第二十三話:秘密の冬休み計画と、不意打ちのぬくもり。
期末テストの返却も終わり、校内はすっかり「あとは終業式を待つだけ」という浮ついた空気に包まれていた。
放課後の旧・第一資料室隠れ家。
ガタついた木製机の上に、僕と瑠愛るあはそれぞれの手帳スケジュール帳を広げている。
「ねえ、湊みなと。冬休み初日の二十三日クリスマスイブ前だけど……ここ、時間間あけられそう?」
瑠愛るあが、細い指先で自分の手帳のマス目をトントンと叩く。
彼女の書き込みはすごく几帳面で、黒と赤のボールペンで綺麗に整理されているのに対し、僕のスケジュール欄は部活の予定と家庭用のメモで埋まった、なんとも雑多ざったな状態だ。
「うん、その日なら大丈夫。愛陸三つ子たちが『友達とクリスマスパーティーの買い物に行く』って言ってたから、家を抜け出しやすいんだ」
僕が答えると、瑠愛るあの瞳がぱあっと明るくなった。
学校では決して見せない、可憐かれんで子供っぽい素の笑顔。それだけで僕の心臓は跳ね上がる。
「本当……? じゃあ、二人わたしたちでどこか遠出してみない?学校の近所ここじゃ、いつ三つ子陸海空たちに見つかるか分からないし……」
「そうだね。隣町の大きな駅ビルショッピングモールとかどうかな? あそこなら人も多いし、知り合いに見つかる確率リスクも低いと思う」
「うん! そこに行きたい! ……あのね、実は湊みなとと一緒に見てみたいお店イルミネーションがあったの」
瑠愛るあは嬉しそうに頷き、身を乗り出してきた。
その拍子に、彼女の髪すずから漂う薫る甘いシャンプーの匂いが一気に鼻腔をくすぐる。
窓の外では冷たい冬の風木枯らしが吹き荒れていて、古い木枠の窓ガラスがカタカタと音を立てて揺れていた。部屋の中も少しずつ冷気ひやけが底冷えしてきている。
「う……ちょっと、寒いひえるね」
瑠愛るあが小さく身を縮め、自分の両腕をさすった。
萌え袖になった制服セーターの袖口から覗く指先が、少しだけ赤くなっている。
僕は自分の首元マフラーを外すと、立ち上がって彼女の背後に回った。
「瑠愛るあ、これ使って」
「え……あ、湊みなとの……?」
温もりの残る編み物マフラーを彼女の細い首元にふわりと巻き付けてあげる。
すると、瑠愛るあは驚いたように目を丸くしたあと、マフラーの端を両手でキュッと握りしめ、そのまま顔を半分埋めてしまった。
「……湊みなとの匂いがする」
「えっ」
「……すごく温かいあたたかい。……ありがとう」
マフラーの陰から、上目遣いうるんだひとみで僕を見つめてくる瑠愛るあ。
恥ずかしさを隠すように小さく吐息息を漏らす彼女の姿が、あまりにも愛おしくて、僕は思わずその華奢な肩からだをそっと抱き寄せていた。
「湊みなと……っ?」
「……寒そうだったから。これで、もう少し温かくぬくもりなるだろ?」
「〜〜〜〜っ! もう……反則NGだよ、そういうの……」
僕の胸に顔を押し付けた瑠愛るあの手が、僕の背中に回される。
密着ちかした体温と、重ね合わせた鼓動リズムが、冬の冷たさを完全に拭い去っていく。
冬休みが始まる前の、極小わずかな秘密静寂。
僕たちの距離かんけいは、季節の深まりとともに確実に熱を帯びていた。




