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聖女は世界をハックする 〜見た目は魔法!?超古代技術で貧しい村を天空都市に育てます〜  作者: 七森ふれあ
外縁祠群と星見台の先

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第78話 小祠二の影の手前まで、仮の道が通った

 教会の棚には、湿布草の小箱が置かれていた。


 箱の横には、リタが書いた札がある。葉っぱの印、根にばつ印、花まる、砂の小さな印。文字だけだと長くなるので、絵もまぜた。


 ベンはその札を見て、なぜか満足そうだった。


「石の印はない」

「今回は湿布草だからね」

「でも、箱は強い」

「箱は強いで押すんだ」


 ミオは笑いながら、入口祠の前に祠地図を広げた。


 今日見るのは、小祠一のさらに先。


 灯り石候補。

 点三の先。

 草の奥に見えた、小祠二の影。


 そこへ直接行くのではなく、影の手前まで戻れる仮の道を作る。


 透明板に表示が浮かぶ。


[祠道記録]

石屋根影:登録

灯り石候補:維持

点列:維持

次候補:影前仮道


「影前仮道。今日はこれ」

「小祠二まで行かないんですか」


 リタが聞いた。


「手前まで。石屋根影に近づく前に、帰る形を整える」

「戻り石を置く?」

「うん。点三から灯り石候補、そこから影の手前まで。戻り石を二つか三つ」

「石係の仕事」


 ベンがすぐに戻り石袋を持ち上げた。


「石係、出ます」

「今日は大事だよ」

「いつも大事」

「そうだね。いつも大事」


 白狐は入口祠の石の横で、尾をゆっくり揺らしていた。


「ミオ」

「はい、白狐さん」

「影の前に道を通す時、影を起こすつもりで進んではいけません」

「影の手前で止まる。道の向きと戻る向きを確かめるだけ」

「よいです。祠は、待たせることも礼になります」

「待たせることも礼」

「はい。急に名を呼ぶより、手前で整える方がよい時があります」


 ミオはうなずいた。


 一行は小祠一へ向かった。


 小祠一までの道は、もう何度も歩いている。点一、点二、点三。草の深いところは草分け棒で分ける。小祠一に着くと、座り石と水袋置きが静かに迎えてくれた。


 リタが地図帳を見ながら言った。


「ここまで、だいぶ道っぽいです」

「うん。最初は点だけだったのにね」


 ベンが座り石をちらっと見た。


「帰りに短く座る」

「先に宣言するの好きだね」

「予定」

「予定ならよし」


 小祠一の先へ進む。


 灯り石候補は、草の根元で淡く光っていた。昼でも、足元の草が少し見える。


 ミオは透明板をかざした。


[祠道表示]

