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シリウスSide
あいつから、まさかの「ドキドキ」が、俺関連と言ってくれて、本当に嬉しかった。
あいつのこと思うと、俺は守ってやりたいって気持ちになる。
そんな中での、あいつのあの言葉。
俺は、自分でも抑えられなくなっていた。
前は、風呂で頭を打ち付けてしまうくらいに、あいつのことが好きだ。
あの紫陽花祭りの後くらいから、もう、自分でも分かってた。
でも、言えなかった。
兄弟だし、いつ言えばいいのか、どう言えばいいのか、分からなかった。
そしてあの日の——
『ねえ? なんでこんなにドキドキするの?』
と、あいつは涙を滲ませ、次第にそれは泣き声になる。
俺は、どうしたらいいか分からずにいた。
病気か、って訊かれて、内心、めちゃくちゃ動揺した。
違う、病気じゃない。
でも、それを説明する言葉が、あの時の俺には見つからなかった。
その日は、出来ることだけをやることにした。
頭を撫でて、抱きしめて、不器用なまま。
そして、今日のあいつの発言に——
「最近さ……まだ、たまに、胸のドキドキ、あるんだけど」
「シリウスを見た時、とか」
その一言を聞いた瞬間、頭の中が、真っ白になった。
(俺の事で、ドキドキしてくれてんのか)
気づけば、ベッドに縫い付けていた。
あいつの手首を掴んで、覗き込んで。
自分でも、なんでこんな行動したのか、よく分からない。
でも、抑えられなかった。
耳元で、
『俺は……お前が好き』
言ってしまう。
言ってから、すぐ、ちょっとだけ後悔した。
順番、間違えたかもしれない。
もっと、ちゃんと、雰囲気作って言うべきだったかもしれない。
でも、もう、出ちまった言葉は、戻せない。
これは、ライクの好きではなく、ラブの好きだ。
あいつはまだ、そこは理解してないみたいだが。
無理もない。
あいつ、こっちの世界に来て、まだ、いろいろ知らないことが多い。
恋愛感情ってやつも、たぶん、まだ、ちゃんと体験したことなかったんだろう。
だから、自分の胸のドキドキの正体に、自分で気付けなかった。
(焦るなよ、俺)
あいつが「分からない」って言った時、俺は「分からなくていい」って言った。
あれは、本音だ。
無理に分かってほしいわけじゃない。
ただ、ちゃんと、伝えたかった。
俺の気持ちは、こっちの世界に来てから、ずっと、本物だったから。
あいつが「ありがとう」って言って、「嫌な感じじゃない、むしろ好きな感じ」って言ってくれた時。
あの瞬間、たぶん、俺の心臓も、ばくばくしてた。
顔には出さなかったけど、出さないように、必死だった。
(リルド、お前、自分がどれだけ俺の心臓やばくしてるか、分かってないだろ)
そして、いま、あいつは俺と一緒に寝てる。
俺のベッドで、俺と一緒に。
手を、そっと重ねたところまでは、よかった。
計画通り、というか、その場の流れとして、自然だった。
でも——
だがな!
(なんで足を俺の太腿に絡めてくるんだよ!?)
寝息が、すぐ近くで聞こえる。
あいつ、もう、半分寝かけてる。
無防備に、足を絡めてくる。
たぶん、本人は、全然意識してない。
いつも、布団に潜り込んでくる時の癖みたいなもんだ。
(こいつ……自覚なさすぎる)
ドギマギした感情とのぶつかり合い。
(俺……寝れるのかな?)
心臓が、また、ばくばく言ってる。
告白した側の余裕は、もう、どこにもない。
あいつの体温が、太腿のあたりから、じわじわと伝わってくる。
動いたら、起きるかもしれない。
でも、動かないと、こっちが先に死にそうだ。
(リルド分補給とか言ってる場合じゃねぇ……これは、リルド分過剰摂取だ)
心の中で、訳の分からないことを呟く。
ちらっと、あいつの寝顔を見る。
穏やかな顔。
ちょっとだけ、口が開いてる。
寝息が、すー、すー、と、規則的。
可愛い。
いや、可愛いとかじゃなくて——
(いや、可愛いわ、普通に)
訂正する余裕もない。
手を、そっと、あいつの頭に乗せる。
くしゃっと、髪を撫でる。
あいつは、もぞっと動いて、ちょっとだけ、更に擦り寄ってくる。
(うわ!?)
心臓が、もう、限界突破しそうになる。
でも、その擦り寄りが、めちゃくちゃ、安心しきってる感じで。
(こいつ……俺のこと、本当に信頼してくれてるんだな)
その事実が、胸に、じんわり染みる。
好きとか、ドキドキとか、そういう感情の前に、まず、信頼。
それが、あいつと俺の、一番の土台。
それだけは、絶対に、揺るがない。
明日は、撮影の最終日。
あいつと一緒に、ラストサビを歌う。
あの『君と一緒にどこまでも行こう』の歌詞を、もう、今の俺たちの本当の気持ちとして、歌える。
(ちゃんと、歌い切ろうな、リルド)
心の中で、そっと、約束する。
あいつの足が、まだ、太腿に絡んでる。
(……諦めるか)
もう、寝れる気がしない。
でも、なんでだろう。
眠れないのに、不思議と、満たされてる。
あいつの寝顔を見ながら、俺は、しばらく、起きていることにした。
あいつが、ちゃんと、安心して眠れるように。
俺が、ちゃんと、ここにいるように。
(好きだ、リルド)
声には出さない。
でも、心の中で、もう一度、確認するように呟いた。
明日からも、ずっと、お前の隣で——
そう思いながら、シリウスは、夜の静寂の中、リルドの寝顔を見守り続けた。




