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リルド&シリウス〜アイドル活動開始します〜  作者: みなと劉


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7

 翌日。

 朝ご飯を食べ終えて、僕とシリウスと父さんは甲斐多町駅に向かった。

 駅前に着くと、もうすでに工事の人たちが作業をしていた。

 大きな看板が地面に寝かされていて、その上に——

「うわっ……」

「……でかいな」

 僕とシリウスの顔が、等身大よりさらに大きく印刷されていた。

 白い衣装に身を包んで、ちょっと斜めに構えたポーズ。

 あれは撮影の合間に撮られたやつだ。

「お、来たな兄弟!」

 工事現場から声をかけてきたのは鳩羽町長だった。

 ヘルメットを被って、なぜか作業着姿で。

「町長まで現場に?」

「ああ、せっかくの記念すべき設置だからな。立ち会いたくてな」

(記念って……)

「ほら、あっちにあるのが液晶パネルだ。あそこに二人のPVが流れることになる」

 町長が指さした先には、駅の改札横の壁に取り付けられる予定の大きなパネル。

 工事の人が慎重に位置を測っていた。

「あ、あの……これって、ずっと流れるんですか?」

「ああ、改札を通る人全員の目に入る位置だぞ!」

(ずっとって……毎日通学の人とか、見飽きないかな)

 シリウスはというと、看板の前で腕を組んで仁王立ちしていた。

「……ふっ」

「何笑ってんの」

「いや、こうして見ると、俺らもなかなかどうしてだなと」

「自画自賛!?」

「お前だって、写真の中で結構いい顔してんぞ」

「うっ……そういうのは、自分じゃ分かんないんだよ」

 ちょっと照れくさくて、目をそらした。

 すると、駅前を通りかかった人たちが立ち止まり始める。

「あれ、本物じゃない?」

「ほんとだ!」

 ざわざわとし始めた。

 町長がにこにこしながら手を上げて、

「みなさーん、ご紹介します!甲斐多町アイドルのリルドとシリウスです!」

(紹介しないで!!)

(やめてくれ町長!!)

 心の中で叫んでも遅かった。

 あっという間に人だかりができてしまう。

「シリウスくーん!」

「リルドくーん!」

「写真いいですか!?」

「サインしてください!」

 父さんは少し離れたところで、腕を組んでうんうん頷いている。

(父さん助けて!)

 目で訴えても、父さんは「頑張れ」と口の動きで返してくるだけだった。

 ひとしきり対応して、なんとか落ち着いた頃にはもうお昼前。

「はぁ……疲れた」

「ああ……」

 駅前のベンチに二人で座り込む。

 シリウスがぐったりと僕の肩にもたれかかってきた。

「リルド分補給……」

「またそれかよ」

 でも、今日は振り払わなかった。

 なんとなく、僕も疲れていたから。

「なあリルド」

「ん?」

「俺らさ、ちゃんとアイドルになってきてんのかな」

 シリウスがぽつりと言った。

「……どうだろ」

「町の人が喜んでくれるなら、それでいいかなって、ちょっと思った」

「シリウスがそんなこと言うの珍しいね」

「うるさい」

 肩にもたれた頭が、ぐりぐりと押し付けられる。

「……でも、僕も同じこと思ってた」

 空を見上げる。

 工事の音が、コンコンと響いていた。

 あの看板が立って、液晶パネルが動き出したら。

 甲斐多町は、もうちょっとだけ賑やかになるんだろうか。

「お、二人とも、こんなところに居たか」

 父さんが戻ってきた。

 手にはコンビニのレジ袋。

「ほら、お昼買ってきたぞ。家まで持たないだろ」

「父さん神!」

「あざーす!」

 ベンチでおにぎりを頬張る。

 駅前の風が気持ちよかった。

「そういえば父さん、グッズの打ち合わせってもう日程決まったの?」

「ああ、来週な。デザイナーの人が町に来るらしいぞ」

「デザイナー!?」

「缶バッジとかブロマイドとか、本格的にやるみたいだ」

 シリウスがおにぎりを口に含んだまま、固まっている。

「……本格的すぎないか?」

「町長の本気だな」

(鳩羽町長……一体どこまでやる気なんだ)

 お昼を食べ終わって、駅を後にする。

 振り返ると、看板を立てる作業がちょうど始まったところだった。

 クレーンが、僕らの顔をゆっくりと持ち上げていく。

「……立った」

「立ったな」

 駅前広場の真ん中に、僕らの巨大な看板がそびえ立った。

 通り過ぎる人たちが、次々と足を止めて見上げている。

 なんだか、不思議な気分だった。

(平穏はどこにもないけどさ)

(でも、これはこれで——)

「お兄ちゃん」

「ぶっ……外で言うな!」

「えへへ」

 シリウスの耳がまた赤くなる。

 父さんが横で笑っていた。

 甲斐多町の週末は、こんな風に過ぎていく。

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