対象:灯り石候補

状態:休眠維持

帰路補助:微弱

仮道接続:待機


「仮道接続、待機」

「つなげるんですか」

「登録だけ。細くね」


 白狐が灯り石候補の手前で止まった。


「ここで一礼を」

「はい」


 ミオたちは灯り石候補へ手を合わせた。


「帰る道の助けを、少しだけ借ります」


 灯り石候補の黄色い筋が、ぽうっと返った。


 ベンが戻り石を一つ、灯り石候補の手前に置いた。


「一つ目」

「向きは?」

「入口祠」

「合ってる」


 そこから先は、草が高い。


 白い綿毛がふわふわ揺れ、足元が見えにくい。ミオは草分け棒を受け取り、葉をそっと分けた。


 前に見た石屋根の影は、まだ奥にある。


 今日はそこへ近づきすぎない。


 五歩進んだところで、ベンが二つ目の戻り石を置いた。


「ここ?」

「うん。灯り石候補が見える位置」

「見える」

「じゃあ合ってる」


 リタが地図帳に点を足す。


 灯り石候補。

 戻り石一。

 戻り石二。


 細い点線でつなぐ。


「点に近い線、ですね」

「そう。まだ仮の道」

「仮の道、少し好きです」

「なんで?」

「消さずに直せる感じがします」

「リタ、だいぶ運用側になってきたね」


 さらに進むと、草の奥に石屋根の影が見えた。


 前より少しはっきりしている。低くかたむいた屋根の輪郭が、木の根の間に沈んでいる。


 ミオは足を止めた。


 あと少しで近づける。


 だが、足は止める。


「ここまで」


 ベンが三つ目の戻り石を取り出した。


「影の手前?」

「うん。近づきすぎない位置」

「石係、分かる」

「置いて」


 ベンは両手で石を置いた。


 石が草の間に収まった瞬間、灯り石候補から淡い光がすうっと伸びた。


 強い線ではない。草の根元に、薄い黄色が一本通る。


 戻り石一。

 戻り石二。

 戻り石三。


 三つが、ゆるくつながった。


 リタが小さく声を上げた。


「道に見えます」

「仮道、通ったかも」


 ミオは透明板をかざした。


[祠道記録]

影前仮道:成立

戻り石:三点配置

灯り石候補:帰路補助維持

石屋根影:未接触


「成立。石屋根影は未接触」

「未接触」

「うん。今日はそこが大事」


 白狐が静かにうなずいた。


「よい止まり方です」

「白狐さん、点数は」

「九割四分です」

「上がった」

「止まったことがよいです」

「減点は?」

「ミオが、三つ目の石を置く前に少し息を止めていました」

「それも減点なんですか」

「息を止めると、足も止まりにくくなります」

「はい」


 ベンが三つ目の戻り石を見て言った。


「石係は?」

「九割六分です」

「勝った」

「勝負じゃないよ」

「石係、勝った」


 リタがくすっと笑った。


 草の奥で、石屋根の影が一度だけ白く光った。


 返事のようにも、見守っているだけのようにも見える。


 神官が静かに頭を下げた。


「手前まで、道を整えました。また日を改めて参ります」


 ミオも手を合わせた。


「今日はここまでにします」


 帰り道は、前よりずっと分かりやすかった。


 三つの戻り石がある。灯り石候補の淡い光がある。点三、点二、点一、小祠一へ戻る順番も地図帳にある。


 リタは何度も振り返った。


「本当に、戻れる形になってます」

「うん。小祠二の影へ向かう前に、戻れる場所ができた」

「これなら、次に行く時も怖さが少し減ります」

「少しね」


 小祠一に戻ると、ベンは予定通り座り石に座った。


「短く」

「えらい」

「九割六分なので」

「気に入ってるね」


 白狐は座り石の横で、ゆっくり尾を揺らした。


「今日は短く座れました」

「点数上がりますか」

「九割六分五厘です」

「細かい」

「細かい方が、ベンには効きます」

「効く」


 ベンは真面目にうなずいた。


 入口祠へ戻ると、村人たちが地図帳をのぞきこんだ。


 小祠一。

 灯り石候補。

 戻り石三点。

 その先に、小祠二の影。


 リタの点線は、昨日より少し長くなっている。


「小祠二まで行ったのか」

「手前までです」


 神官が答えた。


「影の前に、帰るための仮道を通しました。名を呼ぶのは、まだ先です」


 村人たちはうなずいた。


 急がないことが、少しずつ村にも伝わってきている。


 ミオは透明板をかざした。


[祠道記録]

影前仮道:登録

戻り石:三点維持

灯り石候補:安定

次候補:影前確認


 影前確認。


 ミオはその文字を見て、小さく息を吐いた。


 小祠二の影は、もう遠い謎ではなくなった。


 そこへ向かう手前に、戻れる道ができた。


 白狐がそっと言った。


「よい進み方です」

「はい、白狐さん」


 ミオはうなずいた。


 草の奥へ伸びる仮の道。


 そこには、戻り石が三つ並んでいる。


 小祠二の影へ近づく準備が、やっと整った。

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