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(そういえば、そろそろシリウスが月のものの周期じゃないかな)
家の戸棚のナプキンストックを確認してみた。
毎月のことだから、切らさないように僕も気にするようにしている。
雑貨店からは少し離れたところにある、僕らの家。
二階の洗面所の戸棚を開けて、中身を確かめる。
「えーと……。ちゃんとあるね……?これなんだ?」
箱の中に、何か縦長のキット?らしきものがあった。
手に取ってみると、小さな筒みたいな形をしている。
(タンポン?)
名前は聞いたことがある気がする。
でも、使い方とか、いつ使うものかとか、全然知らない。
ま、いっか。
その場はスルーして、戸棚をぱたんと閉じた。
翌週の金曜日。
朝、家から二人で雑貨店に向かう。
商店街を歩きながら、シリウスの様子がちょっとおかしいことに気付いた。
歩くペースがいつもより遅い。
お腹のあたりを、時々さするような仕草もある。
(あ、これは……)
でも、雑貨店に着くまでは、何も言わないでおいた。
雑貨店の机で、
「うー……」
と項垂れているシリウスを発見。
お腹のあたりを押さえて、ちょっと前屈みになっている。
ああ、やっぱり来たんだな、と察する。
「お手洗い行ってきたら?」
「そうするわぁ……今日は念のために『タンポン』使うことにする」
……この間、僕が家の戸棚で見つけた箱のキットのやつだな。
「タンポン?」
「おう……タンポン……使うと結構長く使えて楽になるんだよ」
「使ったことないからわからないな」
「今度使ってみるといいぞ」
「そうですか」
「なんで敬語?」
「いや、なんとなく」
シリウスは、ふっと小さく笑って、よっこいせと立ち上がる。
お腹を押さえながら、奥のお手洗いのほうへゆっくり歩いていった。
数分後、戻ってきたシリウスは、さっきよりちょっと楽そうだった。
「大丈夫?」
「うん、まあ、初日はやっぱきついけどな」
「湯たんぽ、出しとこうか」
「頼む」
雑貨店の備品棚から、こういう時のために置いてある湯たんぽを取り出して、お湯を入れる。
ブランケットも、この前と同じやつ。
店のスタッフルームに常備しておいて正解だった。
「シリウス、奥の小上がりに座ってなよ。レジは僕がやるから」
「……いいのか?」
「この前の、お返し」
シリウスがちょっと困ったような顔をした。
「いや、別にお返しとか、そういうつもりで——」
「分かってるよ。でも、僕がそうしたいんだ」
「……サンキュ」
ぶっきらぼうにそう言って、シリウスは小上がりに移動した。
湯たんぽをお腹に当てて、ブランケットを膝にかける。
ふぅ、と小さくため息をついたのが、店の奥から聞こえた。
(やっぱ、辛そうだなぁ)
でも、こうやって順番に支え合えるのが、なんだか嬉しい。
お客さんが何人か入ってきた。
いつものように接客して、レジを打って、見送る。
ちらっと小上がりを見ると、シリウスは目を閉じてうとうとしていた。
(寝ちゃったかな)
ブランケットを、もう一枚そっとかけてあげる。
シリウスがちょっと身じろぎして、また穏やかな顔に戻った。
奥から父さんが出てきた。
「お、シリウスか」
「うん、今日来たって」
「そうか。お前、レジ任せて大丈夫か?」
「うん、僕がやるよ」
「助かるな。じゃあ今日は早めに店じまいして、家でゆっくりさせてやろう」
「うん、そうしよう」
父さんがシリウスをちらっと見て、優しく目を細めた。
それから店の在庫整理に戻っていった。
しばらくして、シリウスが目を覚ました。
「……あれ、寝てた?」
「ぐっすりだったよ」
「悪い、レジ任せきりで」
「いいって。今日は僕の番だから」
シリウスがゆっくり起き上がって、ブランケットを畳む。
「リルド」
「ん?」
「タンポンの話、本気で気になるなら教えてやるぞ」
「……うん、今度。ちゃんと聞きたい」
「了解」
なんてことない会話なんだけど、こういうのが大事な気がする。
お互いの体のこと、ちゃんと話せること。
助け合えること。
二人とも同じ体だから、分かることがある。
兄弟って、こういうのも含めて、兄弟なんだろうな。
夕方、いつもより少し早めに店じまい。
シャッターを下ろして、父さんと三人で家路につく。
雑貨店から歩いて十分くらいの、住宅街の一角にある僕らの家。
商店街の喧騒が遠のいて、住宅街の静かな道を歩いていく。
「シリウス、もうちょっとだから頑張れ」
「ああ……」
シリウスのペースに合わせて、ゆっくりと。
家に着いて、シリウスを先にお風呂に入らせる。
その間に、父さんは夕飯の準備。
今日はカレーらしい。
シリウスの好物。
(父さん、ちゃんと見てる)
いつもながら、感心する。
お風呂から上がったシリウスを呼ぶ。
「シリウス、ご飯できたよー」
階段の上から呼ぶと、シリウスがゆっくり降りてくる。
「お、カレーか?」
「うん、父さんが」
「……あの人、ほんと分かってんなぁ」
シリウスがふっと笑う。
その笑顔が、なんだかちょっとあったかい。
三人で食卓を囲む。
甲斐多町の夜が、また穏やかに始まる。
「シリウス、今度フェスの話、町長とちゃんと相談しないとな」
「ああ、そうだな」
「お前ら、本気で出るのか?」
父さんが、ちょっと真面目な顔で訊いてきた。
僕とシリウスは顔を見合わせる。
「……出たい、僕は」
「俺もだ」
父さんが、ふっと頷いた。
「分かった。じゃあ父さんも応援する」
それだけで、もう何も言わなくていい気がした。
父さんの「応援する」は、いつも本気だから。
ご飯を食べ終わって、シリウスはまた早めに布団に入った。
今夜は無理せず、ゆっくり休ませてあげよう。
二階の自分たちの部屋。
並べて敷いた布団に、シリウスが先に潜り込む。
「シリウス、明日も辛かったら、僕がレジやるからね」
「……ありがとな、リルド」
「お互い様、でしょ?」
「ああ、お互い様だ」
布団に潜って、目を閉じるシリウス。
その寝顔が穏やかなのを確認してから、僕も自分の布団に入った。
窓の外、住宅街の街灯がぼんやりと光っている。
商店街とは違う、静かな夜の音。
遠くで犬の鳴き声、近くで風が木を揺らす音。
ここが、僕らの帰る場所。
甲斐多町の夜は、こんな風に過ぎていく。
平穏とは少し違うけど。
でも、お互い様で支え合える兄弟がいて、見守ってくれる父さんがいて。
それだけで、十分すぎるくらい、僕らは幸せだった。




