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リルド&シリウス〜アイドル活動開始します〜  作者: みなと劉


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 その日の夜は僕は……シリウスのベッドで、今、何故か仰向けで、しかもシリウスに手首を掴まれ、僕自身はベッドに沈み、彼は僕を覗き込む感じになっている。

 どうしてこうなった。

 なんで僕は彼に組み敷かれるみたいになってるの?

 何かあった?

 少し前に遡る。

 彼とはベッドに腰掛けながら、明日の歌の撮影に向けて話していた。

「明日のラストサビ、『la la la』のとこ、もう一回確認しとく?」

「うん、そうしよっか」

 二人でメロディを小さく口ずさんで、タイミングを確認して。

 いつも通りの、練習のやり取り。

 でも、その時。

 なんとなく、つい、口から出てしまった。

「ねえ、シリウス」

「ん?」

「最近さ……まだ、たまに、胸のドキドキ、あるんだけど」

 声が、ちょっとだけ、小さくなった。

「あの夜みたいなやつじゃなくて……もっと、静かな感じの。でも、なんかこう……ふっと、くる感じの」

「……それ、いつ来る?」

「シリウスを見た時、とか」

 言ってから、気付く。

 あ、言ってしまった。

 でも、もう、遅い。

 そして彼は、僕の手首を掴み取ると、僕をベッドに縫いつける。

(え?)

 あっという間のことで、気付いたら仰向けで、シリウスが僕を覗き込む形になっていた。

 ベッドが、ぎし、と軋む。

 シリウスの顔が、すごく近い。

 呼吸が、止まりそうになる。

 心臓が、ドクン、と一回、大きく跳ねた。

 耳元で、

「俺は……お前が好き」

 静かな声だった。

 でも、はっきりと聞こえた。

 部屋の中の空気が、全部、止まったみたいだった。

「……えっ」

 声が、掠れる。

 シリウスの顔を見ようとするけど、近すぎて、表情が上手く読み取れない。

 でも、シリウスの耳が、真っ赤なのは、分かる。

 いつもより、ずっと、真っ赤。

「兄弟として、じゃ……ない?」

 恐る恐る、訊く。

 シリウスが、少しだけ沈黙する。

「違う」

 短く、でも、はっきりと。

 また、ドクン、と心臓が跳ねる。

(これが……これが、ドキドキの正体だったのかな)

 急に、全部が繋がる気がした。

 今朝の、にかっとした笑顔を見て感じたドキドキ。

 シリウスに撫でられる度に感じた、じわっとした熱さ。

 抱きしめられた夜の、ぎゅっとなる感覚。

 全部、全部——

 シリウスのせいだったんだ。

 シリウスが、手首を握る力を、ちょっとだけ緩めた。

「……嫌か?」

 その声が、いつものぶっきらぼうなシリウスじゃなくて。

 ちょっとだけ、怖がってるような、声だった。

 シリウスが、怖がってる。

 この人が。

 いつも僕を守ってくれて、頼もしくて、どっしりしてて、そのシリウスが。

 今、僕の返事を、怖がってる。

「……っ」

 喉の奥が、ぎゅっとなる。

 目が、じわっと潤む。

 なんで、泣きそうになってるんだろう。

 嬉しいのかな。

 たぶん、嬉しいんだ。

「……嫌じゃ、ない」

 掠れた声で、言う。

「嫌じゃ……ないけど……僕、まだ……よく、分からなくて」

 シリウスが、少しだけ、体を離してくれた。

 掴まれていた手首が、そっと、解放される。

 でも、シリウスはまだ、ちゃんと、そこにいる。

 覗き込む距離で、僕を見ている。

「分からなくて、いい」

「え?」

「今、分からなくていい。俺が待つ」

 シリウスの目が、まっすぐ、僕を見ていた。

 怖がってた表情は、もうない。

 いつものシリウスの目。

 でも、いつもよりずっと、真剣な目。

「シリウス……」

「ん」

「……ありがとう」

 それしか、言えなかった。

 でも、シリウスは、分かってくれたみたいで。

 ふっと、息を吐いて、僕の隣に寝転んだ。

 さっきの緊張が、ちょっとだけ、ほどけていく。

 二人で、天井を見上げる。

 しばらく、無言。

「シリウス」

「ん?」

「僕さ、シリウスのこと、考えると、胸がドキドキするのは、本当なんだ」

「……うん」

「それが何なのかは、まだ分からないけど」

「うん」

「でも……嫌な感じじゃない。むしろ、好きな感じ」

 シリウスが、天井を見たまま、ちょっとだけ、笑った。

「それで、十分だ」

「シリウス……」

「俺は待てる。お前が分かるまで」

 その言葉が、すごく、シリウスらしかった。

 不器用で、ぶっきらぼうで、でも、ちゃんと、僕のことを一番に考えてくれてる。

「ねえ、シリウス」

「ん?」

「今夜、ここにいてもいい?」

「……ここ、俺のベッドだぞ」

「分かってる」

「……まあ、いいか」

 シリウスが、ふっと、小さく笑う。

 その笑い声が、天井に、ふわっと溶けた。

 二人で、ベッドに並んで、天井を見上げる。

 シリウスの手が、僕の手の上に、そっと重なった。

 手首を掴む感じじゃなくて、ただ、そっと。

 触れるか触れないかの、でも、ちゃんと温度の伝わる、重なり方。

「……シリウス」

「ん?」

「明日の撮影、ちゃんと一緒に歌おうね」

「ああ、一緒に歌おう」

 いつかの歌詞を、思い出す。

『君と一緒にどこまでも行こう』。

 その言葉が、今夜の二人に、ぴったり重なる。

(これが……好き、なのかな)

 まだ、はっきりとは、分からない。

 でも、シリウスの手の温度が、ここにある。

 シリウスが、待ってくれると言った。

 それだけで、今は、十分。

 いつか、ちゃんと分かる日が来たら、その時に、ちゃんと、シリウスに伝えよう。

 目を閉じる。

 シリウスの手の温度を感じながら。

 甲斐多町の夜が、また、静かに更けていく。

 明日は、最後の撮影日。

 でも、今夜の僕には、もっと、大事なことが起きた。

 ちゃんと、覚えておこう。

 この夜のこと、シリウスの声のこと、手の温度のこと。

 胸に深く、刻み込んで——

 ゆっくりと、眠りに落ちていった。

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