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リルド&シリウス〜アイドル活動開始します〜  作者: みなと劉


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 朝起きると、シリウスは、すーすーという心地よい寝息を立てていた。

 窓から差し込む朝の光が、シリウスの頬をうっすら照らしている。

 まだ、起きる気配はない。

 僕は、彼の髪の毛をさらっと触り——

 柔らかい。

 昨日のお互いに洗いっこした髪が、ちゃんと、ふわっとしてる。

 そして、おでこに、軽くだけど、キスを落とす。

 ちゅ、と、小さな音。

 これがきっと、僕の今できる、好きという表明。

 昨日の夜、シリウスの気持ちは聞いた。

 でも、まだ、僕は、自分の気持ちに、ちゃんと言葉をつけられない。

 でも、これくらいなら、できる。

 これくらいの「好き」なら、今の僕にも、伝えられる。

 その直後——

 手首を掴み取るシリウス。

「へえ……」

 どきり。

 目が、開いてる。

 いつから起きてたんだろう。

 寝息は、まだ、すーすーって、聞こえてたのに。

(ね、寝たフリだった!?)

 心の中で叫ぶ。

 でも、もう、遅い。

 そのまま、彼の胸にダイブしてしまう。

 手首を引かれた反動で、ぼすっと、シリウスの胸に倒れ込む。

「……ぁ」

 小さな声と一緒に、耳元で、

「お前……こういうのは恥ずかしくないのな?」

(うわ……)

 顔が、もう、真っ赤になってる気がする。

 髪の毛を、わしゃわしゃされる。

 いつもの「リルド分補給」とは、ちょっと違う、からかうような撫で方。

「いや、これは……不意打ちだったから、つい……」

「不意打ちって、お前がやったほうだろ」

「うっ……」

 言い返せない。

 たしかに、そうだ。

 寝顔のシリウスに、勝手にキスしたのは、僕のほうだ。

「べ、別に、おでこなら、いいかなって……」

「……ふ」

 シリウスが、小さく笑う。

 その笑い方が、なんだか、すごく、優しい。

 それから——

 僕はシリウスの顔を見る。

 目が、合う。

 昨夜の真剣な目とは、ちょっと違う、でも、ちゃんと真剣な目。

 彼は、僕の頭を押さえ、ゆっくりと自分の近くに持っていく。

(……ぇ!?)

 頭の中が、真っ白になる。

(こ、これって……)

 ある程度、唇付近まで持っていくと——

 僕は慌てて、彼の顎を手で押してしまい、

「うぎ!?」

「……ぁ」

 二人とも、止まる。

 ベッドの上、変な体勢で固まる。

 手のひらで、シリウスの顎を、ぐいっと押し上げてしまった形。

(や、やってしまった……!)

 慌てて、手を離す。

「ご、ごめん……!」

「……いや」

 シリウスが、ちょっと顎をさすりながら、苦笑する。

「びっくりした……」

「ごめんね、咄嗟に……」

「いや、別に、いい」

 お互い、ちょっとだけ、気まずい沈黙。

 でも、その沈黙が、なんだか、嫌じゃない。

「リルド」

「な、なに」

「焦らなくていいって、昨日言っただろ」

「……うん」

「だから、今、急がなくていい」

 シリウスが、ちょっとだけ、優しい声で、そう言ってくれた。

 その言葉に、ほっとする。

 でも、なんだか、ちょっとだけ、申し訳なくもなる。

「シリウス、ごめんね……顎、押しちゃって」

「いいって。むしろ、ちゃんと、自分のペース守れてて、偉い」

「えっ、褒めてるの?」

「褒めてる」

 シリウスが、にかっと笑う。

 その笑顔に、また、心臓が、きゅんとなる。

(また、これだ……)

 でも、もう、この感覚の正体は、ちゃんと、知ってる。

 昨夜、シリウスが教えてくれたから。

「シリウス」

「ん?」

「あのね、おでこへのキスは……あれは、僕なりの『好き』のつもりだったんだ」

「……知ってる」

「えっ」

「分かるよ、それくらい」

 シリウスが、ちょっとだけ、照れたように、目を逸らした。

 耳が、もう、赤い。

「だから、嬉しかった」

「……うん」

 なんだか、僕も、ちょっとだけ、泣きそうになる。

 でも、悲しい涙じゃない。

 ちゃんと、伝わったんだなって、思える、嬉しい気持ち。

「シリウス、今度はちゃんと、唇には、まだ無理かもしれないけど」

「うん、いい。それでいい」

「でも、いつかは——」

「いつかは、な」

 シリウスが、優しく、頷いてくれる。

 その「いつかは」っていう言葉が、すごく、心地いい。

 急かされてない。

 でも、ちゃんと、未来を、一緒に見てくれてる。

「起きるか」

「うん」

 ベッドから起き上がる。

 シリウスが伸びをして、僕の頭を、もう一回、ぽんと撫でる。

「今日、最終撮影だな」

「うん。最後まで、ちゃんと歌おうね」

「ああ、もちろん」

 二人で、顔を見合わせて、ふっと笑う。

 着替えながら、シリウスが、ぽつりと言った。

「リルド」

「ん?」

「俺、お前のこと待つの、全然苦じゃないからな」

「シリウス……」

「だから、変に焦って、無理しなくていい」

 その言葉に、胸が、じんわり熱くなる。

(こんな優しい人を、好きにならないわけがない)

 まだ、自分の気持ちに、はっきりした名前はつけられないけど。

 でも、この温かさは、ちゃんと、本物だって、分かる。

 一階に降りる。

 みなとさんが、もう朝ご飯を作り始めていた。

「おはよう2人とも」

「おはよう、みなとさん」

「おはよう、親父」

 いつも通りの朝。

 でも、僕とシリウスの間には、昨日までとはちょっと違う、新しい何かが、ちゃんと、芽吹いていた。

 朝ご飯の準備を手伝いながら、ちらっとシリウスを見る。

 目が合うと、シリウスがふっと笑う。

 その笑顔に、また、心臓が、跳ねる。

 でも、もう、怖くない。

 この気持ちの名前は、まだ、はっきりとは分からないけど。

 いつか、ちゃんと分かったら、ちゃんと、伝えよう。

 今は、これくらいの「好き」で、十分。

 甲斐多町の朝が、また、優しく始まる。

 今日は、最終撮影日。

 シリウスと一緒に、最後まで、歌い切ろう。

 二人の気持ちを、ちゃんと、歌に乗せて。

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