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聖女は世界をハックする 〜見た目は魔法!?超古代技術で貧しい村を天空都市に育てます〜  作者: 七森ふれあ
外縁祠群と星見台の先

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第73話 道の芽の先で、灯り石が見えた

 小祠一の横には、座り石が二つ置かれていた。


 そのとなりに、水袋用の石。くぼみのある石の上に、水袋がころんと収まっている。前に来た時より、小祠一の前が少し落ち着いて見えた。


 トマが座り石に腰を下ろし、水をひと口飲む。


「やっぱり、ここで休めるのは助かるな」

「昨日作ったばっかりだけど、もうなじんでるね」


 ミオは透明板をかざした。


[祠道記録]

小休止地点:成立

小祠一:安定

水袋置き:登録済

次候補:灯り石確認


 灯り石確認。


 表示は短い。けれど、その文字を見たリタは、朝からずっとそわそわしていた。


「灯り石って、ほんとうに光るんでしょうか」

「たぶん。名前からすると」

「名前から」

「まあ、私もまだ見てないからね」


 ベンは戻り石袋を持ち直し、小祠一の先を見た。


「道の芽の先?」

「うん。点一、点二、点三まで確認して、その先を少し見る」

「点三の先は、草が多い」

「今日は草分け棒、持ってきたから」


 ミオは短い棒を取り出した。


 先が少し丸く削られていて、草を折らずに分けられる。ベンが昨日から言っていた名前を、そのまま付けた。


 草分け棒。


 名前はだいぶ雑だった。


「ほんとに作った」

「試作品ね」

「草分け棒係は?」

「今日は私がやる」

「石係は?」

「ベン」

「うん」


 ベンは満足そうに戻り石袋を叩いた。


 白狐は小祠一の正面に座り、尾をゆっくり揺らしていた。


「ミオ」

「はい、白狐さん」

「灯りは、先へ進むためだけに使うものではありません」

「帰るため、ですよね」

「はい。暗くなった時、人は進む理由より、帰る理由を見失いやすいです」

「それ、ちょっと分かります」

「今日見る灯りも、まず帰り道の印として扱いなさい」

「はい。起動するより、場所の確認を優先します」


 白狐は小さくうなずいた。


「それなら、よいです」


 一行は小祠一を出た。


 座り石の横を通る時、リタが一度だけ振り返った。


「帰りに、また座ってもいいですか」

「短くなら」

「短く座ります」

「ベンと同じこと言ってる」

「いい石なので」

「石係が増えそう」


 小祠一の先には、まだ道と呼ぶには細い白石の点が残っている。


 点一。

 点二。

 点三。


 その順番で、草の間に小さな石が置かれていた。白く光るほどではない。けれど、目で追える。リタの地図帳にも同じ点がある。


 ミオは草分け棒で、足元の葉をそっと分けた。


「これ、けっこう便利」

「草分け棒、成功?」

「今のところ成功」

「石係の次に、棒係」

「係は増やしすぎないって白狐さんに言われたでしょ」

「じゃあ、石棒係」

「混ぜた」


 白狐がうしろから静かに言った。


「混ぜれば減る、というものではありません」

「はい、白狐さん」


 点二のあたりで、草が少し深くなった。


 ミオは透明板をかざし、祠地図と実際の足元を重ねる。


[祠道表示]

経路:小祠一→道の芽

戻り石:有効

点列:三点維持

照明反応:微弱


「照明反応、出た」

「灯り石ですか」


 リタの声が少し上ずった。


「近いかも。まだ微弱」


 ベンが戻り石を一つ取り出した。


「置く?」

「点三の横に。帰り向きで」


 ベンは点三の横に、平たい戻り石を置いた。向きは入口祠の方。少し迷ってから、石の角度を直す。


「こう?」

「うん。合ってる」


 白狐が鼻先を上げた。


「風が変わりました」

「風?」


 ミオは顔を上げた。


 木立の奥から、涼しい風がすうっと通ってきた。草がふわりと分かれる。その先に、白ではない色が見えた。


 薄い黄色。


 草の根元近く、半分土に埋もれた石があった。


 丸い石ではない。細長く、少し傾いている。表面に細い筋があり、そこだけ淡く色が残っていた。


 リタが息をのむ。


「光ってます」

「うっすらね」


 ミオは近づきすぎない位置で止まった。


 透明板をかざす。


[祠道表示]

