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駅構内の液晶にリルド&シリウスの映像が流れ始めて数日が経過する。
一度父さんたちと一緒に見に行くことになった。
改札を抜けずに済むよう、駅員さんに事情を話して構内に入れてもらう。
すると——
パネルから映し出される映像。
サビの、二人で揃ってマイク形に手を広げて歌ってる映像が流れていた。
『こんにちわ、灰にまみれた新しい今日
再生の産声は 耳を劈く叫び
二人で描く 剥き出しの臓器の地図
ようやく見つけた 僕らの、終焉の居場所』
「うわぁ……」
「うわぁ……」
二人揃って同じ声が漏れる。
大きなパネルに、自分たちの顔と声が流れている光景。
何度見ても慣れない。
「父さん、これずっと流れてるの?」
「ああ、始発から終電までな」
(一日中!?)
(一日中!?)
改札を通る人たちが、ちらっとパネルを見上げて、また歩き出す。
子供連れのお母さんが、子供を抱き上げてパネルを指さしていた。
「ほら、見て、お兄ちゃんたちだよ」
「おにいちゃーん!」
その子と目が合ってしまった。
手を振ると、ぱあっと顔が輝いて振り返してくれる。
(あ、なんかこれ……いいかも)
胸の奥が、じんわりとあったかくなる。
シリウスはというと、パネルを真顔で見上げていた。
「……俺、こんな顔して歌ってんのか」
「真剣な顔だよ。かっこいいよ」
「……うるさい」
また耳が赤くなっている。
(こいつ、本当に分かりやすいな)
父さんはなぜか目元をハンカチで押さえていた。
「父さん?泣いてる?」
「……いや、泣いてない。目に何か入っただけだ」
(絶対泣いてるじゃん)
シリウスがぼそっと、
「親父、感動屋だからな」
「うん……知ってる」
なんだか、こっちまでつられそうになる。
映像が一度終わって、また最初から流れ始める。
冒頭の僕の掛け声。
『みんな、息を止める準備はできてるか?』
「うっ、自分の声が外で流れるの、慣れない」
「俺もだ」
駅の構内に、自分たちの声が反響する。
通り過ぎる学生さんが、こっちと画面を見比べて、ぎょっとしている。
「あれ、本物……?」
「ほんとだ、本人がいる!」
ざわざわし始めた。
父さんが咳払いをして、
「よし、長居すると人だかりになるな。そろそろ帰ろう」
「うん」
「……ああ」
名残惜しいような、ほっとしたような気持ちで、僕らは駅を後にした。
帰り道、商店街を歩きながら、シリウスがぼそりと言った。
「……あの映像さ」
「うん」
「悪くなかったな」
「……うん」
それ以上は、お互い何も言わなかった。
でも、僕らの中で何かが少しだけ変わった気がした。
甲斐多町に来てくれた人が、あの映像を見て、ちょっとでも気になってくれたら。
甲斐多町って、いい町だなって思ってくれたら。
それだけで——もう、十分だった。
父さんが前を歩きながら、振り返らずに言った。
「お前ら、いい顔して歌ってたぞ」
「……うん」
「父さん、ありがとう」
父さんは、片手をひらっと挙げただけで答えた。
商店街の夕方の光が、三人の影を長く伸ばしていた。
みなと雑貨店のシャッターを開けて、店の中に入る。
いつもの場所、いつもの匂い、いつもの僕らの居場所。
駅のあの映像と、ここでの日常と。
その両方が、今の僕らの生活なんだ。
「リルドー、夕飯の買い物リスト書いてくれ」
「は、はい!」
父さんに呼ばれて、僕は慌ててエプロンをつける。
シリウスはレジ周りの片付けを始めていた。
いつもの夕方が、いつものように過ぎていく。
でも、ふと窓の外を見ると——
商店街を歩く人の中に、明らかに観光客っぽい人がちらほら。
たぶん、駅のあの映像を見て、ここまで足を運んでくれた人たちだ。
(ありがとう、来てくれて)
心の中で、そっと呟いた。
甲斐多町の夕暮れ。
平穏とは少し違うけど、悪くない時間が、今日も流れていた。




