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聖女は世界をハックする 〜見た目は魔法!?超古代技術で貧しい村を天空都市に育てます〜  作者: 七森ふれあ
外縁祠群と星見台の先

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第76話 湿布草が、村の手当てになった

 湿布草の葉は、小さな布に包まれていた。


 入口祠の前に置くと、青くてやわらかい匂いが少しだけ広がる。薬草らしい強い匂いではない。草をちぎった時の、朝みたいな匂いだった。


 リタは地図帳の端に、昨日の記録を開いている。


 小祠一、北側日陰。

 湿布草。

 初採り、葉四枚。

 根を抜かない。

 花は残す。


 ベンはその横で、妙に真剣な顔をしていた。


「石係の手首にも使う?」

「ベン、まだ痛くないんでしょ」

「予備」

「手当ては予備で使わない」

「むう」


 ミオは透明板をかざした。


[祠道記録]

小祠一周辺:採取記録あり

湿布草:初採り成立

運用札:採取注意

次候補:手当て確認


 手当て確認。


 表示を見た神官が、静かにうなずいた。


「まずは、本当に使えるかを確かめましょう」

「誰に使いますか」

「畑仕事で膝を痛めたマル婆さんがいます。昨日も熱を持っていました」

「強すぎたりしませんか」

「少量なら大丈夫です。昔の使い方と同じにします」


 白狐は入口祠の横で、尾をゆっくり揺らしていた。


「ミオ」

「はい、白狐さん」

「持ち帰ったものは、すぐ大きく扱ってはいけません」

「まず一人。少しだけ」

「はい。効いたから増やす、ではなく、使い方を確かめてから増やしなさい」

「分かりました。採る量より、使う量も先に決める」

「よいです」


 神官は湿布草の葉を一枚だけ取り出した。


 石鉢に入れ、少しの水でしめらせる。木の棒で軽くつぶすと、青い匂いがふわっと強くなった。


 葉の色が濃くなる。


 リタがのぞきこんだ。


「薬みたいです」

「薬草だからね」

「でも、地図から来た薬みたいです」

「それはちょっと分かる」


 神官はつぶした葉を薄い布に広げた。


 厚くしない。水も入れすぎない。布を折りたたむと、小さな緑色の湿布になった。


「これを、膝の熱いところに当てます」

「貼るんじゃなくて、当てる?」

「はい。最初は短い時間だけ」


 マル婆さんは、入口祠の横の椅子に座っていた。


 畑仕事で膝を痛めたらしく、片足を少し伸ばしている。ミオを見ると、困ったように笑った。


「聖女様の草を使うのかい」

「聖女様の草というより、小祠一の草です」

「小祠一の草かい」

「はい。まず少しだけ試します。変だったらすぐ外します」

「変だったら言えばいいんだね」

「言ってください。遠慮なしで」


 マル婆さんはうなずいた。


 神官が湿布を膝に当てる。


 マル婆さんの眉が少し動いた。


「冷たい」

「痛いですか」

「痛くはないね。冷たい。あと、草の匂いがする」

「熱は?」

「少し、引く感じがする。まだ分からんけど」


 ミオは透明板をかざした。


[祠道表示]

対象:湿布草

使用量:葉一枚

処置:短時間

反応:安定


「反応、安定」

「よかった」


 リタが息を吐いた。


 ベンは少し残念そうに自分の手首を見た。


「石係は?」

「今日はマル婆さん」

「石係、待つ」

「待ててえらい」


 白狐が静かに言った。


「待てる係は、よい係です」

「石係、よい?」

「今日はよいです」

「今日は」


 ベンはちょっとだけ胸を張った。


 しばらくして、神官が湿布を外した。


 マル婆さんは膝をゆっくり曲げた。深く曲げるわけではない。ほんの少し、確かめるように動かす。


「ああ。熱が少し軽いね」

「痛みは」

「全部は消えないよ。でも、さっきより楽だ」

「それなら、最初としては十分です」


 神官の顔にも、ほっとした色が浮かんだ。


 リタは地図帳に書く。


 湿布草。

 葉一枚。

 短時間。

 膝の熱、少し軽い。

 異常なし。


「実務ですね」

「うん。完全に実務」

「聖女様の地図帳、やっぱり畑の記録帳に近づいてます」

「その方が村には役に立つよ」


 ミオは透明板を見た。


[祠道記録]

