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リルド&シリウス〜アイドル活動開始します〜  作者: みなと劉


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 時を少し戻して。

 甲斐多町紫陽花祭り、当日。

 特設会場ステージでのLIVE開催の日。

 まだ、僕らが「甲斐多町町おこしアイドル」になる前の話。

 あの日、僕らはただ「やってみたい」という気持ちだけで、この特設ステージに立った。

 町の人たちが見守る中、夕暮れの空の下で。

 ステージの袖で、シリウスと顔を見合わせる。

「リルド、緊張してるか?」

「めちゃくちゃ。シリウスは?」

「俺も。膝、ちょっと笑ってる」

「お互い様だね」

 二人で、ふっと笑う。

 マイクを握り直して、ステージへ。

 会場の真ん中、紫陽花がライトに照らされて青と紫に揺れている。

 町の人たちが、手作りのうちわや、スマホのライトを掲げて待ってくれていた。

(うわ、すごい)

 町中の人が、ここに集まってる気がする。

 司会の人がアナウンスを終えて、僕らの番。

 大きく息を吸って、最初の一節を歌い出す。

 まず僕が歌う。

根子川ねこがわわたる 風の音

 駅前通りに 朝が来る』

 ここで、シリウスに変わる。

『個性豊かな 商店街

 中央広場に 虹かかる』

 ここで二人で歌い出す。

『蛇子の杜には 鈴の音

 紫陽花揺れて 火が灯る

 初めましても いつもの君も

 ここにきたなら みな住人』

 この部分で二人でマイク片手に手を広げて歌う。

甲斐多町かいたちょう 甲斐多町

 あなたの夢も ここから始まる

 泣いたあの日も 今日の日も

 この町の風が 覚えてる』

『甲斐多町 甲斐多町

 小さな町で また会いましょう

 少し不便で 少し変

 おかえりなさい 甲斐多町』

 会場から、ぱあっと拍手と歓声が上がった。

 お年寄りから、子供から、商店街のおじちゃんおばちゃんまで。

 みんな笑顔で、手拍子を始めている。

(あ、これ……あったかい)

 胸の奥が、じんわりと熱くなる。

 シリウスの横顔をちらっと見ると、いつもより真剣な、でも、ちょっと嬉しそうな顔をしていた。

 ここからが僕たちの雑貨店のテーマを入れてみたよ、というパート。

 二人で、歌う。

『今日は雑貨店へ寄ろう

 みなと雑貨店へ

 素敵な出会いがきっとある

 そこでは奇跡が起こる

 きっと』

 会場の隅で、父さんが目を真ん丸にしてる。

(あ、父さん、まさか自分の店のテーマ入れるとは思ってなかったやつだ)

 ちょっとサプライズ。

 でも、すぐにくしゃっと笑って、こっそり拍手しているのが見えた。

(よかった、喜んでくれた)

『甲斐多町 甲斐多町

 あなたの夢が 今日も続くよ

 晴れたあの日も 雨の日も

 仲間がみんな 支えてる』

『甲斐多町 甲斐多町

 小さな町でまた会いましょう

 少し不便で 少し変

 おかえりなさい 甲斐多町』

 会場のボルテージが、ぐんっと上がる。

 町長が前列で、扇子を振り回しながら大はしゃぎしているのが見える。

(町長、扇子!?どこから出した!?)

 でも、なんだか町長らしくて、ちょっと笑ってしまった。

『あー、甲斐多町

 素敵な町

 甲斐多町

 駅前液晶では

 あの2人が映像でお出迎え』

 ……あれ、今思えば、この歌詞、未来予言じゃない?

 あの時はノリで入れた歌詞だったのに。

 まさか、本当に駅前液晶に僕らが映ることになるなんて、思ってもみなかった。

(あの日の僕、未来見えてたのかな)

『甲斐多町 甲斐多町

 あなたの夢が 今日も続くよ

 晴れたあの日も 雨の日も

 仲間がみんな 支えてる』

『甲斐多町 甲斐多町

 小さな町でまた会いましょう

 少し不便で 少し変

 おかえりなさい 甲斐多町』

 最後の「甲斐多町」で、二人同時にマイクを高く掲げる。

 会場が、わあああっと沸いた。

 拍手と歓声が、紫陽花の咲く広場いっぱいに響き渡る。

 子供が走り回って、おじちゃんが涙を拭いて、若いお姉さんがスマホで動画を撮ってくれて。

 町長が「アンコール!」と大声で叫んでいるのが聞こえる。

(アンコール用意してないってば、町長)

 ステージの袖に下がって、二人でハイタッチ。

「やったな、リルド!」

「うん!すっごい盛り上がった!」

 息が、まだ上がってる。

 顔も、熱い。

 でも、頭の中はすっきりと澄んでいて、なんだか不思議な感覚だった。

 あの日の盛り上がり——

 あれが、すべての始まりだった。

 翌日、町長と父さんが店の前で何やら話し込んでいて。

 そして、「甲斐多町アイドル活動」という、僕らの平穏が消えていく日々が始まったのだ。

(あの日、もしLIVEやらなかったら……)

(俺らの平穏は、まだあったのかな)

 二人で、雑貨店のレジ前で顔を見合わせる。

「……でも、後悔はしてないだろ?」

「うん、してない」

「だよな」

 シリウスがふっと笑った。

 僕も、ちょっと笑い返した。

 紫陽花祭りのあの日、僕らは知らなかった。

 あの日歌った歌が、駅前の液晶に流れることになるなんて。

 あの日歌った「みなと雑貨店」のテーマが、町の観光スポットの一つになるなんて。

 あの日歌った「あの2人が映像でお出迎え」って歌詞が、本当になるなんて。

 でも、不思議と——

 あの日の僕らの歌が、ちゃんと町に届いていたんだなって、今になって思う。

 町の人たちの笑顔、町長のはしゃいだ顔、父さんのこっそり拍手。

 全部、ちゃんと覚えてる。

 あの瞬間が、僕らの始まり。

 甲斐多町。

 少し不便で、少し変な、僕らの大事な町。

 あの日、僕らはこの町に、本当の意味で「おかえりなさい」を貰った気がした。

 雑貨店のレジ前で、二人で天井を見上げる。

 なんだかんだで、ここまで来た。

 平穏は遠くなったけど、その代わりに——

 町の人たちの笑顔と、ステージで響いた拍手と、未来予言みたいな歌詞と。

 いろんなものが、今の僕らを形作っている。

「シリウス」

「ん?」

「またあの歌、ステージで歌いたいね」

「……ああ、そうだな」

「フェスでも、歌おっか」

「いいな、それ」

 二人で、ちょっとだけ笑い合う。

 甲斐多町の今日も、優しく過ぎていく。

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