第二十一話:解答用紙の余白と、赤点回避の誓い
期末テスト初日。
シャープペンの芯が紙を滑るカリカリという音だけが、教室内に重苦しく響いていた。
一時間目の数学。黒板の上の時計の針は、残り時間あと五分を指している。
(……やばい、問四の計算が合わない……!)
僕は冷や汗を流しながら、解答用紙の余白で必死に途中式を書き直していた。
ふと視線を上げると、窓際の席に座る瑠愛の姿が目に入る。
背筋をピンと伸ばし、すらすらと迷いなくペンを動かす横顔は、相変わらず凛としていて美しい。学年トップを争う彼女にとって、この程度のテストは造作もないのだろう。
(……足引っぱりたくないな)
テスト前、資料室で彼女が「湊の勉強、私が教えてあげる」とノートを広げてくれた時のことを思い出す。
彼女の指先が僕のノートを指すたびに、甘い香りがして全く集中できなかった……なんて口が裂けても言えない。
(絶対、いい点取って瑠愛に褒めてもらうんだ……!)
最後の三十秒、執念で導き出した数字を解答欄に滑り込ませるのと同時に、キーンコーンカーンコーンと終了のチャイムが鳴り響いた。
「はい、そこまでー。一番後ろの生徒は解答用紙を集めてください」
教員の声とともに、教室のあちこちから溜息と絶望の呻き声が漏れ出す。
僕も大きく息を吐き出し、机に伏せそうになった。
その時、教卓へ解答用紙を出しに向かう瑠愛が、僕の机の横を通り過ぎた。
周囲の目を盗み、彼女はすれ違いざまに僕の机の端へ、小さな折りたたまれた紙切れをサッと滑り込ませた。
(えっ……!?)
心臓が跳ね上がる。
周りの生徒たちがテストの手応えについて騒ぎ始める中、僕は手元でそっとその紙切れを開いた。
そこには、瑠愛の綺麗な文字でこう書かれていた。
『数学、お疲れ様。湊なら大丈夫って信じてる。放課後、いつもの場所で待ってるね』
末尾には、小さく手書きのうさぎのイラスト。
(……ズルいって、こんなの)
一瞬で緊張が吹き飛び、胸の奥がじんわりと熱くなる。
周りには誰も気づかれていない、僕たちだけの秘密のメッセージ。
テストはまだ始まったばかりだけど、この放課後があるなら、どんな難問だって乗り越えられる気がした。




