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リルド&シリウス〜アイドル活動開始します〜  作者: みなと劉


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 本日の撮影が無事に終わり、僕たちは雑貨店へと向かう。

 夕暮れの商店街、足取りはちょっと軽い。

 雑貨店に着く頃には、みなとさんがシャッターを下ろしているのが見えた。

「みなとさーん」

 と言いながら、手を振る。

「おう!リルド、シリウス……撮影は終わったか?」

「うん。今日の分は無事に終わった。明日で一応最後らしい」

 らしいと付けたのは、もしトラブルが発生した時の為のためだ。

 ディレクターさんも「予定では」って言ってたから、絶対とは言い切れない。

「そうか。スーパー壬生に寄って買い物していくぞ」

「はーい」

 二人で頷いて、シャッターの鍵を確認するみなとさんの隣に並ぶ。

 スーパー壬生では、肉、野菜を中心に買う。

 豚肉、キャベツ、人参、お味噌、豆腐。

 いつもの買い物の流れ。

 みなとさんがお菓子のコーナーに向かう。

(普段食べないのに)

 あれ、と思って、シリウスと顔を見合わせる。

「好きなもの入れていけ」

「え?いいの?」

「いいのか?父さん」

「たまにはお前たちも食べたいだろ?」

 目をきらきらさせて、僕たちはこれにしようあれにしようと話し合う。

「リルド、これ美味しそうだぞ」

「シリウス、こっちのほうがいいよ」

 お互いにあれこれ手に取って、見せ合う。

 結果、僕はポテトチップスとクッキー。

 シリウスはおにぎりチップ系のお菓子とガムのアソートに、チョコレート菓子を入れていく。

 みなとさんが、

「これも入れていくぞ」

 と言って、チョコパイ系を入れていく。

(わあ……)

 目を輝かせる僕ら。

 なんだか、撮影お疲れ様会みたいになってる。

 みなとさんって、こういうところ、ちゃんと分かってる。

 レジで会計を済ませて、レジ袋を二人で分けて持つ。

 帰り道の道中、ちょっとだけ、足が浮き浮きしてる。

 お菓子の入った袋が、ガサガサと音を立てる。

 家までの帰り道。

「明日の歌の撮影頑張ろうね」

 シリウスに言う。

 夕焼け空の下、シリウスの横顔を見上げる。

 シリウスは、

「お……おう」

 と少しぶっきらぼうに言う。

 でも、その耳が、ちょっとだけ赤い。

(また赤くなってる)

 心の中で、ちょっと笑う。

 もう、いつものことだから、深く突っ込まない。

 家に帰り、戸棚に菓子類を入れ、料理の支度をする。

 みなとさんがエプロンを着けて、シリウスと僕も、それぞれの担当に移る。

 本日のメインディッシュは豚の生姜焼き。

 僕は生姜チューブと醤油、みりんを合わせて、それに生姜焼き用の豚肉を箸を使い、軽く漬け込むようにする。

 ボウルの中で、豚肉が調味液に絡んでいく。

 しゅわっと、生姜の香りが立つ。

 これくらいなら、自炊してた頃の記憶で、もう手が動く。

 みなとさんはお味噌とサラダを作り、味噌汁の鍋をかき混ぜながら、いつもの確認をする。

「うん……この味」

 また、それ。

 もう何度聞いたか分からないけど、毎回、ちょっと安心する。

 シリウスは、炊いた米に混ぜご飯のもとを入れて、しゃもじで混ぜていく。

 ふわっと、五目の香りが広がる。

「シリウス、それ何味?」

「五目だぞ」

「お、いいね」

 しゃっ、しゃっ、と、しゃもじを動かす音。

 手際よく、ご飯全体に混ぜご飯のもとが行き渡っていく。

 フライパンに油をひいて、漬け込んだ豚肉を並べる。

 じゅわっ、と良い音。

 香りが、キッチン全体に広がっていく。

 食卓に、美味しそうな香りが充満する。

「頂きます」

 三人で、手を合わせる。

 生姜焼きを一口。

 生姜の香りと、甘辛いタレが、お肉によく染みてる。

「うん、うまい」

「うまいな、リルド」

「シリウスの混ぜご飯も美味しいよ」

「だろ?」

 みなとさんのサラダと味噌汁も、いつも通り、しっくりくる味。

 三人で食べる夕飯、今日も、賑やかに、あったかい。

 食後、戸棚から、さっき買ったお菓子を一つずつ。

「お菓子は、デザートの後にしような」

「うん」

 みなとさんの言葉に、僕とシリウスは、嬉しそうに頷いた。

 ちょっとした楽しみが、ちゃんとそこにある。

 お風呂の支度をして、シリウスと二人で入り、髪の毛を洗ってもらう。

(気持ちいい)

 シリウスの手が、頭を優しくマッサージしてくれる。

 泡が、ふわふわと頭の上で踊ってる。

 あの時の胸の速い鼓動は、もうないけど。

 この理由は、きっと、いずれ分かる。

 そんな気がする。

 お湯で泡を流してもらって、頭がすっきりする。

「シリウス、ありがとう」

「いいって」

 順番を変えて、今度は僕がシリウスの髪を洗う。

 いつもの、お互いさまの時間。

 手を動かしながら、ふと、思う。

 今日の撮影、明日の撮影。

 シリウスと一緒に、歩いてきた、今までの全部。

 あの時感じたドキドキの正体は、まだ分からない。

 でも、別に、急いで分からなくてもいい。

 今は、こうやって、シリウスの隣にいられること。

 それだけで、十分。

「リルド、考え事?」

「ううん、なんでも」

「そうか」

 シリウスが、それ以上、突っ込んでこない。

 ただ、目を閉じて、僕に髪を洗わせてくれている。

 その信頼感が、なんだか、心地いい。

 湯船に浸かりながら、今日の撮影を振り返る。

「シリウス、今日の撮影、楽しかったね」

「ああ、楽しかった」

「明日も、楽しみだね」

「だな」

 お湯の中で、ちょっとだけ、肩が触れる。

 でも、もう、いつものこと。

 遠くもなく、近くもない、ちょうどいい距離。

「お風呂上がったら、お菓子食べよっか」

「お、いいな。何食べる?」

「僕、ポテトチップスから」

「俺、おにぎりチップからにするか」

 くだらない会話。

 でも、こういう時間が、なんだか、一番、僕ららしい。

 お風呂から上がって、リビングへ。

 みなとさんが、もうソファで、お茶を飲みながら待っていた。

「お、いいタイミングだ。お菓子、開けるか」

「うん!」

「やった!」

 三人で、お菓子を広げて、テレビをつけて。

 なんでもない夜。

 でも、こういう夜が、たぶん、一番、大事なんだろうな。

「あ、リルド、それ僕も欲しい」

「えっ、ポテトチップス?」

「ちょっとだけ」

「いいよ、はい」

 お互いの袋から、ちょっとずつ分け合う。

 みなとさんも、チョコパイを齧りながら、にこにこと僕らを見ていた。

「明日も頑張れよ、お前ら」

「うん」

「ああ」

 甲斐多町の夜が、また、優しく更けていく。

 ポテトチップスの音と、テレビの音と、三人の笑い声。

 なんでもない、でも、かけがえのない時間。

 明日、最後の撮影。

 ちゃんと、最後まで、歌いきろう。

 二人で、ちゃんと。

 そう、心の中で、もう一回、決めた夜だった。

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