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翌日。
朝ご飯を食べ終えて、僕とシリウスと父さんは甲斐多町駅に向かった。
駅前に着くと、もうすでに工事の人たちが作業をしていた。
大きな看板が地面に寝かされていて、その上に——
「うわっ……」
「……でかいな」
僕とシリウスの顔が、等身大よりさらに大きく印刷されていた。
白い衣装に身を包んで、ちょっと斜めに構えたポーズ。
あれは撮影の合間に撮られたやつだ。
「お、来たな兄弟!」
工事現場から声をかけてきたのは鳩羽町長だった。
ヘルメットを被って、なぜか作業着姿で。
「町長まで現場に?」
「ああ、せっかくの記念すべき設置だからな。立ち会いたくてな」
(記念って……)
「ほら、あっちにあるのが液晶パネルだ。あそこに二人のPVが流れることになる」
町長が指さした先には、駅の改札横の壁に取り付けられる予定の大きなパネル。
工事の人が慎重に位置を測っていた。
「あ、あの……これって、ずっと流れるんですか?」
「ああ、改札を通る人全員の目に入る位置だぞ!」
(ずっとって……毎日通学の人とか、見飽きないかな)
シリウスはというと、看板の前で腕を組んで仁王立ちしていた。
「……ふっ」
「何笑ってんの」
「いや、こうして見ると、俺らもなかなかどうしてだなと」
「自画自賛!?」
「お前だって、写真の中で結構いい顔してんぞ」
「うっ……そういうのは、自分じゃ分かんないんだよ」
ちょっと照れくさくて、目をそらした。
すると、駅前を通りかかった人たちが立ち止まり始める。
「あれ、本物じゃない?」
「ほんとだ!」
ざわざわとし始めた。
町長がにこにこしながら手を上げて、
「みなさーん、ご紹介します!甲斐多町アイドルのリルドとシリウスです!」
(紹介しないで!!)
(やめてくれ町長!!)
心の中で叫んでも遅かった。
あっという間に人だかりができてしまう。
「シリウスくーん!」
「リルドくーん!」
「写真いいですか!?」
「サインしてください!」
父さんは少し離れたところで、腕を組んでうんうん頷いている。
(父さん助けて!)
目で訴えても、父さんは「頑張れ」と口の動きで返してくるだけだった。
ひとしきり対応して、なんとか落ち着いた頃にはもうお昼前。
「はぁ……疲れた」
「ああ……」
駅前のベンチに二人で座り込む。
シリウスがぐったりと僕の肩にもたれかかってきた。
「リルド分補給……」
「またそれかよ」
でも、今日は振り払わなかった。
なんとなく、僕も疲れていたから。
「なあリルド」
「ん?」
「俺らさ、ちゃんとアイドルになってきてんのかな」
シリウスがぽつりと言った。
「……どうだろ」
「町の人が喜んでくれるなら、それでいいかなって、ちょっと思った」
「シリウスがそんなこと言うの珍しいね」
「うるさい」
肩にもたれた頭が、ぐりぐりと押し付けられる。
「……でも、僕も同じこと思ってた」
空を見上げる。
工事の音が、コンコンと響いていた。
あの看板が立って、液晶パネルが動き出したら。
甲斐多町は、もうちょっとだけ賑やかになるんだろうか。
「お、二人とも、こんなところに居たか」
父さんが戻ってきた。
手にはコンビニのレジ袋。
「ほら、お昼買ってきたぞ。家まで持たないだろ」
「父さん神!」
「あざーす!」
ベンチでおにぎりを頬張る。
駅前の風が気持ちよかった。
「そういえば父さん、グッズの打ち合わせってもう日程決まったの?」
「ああ、来週な。デザイナーの人が町に来るらしいぞ」
「デザイナー!?」
「缶バッジとかブロマイドとか、本格的にやるみたいだ」
シリウスがおにぎりを口に含んだまま、固まっている。
「……本格的すぎないか?」
「町長の本気だな」
(鳩羽町長……一体どこまでやる気なんだ)
お昼を食べ終わって、駅を後にする。
振り返ると、看板を立てる作業がちょうど始まったところだった。
クレーンが、僕らの顔をゆっくりと持ち上げていく。
「……立った」
「立ったな」
駅前広場の真ん中に、僕らの巨大な看板がそびえ立った。
通り過ぎる人たちが、次々と足を止めて見上げている。
なんだか、不思議な気分だった。
(平穏はどこにもないけどさ)
(でも、これはこれで——)
「お兄ちゃん」
「ぶっ……外で言うな!」
「えへへ」
シリウスの耳がまた赤くなる。
父さんが横で笑っていた。
甲斐多町の週末は、こんな風に過ぎていく。




