第二十五話:冬休みの幕開けと、秘められた誓い
「よし、これで提出……っと」
終業式の放課後。
担任の説教が終わると同時に、教室中から一斉に歓声が湧き上がった。
鞄の中にプリント類を適当に押し込み、生徒たちが弾んだ足取りで教室を飛び出していく。
明日から、待ちに待った冬休みが始まるのだ。
誰もが友人たちと予定を確かめ合い、賑やかに去っていく中で、僕は一人静かに鞄のチャックを閉めた。
視線を廊下側に向けろと、影すら殺した少女が通り過ぎていくのが見えた。
瑠愛だ。
彼女は僕と目を合わせることなく、ただすれ違いざまに、制服のポケットから小さな紙切れを床に落としていった。
まるでスパイの連絡手段みたいな手慣れた動作。
僕は周囲の生徒たちが談笑に夢中になっている隙を突き、自然な動作でその紙片を拾い上げ、手の中に隠した。
下駄箱で靴を履き替え、校門を出て少し歩いた角で、そっとその紙を開く。
『いつもの資料室で待ってる。三つ子に見つからないように来て』
相変わらずの丁寧文字。
僕は胸の鼓動を落ち着かせるように一つ深呼吸をすると、引き返して誰もいなくなった裏校舎へと向かった。
旧・第一資料室の重いドアを開けると、西日が差し込む部屋の真ん中で、瑠愛が静かに佇んでいた。
すでにお気に入りの萌え袖姿になっていて、僕の姿を見るなり、ぱあっと表情を明るくする。
「湊……! よかった、ちゃんと伝わったんだね」
「まあね。でも、あんな派手な落とし方したら、他の奴に見られるかと思ってヒヤヒヤしたよ」
「ふふ、大丈夫。湊なら絶対に気づいてくれるって信じてたから」
瑠愛は嬉しそうにくすりと笑うと、机の上に置いてあった手帳を僕に見せるように広げた。
そこには、明日からの冬休みのマス目が、色鮮やかなペンで細かく埋め尽くされていた。
「見て、湊。これ、私なりに考えた防衛策なの」
「作戦……?」
「うん。三つ子の行動パターンを分析してみたの。陸ちゃんは午前中に部活の自主練、空ちゃんは午後に友達と買い出し、海ちゃんは塾の冬期講習……だから、二人が安全に会えるスキマ時間はここ!」
瑠愛が自信満々に指し示したのは、カレンダーに赤丸で囲まれた特定の日時だった。
僕の妹たちの行動をそこまで完璧に把握しているとは、恐れ入るというか、少し戦慄ってしまうレベルだ。
「……すごすぎるよ、瑠愛。そこまで調べてくれたんだ」
「当然だよ。……だって、湊と会えない時間なんて、私には耐えられないもん」
まっすぐに僕を見つめてくる、真剣な目元。
照れ隠しもなく自分の好意をストレートにぶつけてくる彼女に、僕の心臓は跳ね上がり、顔が熱を帯びていくのが分かった。
「……僕だって、瑠愛と離れてるのは寂しいよ。だから、絶対に約束は守る」
「……うん!」
瑠愛は満足そうに頷くと、そっと僕との距離を詰めてきた。
爪先立ちになり、自分の手を僕の頬へと伸ばしてくる。
ひんやりとした指先が僕の肌に触れ、そのまま耳の後ろへと回された。
「……湊、冬休みが終わる頃には……もっと、私たちの関係、進んでるといいな」
「え……?」
「……なんでもない。秘密!」
耳元で甘く囁かれ、瑠愛は悪戯っぽく微笑みながら離れていった。
夕闇が迫る資料室で、僕たちの特別な冬が、ついに静かな産声を上げた。
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