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翌週末。
毎月の月のものが来ていた。
(うう……今月は少し辛いな)
僕はたまにだけ月のものが辛い月がある。
シリウスは毎月らしいけど。
あと2週間か3週間くらいシリウスはあとだから、まだ大丈夫なのかな?
僕らは父さんの小説作品。
僕は『ひだまりのFランク冒険者のリルド』であり、設定上の僕は王都のギルドで元はSランク冒険者にまで上り詰めたつわ者で、その後Fランクにまた戻り隅っこに追いやられた依頼を基本こなすことに着手するようになる。
シリウスは『優しい世界のシリウスさん』っていう別の異世界の主人公らしい。
そこまでしか僕は知らない。
共通点は性が2つどちらもあること。
それだけ。
雑貨店の机で少しだけ、
「うーん……」
って唸ってた。
お腹のあたりが、じわっと重い。
いつもより辛い月は、こうやって座ってるだけでも息が浅くなる。
「リルド?」
奥から出てきたシリウスが、僕の様子に気づいて立ち止まった。
「……どうした、顔色悪いぞ」
「いや、ちょっと……月のもの」
「ああ」
それだけで、シリウスは全部理解したらしい。
経験者は察しが早い。
「今月、辛いやつか?」
「うん、ちょっとね」
シリウスは少し考えて、それから奥に引っ込んでいった。
しばらくして戻ってくると、手には湯たんぽとブランケット。
それから、温かいお茶。
「ほら、椅子変えるぞ。レジは俺がやる」
「え、いいの?」
「いいから座ってろ」
半ば強引に、店の奥の小上がりに移される。
湯たんぽをお腹に当てると、じんわりとあったかさが広がっていく。
(……ふぅ)
息が、少し楽になった。
「シリウス、ありがとう」
「経験者だからな、こういうのは」
ぶっきらぼうにそう言って、シリウスはレジに戻っていった。
でも、ちらちらとこっちを気にしているのが分かる。
(……優しいんだよなぁ、こいつ)
奥から父さんが顔を出した。
「お、リルド辛いのか?」
「うん、ちょっと」
「無理すんなよ。今日は半日でいいぞ」
「父さん、ありがとう」
父さんは僕の頭をぽんと撫でて、また奥に引っ込んだ。
料理の支度の音が聞こえる。
たぶん、消化にいいやつを作ってくれてるんだろう。
(こういう時、父さんが書いた設定だから、っていうのは絶対思わない)
(だって父さんは、ただの父さんだから)
お客さんの相手をしながら、シリウスが時々こっちを見る。
目が合うと、ちょっと困ったような顔をして。
でも、何も言わずにまた仕事に戻る。
(あの顔、心配してる顔だ)
知ってる。
毎月シリウスが辛そうにしてる時、僕も同じ顔をしてるから。
しばらく休んで、少し楽になってきた。
立ち上がって、店のほうへ。
「シリウス、もうちょっとなら立てる」
「いいから座ってろって言っただろ」
「でも」
「リルド」
名前を呼ばれて、思わず固まる。
シリウスは僕の目をじっと見て、
「俺が今、辛い時にお前にやってもらってること、思い出せ」
「……」
毎月、シリウスが辛い時。
僕はあったかいお茶を淹れて、湯たんぽを用意して、頭を撫でて。
ぎゅっと抱きしめて、大丈夫だよって言って——
あ。
(……それ、僕も今してほしいやつだ)
顔がじわっと熱くなる。
シリウスがレジから出てきて、僕の頭をぽんと撫でた。
「な?」
「……うん」
「だから、今日は俺がやる番」
その後、シリウスは時々レジを離れて、僕の様子を見に来てくれた。
頭を撫でたり、ブランケットを直してくれたり。
そのたびに、お腹の痛みが少しずつ薄れていく気がした。
(リルド分補給じゃなくて、シリウス分補給だ、これ)
心の中でそう呟いて、ちょっと笑ってしまう。
夕方、店じまいの時間。
父さんがおかゆを作って待っていてくれた。
卵がふわっと乗ってて、ねぎが散らしてある。
「食えるか?」
「うん……いただきます」
一口食べると、優しい味がじんわりと染みる。
(あったかい)
涙が出そうになる。
月のものが辛い日って、気持ちも妙に揺れやすくなる。
それを知ってる父さんとシリウスが、ちゃんと察してくれてるのが、嬉しくて。
食べ終わって、二階に上がる。
シリウスがついてきて、僕の布団を敷いてくれた。
「もう寝とけ。明日には楽になってる」
「うん……シリウス」
「ん?」
「今日、ありがとう」
シリウスは少し黙ってから、
「いいって。お互い様だ」
そう言って、自分の布団のほうへ向かった。
でも、すぐ近くに敷いてあるあたり、やっぱりこいつは優しい。
布団に潜って、目を閉じる。
お腹の重さは、まだ少しある。
でも、今日の僕は、ひとりじゃなかった。
それだけで、十分だった。
「……シリウス、来週か再来週、お前の番だからね」
「ああ。よろしく頼む」
「うん。任せて」
二人で、小さく笑った。
甲斐多町の夜が、静かに更けていく。
平穏とはちょっと違うけど。
でも、こういう日々を一緒に過ごしていけるなら。
兄弟って、いいなって、改めて思った夜だった。




