温(たいおん)は、驚くほど熱い(あつい)。


「……嫌。……もう少し……このままで、いたい……」


「気持ちは嬉しいけどな……本気で夜になっちまう。妹たちも……心配してまた捜索隊を出すかもしれないし」


「……妹さんたちの話……今は、しないで」


瑠愛は少し拗ねた(すねた)ように眉根(まゆね)を寄せると、俺の首元に額(ひたい)をごしごしと擦り付けた。


距離にして、ゼロ**センチ**。


「……黒木くんの……バカ。私のこと……こんなに甘やかす(あまやかす)から……私、どんどん我儘(わがまま)になっちゃうのに……」


「我儘なんて言った覚えはないぞ。俺だって……瑠愛といる時間は、特別(とくべつ)なんだから」


そう言って俺が彼女の華奢な背中(せなか)をそっと抱きしめ返すと、瑠愛の体が嬉しそうにぴくりと跳ねた。


「……ずるい。そういうこと……サラッと言うの、反則……」


瑠愛はゆっくりと顔を上げると、自分の制服の襟元(えりもと)を萌え袖で小さく整えた。だが、その動作の途中、彼女はふと何かを思い出したように動き(うごき)を止め、俺の顔を至近距離(しきんきょり)で凝視してきた。


「……ねぇ、黒木くん」


「ん? どうした?」


「…… mirror(鏡)……ある……?」


「鏡? スマホのインカメラならあるけど……」


俺がスマホを取り出そうとすると、瑠愛は萌え袖(そで)の手で俺の手首(てくび)をキュッと制した。そのまま、彼女は自分のスマホを取り出し、画面を鏡代わりに俺の首元(くびもと)へと向けた。


「……見て」


「え……?」


画面に映し出された自分の首元を見て、俺は息をのんだ。


制服の第一ボタンを外した俺の喉仏(のどぼとけ)のすぐ下に、小さく淡い(あわい)赤紫(あかむらさき)の痕跡(こんせき)が残っていたのだ。


「っ……!? 瑠愛、これ……!」


「……さっき。……黒木くんが……夢中になってる時に……つけちゃった……」


瑠愛は照れ(てれ)を隠すように上目遣い(うえめづかい)で俺を見つめながら、口元(くちもと)に悪戯っぽい(いたずらっぽい)笑みを浮かべた。


「……これで、帰ったら……妹さんたちにも、わかるよ。……黒木くんが……誰のものか」


(や、ヤバすぎるだろこれ……!!)


「瑠愛お前……! これ妹たちに見られたら、本当にただじゃ済まないぞ!? 愛陸は絶叫するし、愛空は尋問を始めるし、愛海なんて本気で泣き出すぞ……!」


「……いいの。……本当のこと、だもん」


瑠愛は満足そうに小さく胸を張ると、ようやく俺の膝の上から降り(おり)て、トントンと制服のスカートを払った。


「……さ、帰ろ。……一緒に、校門まで行こ?」


「……第一ボタンしっかり留めて、学ランの襟を立てて帰るよ……」


俺が冷や汗を拭いながら立ち上がると、瑠愛は嬉しそうにくすくすと笑い、俺の萌え袖(そで)の手をしっかりと握り締めてきた。


◇◇◇


静まり返った旧校舎(きゅうこうしゃ)の階段(かいだん)を下り、二人は夜の帳(とばり)が降りた校庭へと踏み出した。


街灯の光がぽつり、ぽつりと点在する夜の校内。昼間の喧騒が嘘のように静まり返った空間で、重なり合うふたつの足音(あしおと)。


誰にも見られない夜の通学路。


瑠愛は俺のポケット(ぽけっと)の中に自分手を滑り込ませ、恋人繋ぎの形で指を固く絡めてきた。


「……黒木くん」


「ん?」


「……私、明日からも……『芳香剤の匂い』の女の子で……いてあげる」


「からかうなよ……。あの言い訳を思いつくだけで寿命が三年縮んだんだからな」


「ふふ……でも、嘘じゃないでしょ? 私の匂い……黒木くんに、たくさんついてるもん」


瑠愛は俺の肩に、自分の頭をちょこんと預けてきた。


歩くたびに伝わる彼女の柔らかい熱(ねつ)と、夜風に乗って漂う甘いシャンプー(香気)の香り。


首元の痕跡(こんせき)という爆弾(ばくだん)を抱えながらも、俺の心は彼女への愛おしさ(いとおしさ)で満たされていた。


◇◇◇


我が家の玄関(げんかん)の前。


「……じゃあ、ここでお別れだね」


瑠愛が名残惜しそうに指を解いた。距離にして、**あと三センチ**。


「ああ。瑠愛、気をつけて帰れよ」


「うん。……あ、黒木くん」


瑠愛は去り際、つま先立ち(さきだち)になると、俺の頬(ほほ)にチュッと素早い(すばやい)口づけ(くちづけ)を贈った。


「……お家に入ったら、LINEしてね。……おやすみ、私の黒木くん」


朱色に染まった顔を隠すように萌え袖(そで)で口元を覆い、彼女は夜の住宅街へと駆け去っていった。


その後ろ姿(うしろすがた)を見送り、俺は深く深呼吸をしてから、覚悟を決めて我が家の扉を開けた。


ガチャリ。


「……ただいま」


「おかえりなさい、お兄ちゃん!!!!」


扉を開けた瞬間、居間から猛スピードで飛び出してきた愛陸(あいり)、愛空(あいら)、愛海(まなみ)の三つ子(みつご)たち。


「遅いよ! 芳香剤の掃除にどんだけかかってんのさ!」


「お兄ちゃん! 愛空ちゃんが首元を検分(けんぶん)してあげるから、ちょっと上着脱ぎなさい!」


「お、お兄様……おかえりなさいませ……!」


首元のボタンを一番上まで固く留め、学ランの襟を立てた俺を、過保護な妹たち(いもうとたち)の鋭い視線(まなざし)が包み込んでいく。


瑠愛との甘く危険な「秘密(ひみつ)の放課後」と、過保護な妹たちとの過熱する日常。俺の第二部は、ますます激しい熱量を帯びて加速していくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。