表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リルド&シリウス〜アイドル活動開始します〜  作者: みなと劉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/30

15

 数日後。

 新曲のMVの話が出る。

「新曲?」

「そうです、『君と一緒に』という曲を提案したいと思いまして……」

 と言って新曲の譜面と、実際の楽曲の入ってるデモテープを聴いてみる。

 スタジオの隅、ヘッドホンを片耳ずつシェアして、シリウスと並んで座る。

 再生ボタンを押すと、優しいピアノの音から始まった。

 ゆっくりと、声が重なっていく仮歌。

(うわ……これ……僕とシリウスの事を歌ってる感じする)

 歌詞が、ふわっと心に入ってくる。

 毎日のなんでもない時間、隣にいてくれる誰か、ありがとうって言えない不器用さ。

 全部、僕らみたいだった。

 シリウスも、うん……うん……と曲を聴いて頷いている。

(シリウスはどう思ってるかは不明だけど……なんかこの曲いいな)

 ちらっと横を見ると、シリウスがめずらしく、何かをじっと考え込むような顔をしていた。

 いつものぶっきらぼうな表情じゃない。

 ちょっとだけ、優しい目をしてた。

「それでですね……今回の新曲はこの衣装を着てもらいたいと思いまして」

 出された衣装は、互いに白を基準とした衣装だった。

(真っ白だ!)

 この間のMVの衣装とは違い、互いに白の服で歌う……。

 兄弟だけど少し恥ずかしさもくる衣装であった。

 前のMVが黒と赤の重厚な雰囲気だった分、なおさらギャップが大きい。

 ふわっとしたシャツに、シンプルなパンツ。

 まるで、結婚式の——いやいや、考えないでおこう。

(兄弟だし、別に……うん)

 シリウスもなんだか衣装をじっと見て、無言になっていた。

 この新曲の撮影開始は1週間後である。

 その日は早めに帰宅して、いつもより静かな夕飯を食べた。

 父さんも、僕らの様子を察したのか、あまり多くは話さなかった。

 ただ、いつもより温かいスープを出してくれた。

 夜。

 お湯に浸かりながら、シリウスに、

「ね、ねえ?」

「ん?」

 シリウスはお湯に肩まで浸かって、天井をぼんやり見上げていた。

 いつもなら絡んでくるくせに、今日は妙に静かだ。

「あの……新曲の話なんだけど」

「ああ」

「あれ……どう思った?」

 声が、ちょっとだけ震えてしまう。

 なんでこんなに緊張してるんだろう。

 シリウスはしばらく天井を見つめたまま、ぽつりと言った。

「……いい曲だと、思った」

「うん」

「お前は?」

「僕も……いい曲だと思った」

 お湯がぽちゃんと跳ねる音。

 窓の外、夜の音。

 なんだか、いつもより距離が遠い気がした。

 でも、嫌な遠さじゃない。

「シリウス、あの歌詞さ」

「……ああ」

「僕ら、みたいだったね」

「……だな」

 シリウスがゆっくりとこっちを向く。

 お湯の湯気で、視界がちょっとぼやけてる。

「正直さ」

「うん」

「あれ歌うの、ちょっと照れる」

 シリウスが、ぽつりとそう言った。

 いつもの強気な感じが、全然ない。

 なんだか、いつもより素直なシリウスだった。

「えっ、シリウスでも照れるんだ」

「うるさい」

「いや、意外で」

「……お前と二人で歌う曲だぞ。あんな歌詞」

 頬がじわっと熱くなる。

 お湯のせいだけじゃない。

「……うん、僕も照れる」

「だろ」

「だね」

 二人で、なんとなく天井を見上げる。

 お風呂場の電気が、ぼんやりと滲んで見えた。

「衣装も……白だしさ」

「ああ」

「なんか、なんだろうね、あれ」

「……分かるけど、言うな」

「言ってないよ!」

「言いそうだったろ」

 シリウスがちらっとこっちを睨む。

 でも、耳がやっぱり赤い。

(こいつ、絶対僕と同じこと考えてる)

 心の中で、こっそり笑う。

 しばらく無言。

 お湯の音だけが、ちゃぷちゃぷと響く。

「でも」

「ん?」

「ちゃんと歌いたい、あの曲」

 シリウスがゆっくりとそう言った。

「……うん、僕も」

「ちゃんと、本気で」

「うん」

 なんだか、いつもより真剣な約束をした気がする。

 でも、嫌じゃなかった。

 むしろ、嬉しかった。

「シリウス」

「ん?」

「練習、ちゃんとしよっか」

「ああ、しよう」

 お湯から立ち上る湯気の中で、二人で頷き合う。

 なんだか、撮影日が楽しみになってきた。

 いつもの僕らとは違う、白い衣装の、優しい歌の僕らを。

 ちゃんと届けたいと思った。

 お風呂から上がって、脱衣所でタオルを巻く。

 シリウスはなぜか、今日は背中を向けたままだった。

「シリウス?」

「……着替え終わるまでこっち見るな」

「えっ、いつもは見ても何も言わないのに」

「……今日はだめだ」

(なんで!?)

(……いや、なんとなく、分かるけど)

 顔を背けて、自分の着替えを取りに行く。

 部屋着に袖を通しながら、ちらっと鏡を見ると、自分の耳も真っ赤になっていた。

(ちょっと、これ、撮影までもつかな……)

 二階の自分たちの部屋。

 布団に潜り込んで、目を閉じる。

 今日聴いた曲のメロディが、頭の中でぐるぐる回ってる。

 優しいピアノ、重なる声、僕らみたいな歌詞。

(一週間後、ちゃんと歌えるかな)

 でも、シリウスと一緒なら、きっと大丈夫。

 いつも、そう思える。

「シリウス、寝た?」

「まだ」

「ちょっとだけ、布団入っていい?」

「……今日はやめとけ」

「えっ、なんで?」

「……今日はやめとけ」

(なんで二回言うの!?)

 でも、その声がなんだかちょっとだけ、優しかった。

「……分かった、今日はやめとく」

「ああ、頼む」

「でも、明日は入っていい?」

「……お前なぁ」

 布団の向こうから、シリウスの小さな笑い声が聞こえた。

 なんだか、それで十分な気がした。

 甲斐多町の夜が、また優しく更けていく。

 一週間後の白い衣装と、優しい歌と、ちょっとだけ照れくさい僕らを思い浮かべながら。

 僕は、ゆっくりと眠りに落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