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リルド&シリウス〜アイドル活動開始します〜  作者: みなと劉


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 あのMV作成から数日後。

 僕は帽子と軽めの服に一応は眼鏡を掛け、駅前のスーパー壬生に買い物に行く。

 最近、私服でうろうろしてると気付かれることが増えてきたから、ちょっとした変装だ。

 帽子を目深に被って、眼鏡をかけて、なるべく目立たないように。

(これでバレないはず……)

 スーパー壬生での買い物を終え、駅前改札付近を通る。

 ふと、駅構内の液晶パネルから音が漏れ聞こえてきた。

『神の死骸を踏み潰して 笑え!』

 と、聴こえ、

(ひええええww)

 となった。

 自分の歌声を、外で、変装中に聴く——なんとも言えない気分。

 しかも一番過激な歌詞のとこ。

 慌てて駅前から離れようとした、その時。

 すると、後ろから、

「あの……すみません」

 振り向くと、そこにはスーツ姿のサラリーマン風の男性がいた。

 年は三十代半ばくらい。

 手にはアタッシェケース。

 なんだかきちんとした感じの人だ。

「どうしました?」

「あの……みなと雑貨店へはどう行けば」

(あ、観光客じゃなくて、何かのお仕事かな)

「あ、そこに僕も行きますので一緒に行きましょう」

「よろしいのですか?」

「ええ、こちらです」

 商店街を一緒に歩きながら、男性は周りをちらちらと見ていた。

「初めて来られたんですか?」

「ええ、今日初めて。なんでも、最近話題のアイドルがいる町だと伺いまして」

(あ……町長関係の人かな?)

 心の中で、ちょっと身構える。

 でも、僕のことは気付かれていないらしい。

 変装、効いてるみたいだ。

「商店街、賑わってますね」

「最近はそうですね。少し前まではもっと静かだったんですけど」

「ほぉ……」

 男性はメモ帳を取り出して、何か書き込んでいる。

(やっぱり何かのお仕事の人だ)

 みなと雑貨店へと到着し、店内に入る。

 からんからん、とベルが鳴る。

「みなとさん、……買い物行ってきたよ」

「おかえり……またお前はそういう」

 父さんが帽子と眼鏡姿の僕を見て、呆れたように笑う。

「いいじゃんか……それとお客様」

 父さんの視線がスーツの男性に移る。

 ちょっと、目つきが鋭くなった気がした。

「え?どういう関係で?」

 男性はぺこりと頭を下げて、

「あの、こちらの商店街について、少しお伺いしたく」

 僕は帽子と眼鏡を外す。

「え!?え!?リルドくん!?本人!!」

 男性が、目を真ん丸にして固まった。

「あ、はい。本人です……」

「いやいやいやいや、まさか道案内してくれた方が!」

 大慌てで何度もお辞儀をしてくる。

「失礼しました!リルドさん!」

「いえいえ、こちらこそ……変装してたので分からなくて当然です」

 奥からシリウスが顔を出した。

「なんだ騒がしいな……ってお客さん?」

「あっ、シリウスさん!?本物!?」

 シリウスを見て、男性はさらに目を見開いた。

 もう、目玉が飛び出そうな勢いで。

「ええっと……あの、ご挨拶遅れました」

 男性はアタッシェケースから名刺入れを取り出して、父さんに名刺を差し出した。

「私、月村企画の月村と申します」

 父さんが名刺を受け取って、眼鏡をかけ直す。

「月村企画……」

「実は、甲斐多町アイドルのお二人について、お話があってこちらに参りました」

(お話)

(お話)

 シリウスと顔を見合わせる。

 なんだか嫌な予感と、ちょっとした期待が入り混じる。

 父さんは少し考えてから、

「まあ、立ち話もなんですから。奥へどうぞ」

「失礼します」

 月村さんが奥の応接スペースに案内される。

 僕とシリウスも、なんとなく一緒についていった。

 席につくと、月村さんは改めて頭を下げた。

「単刀直入に申し上げます。お二人に、地方アイドルフェスへの出演依頼をしたく、伺いました」

「「地方アイドルフェス!?」」

 また二人で叫んでしまった。

 父さんは腕を組んで、じっと月村さんを見ている。

「全国の地方アイドルが集まるイベントです。年に一度開催されておりまして、今年は秋に予定しております」

「ぜ、全国……」

「もちろん、強制ではございません。お二人と、町長のご判断にお任せします」

 月村さんは丁寧に、資料を取り出してテーブルに並べた。

 パンフレットには、過去の出演者の写真。

 みんな、ちゃんとした衣装で、ちゃんとしたステージで歌っている。

(うわぁ……これは、本格的なやつだ)

 父さんが、ちらっと僕とシリウスを見た。

「お前らはどうしたい?」

「えっ、僕らが決めるの?」

「お前らが歌うんだろ。お前らの気持ち次第だ」

 シリウスと顔を見合わせる。

 シリウスの目が、ちょっとだけ輝いてるのが分かる。

(……こいつ、やりたがってる)

 たぶん、僕もそうなんだろう。

 ちょっとだけ、心臓がどきどきしてる。

「……一回、町長に相談してから決めても?」

「もちろんです。ゆっくりお考えください」

 月村さんは、それからしばらく町や雑貨店の話をして、丁寧にお辞儀をして帰っていった。

 ドアが閉まって、ベルの音が止んだ瞬間。

「うわー!!」

 僕は思わず、その場で叫んでしまった。

「全国!?フェス!?嘘でしょ!?」

「落ち着けリルド」

「落ち着けるか!シリウスは平気なの!?」

「平気じゃねえよ、俺も内心パニックだ」

 シリウスもよく見ると、手が小刻みに震えていた。

「父さん、これ受けるの?」

「町長次第だな。明日にでも電話してみる」

「うわぁ……」

 その日の夜、お風呂で。

 シリウスはまた、いつもよりちょっと変な感じだった。

 月のものがそろそろ来る時期だからかな、と思いつつ。

「シリウス、もし……フェス、受けることになったらさ」

「ん?」

「ちゃんとできるかな、僕ら」

 シリウスはお湯の中で、しばらく黙っていた。

 それから、

「お前と俺がいるんだから、なんとかなる」

「シリウス……」

「俺だけじゃ無理でも、二人ならいける気がする」

 その言葉が、なんだか胸の奥にじんわり染みた。

 昔から、シリウスのこういうところに、僕は救われてきた気がする。

 お風呂から上がって、布団に潜り込む。

 明日、町長と話し合うことになるだろう。

 全国フェス——なんて、つい数ヶ月前までは考えもしなかった世界。

(甲斐多町から、全国へ)

 なんだか、すごく遠い場所のように感じる。

 でも、隣にシリウスがいて、後ろに父さんがいて、町には町長がいて。

 みんながいるなら——きっと、行ける。

 そう思えた、不思議な夜だった。

「シリウス、寝た?」

「まだ」

「……ねえ、たまにはお兄ちゃんって呼んでいい?」

「ぶっ……お前またそれかよ」

「えへへ」

 布団の向こうから、シリウスのため息が聞こえる。

 でも、なんだか嬉しそうなため息だった。

 甲斐多町の夜が、また静かに、優しく更けていく。

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