湿布草使用:成立

使用量:葉一枚

処置時間:短

体調反応:安定

運用札:手当て用


 運用札。


 ミオは小さくうなずいた。


「採取注意札と、手当て用札がいるね」

「札が増えますか」


 リタが筆を構えた。


「増える。でも、分けすぎない。湿布草の札を一枚作って、表に採る時、裏に使う時を書こう」

「表裏札ですね」

「うん。表は採取注意。裏は短時間手当て」

「根ばつ印は?」

「表」

「膝の絵は?」

「裏かな」

「膝、描けます?」

「……丸と線で何とか」

「怖い絵になりそうです」


 ベンが口を挟んだ。


「石係が描く」

「ベン、膝描ける?」

「描けない」

「だめじゃん」

「でも、石は描ける」

「湿布草札に石はいらないかな」


 マル婆さんが、くすくす笑った。


「にぎやかな薬だねえ」

「すみません」

「いいんだよ。膝が軽くなって、笑えるなら十分だ」


 その言葉で、入口祠の前の空気がやわらかくなった。


 村人たちも少しずつ集まっていた。膝をさする人、手首を押さえる人、肩を回す人。みんな、すぐに使いたい顔をしている。


 白狐が尾を一度だけ揺らした。


「ミオ」

「はい、白狐さん」

「ここで増やさない判断が大事です」

「今日は一人だけ。残りの葉は乾かして、状態を見る」

「よいです」


 ミオは村人たちへ向いた。


「今日はマル婆さんだけです。効いたからすぐみんなに、とはしません。葉は四枚しかないし、小祠一の草も残さないと次がありません」

「次も採れるのかい」

「根を抜かなければ。花も残せば」

「じゃあ、残す方が先だね」

「はい」


 年配の女性がうなずいた。


「それなら、順番にしよう。畑で動けない者からだ」

「お願いします」


 神官が湿布草の残りを小さな籠に入れた。


 風通しのよい日陰で乾かすことになった。乾かした葉が使えるかは、次に見る。


 リタは札の試し書きを始めた。


 表:湿布草/根を抜かない/花を残す/少しだけ

 裏:葉一枚/短く当てる/変なら外す


「文字が多いです」

「絵にする?」

「根ばつ印、花まる、葉一枚、短い線」

「短い線って何?」

「短時間です」

「分かるかなあ」

「ベンには分かりますか」

「分からない」

「だめですね」


 ミオは笑った。


 透明板に、最後の表示が浮かぶ。


[祠道記録]

湿布草運用:仮成立

採取注意:必要

手当て用札:作成中

次候補:乾燥確認


 仮成立。


 その言葉は、ミオにはちょうどよかった。


 完全に決まったわけではない。けれど、村で使える形に一歩入った。


 マル婆さんが立ち上がる時、膝を少しかばいながらも、顔は明るかった。


「明日、畑の端までなら行けそうだよ」

「無理はしないでください」

「分かってるよ。端までだよ」


 端まで。


 それだけでも、マル婆さんにとっては大きいのだろう。


 ミオは小祠一の方角を見た。


 あの北側の日陰に生えていた四枚の葉が、村の膝を少し楽にした。


 外へ伸びた道が、村の中の一人を助けた。


 派手な光はない。大きな奇跡でもない。


 でも、入口祠の前にいる人たちの顔は、昨日より少し軽い。


 白狐がそっと言った。


「よい道です」

「はい、白狐さん」


 ミオはうなずいた。


 小祠一の草は、村の手当てになった。


 祠道は、村から外へ伸びるだけではなく、外から村へ役に立つものを返し始めていた。

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