対象:灯り石候補

位置:道の芽・点三先

状態:休眠

用途:帰路補助


「灯り石候補。休眠。帰路補助」

「帰るための石ですね」

「うん。白狐さんの言った通り」


 白狐は灯り石候補を見つめた。


「火の石ではありません。道が暗くなった時、戻る者の足元を助ける石です」

「じゃあ、今日は触らない方がいいですか」

「触るより、道に位置を伝えるのが先です」

「地図に入れる」

「はい」


 リタが地図帳を開いた。


 点三の先に、小さな丸を書き足す。丸の横に、灯り石、と書きかけて、ミオを見た。


「候補、ですか」

「うん。今日は候補で」

「灯り石候補」

「それで」


 ベンが戻り石袋を探った。


「横に置く?」

「少し離して。灯り石を囲まない」

「囲まない」

「帰る向きが分かるように、手前側に一つ」


 ベンは戻り石をそっと置いた。


 戻り石が地面に触れた時、灯り石候補の筋が、ふっと明るくなった。


 強い光ではない。


 葉の影が、ほんの少し薄くなるくらいの光。


 それでも、そこにいた全員が黙った。


 草の奥に、帰るための灯りがあった。


「……ついた」


 ベンが小さく言った。


「ついたね」


 ミオは思わず声を落とした。


 灯り石候補の周りで、草の影がやわらかくほどけている。点三の白石、戻り石、灯り石候補。その三つが、ゆるく一列になった。


 リタが地図帳を胸に抱いた。


「夕方に、これがあったら」

「足元が見えるかもしれない」

「怖くないかもしれない」

「うん」


 ミオは透明板をもう一度かざした。


[祠道記録]

灯り石候補:位置記録

道の芽:延伸反応あり

戻り石:手前配置

帰路補助:微弱


「位置記録、入りました」

「これで、灯り石ですか」

「まだ候補。だけど、地図には残った」


 白狐がゆっくり近づき、灯り石候補の少し手前で座った。


「よい置き方です」

「白狐さん、点数は」

「九割です」

「上がった」

「囲まなかったのがよいです」

「ベン、やった」

「石係、九割」


 ベンがすごく真面目な顔でうなずいた。


「でも、あと一割は?」

「ミオが少し前のめりでした」

「あ、ばれてた」

「灯りが見えると、人は進みたくなります」

「はい。気をつけます」


 ミオは灯り石候補を見た。


 たしかに、先が見えると進みたくなる。


 草の奥に、まだ何かある気がする。灯り石の先にも道が続いている気がする。行けば、もっと見えるかもしれない。


 でも、今日は場所を記録する日だ。


 帰るための灯りを見つけた日だ。


「戻ろう」

「もうですか」


 リタが少し残念そうに言った。


「うん。今日の目的は達成。夕方にまた確認するかは、白狐さんと相談してから」

「はい」

「地図にはちゃんと書けた?」

「書けました。灯り石候補。点三の先。帰り道用」

「いいね」


 帰り道、灯り石候補は背中側で一度だけ淡く光った。


 振り返ると、草の間に薄い黄色が見える。強くはない。でも、そこにあると分かる。


 点三。

 点二。

 点一。

 小祠一。


 戻る順番が、前より分かりやすい。


 小祠一に着くと、ベンが座り石へまっすぐ向かった。


「短く座る」

「宣言が早い」

「九割の石係なので」

「関係あるかな」

「ある」


 ベンは座り石にちょこんと座った。すぐ立つつもりだったのかもしれないが、少し長く座った。


 白狐が尾を揺らす。


「八割九分に下がります」

「えっ」

「長めでした」

「石係、きびしい」


 みんなが笑った。


 入口祠へ戻ると、神官が村人たちへ説明した。


「道の芽の先に、灯りの石らしきものが見つかりました。今日は位置を記録しただけです。帰る道の助けになるものとして、丁寧に扱います」


 村人たちは静かにうなずいた。


 灯り。


 その言葉だけで、村人の顔に少し希望が灯る。夜に遠くへ行くためのものではなく、帰ってくるための光。それでも、十分だった。


 ミオは祠地図を広げた。


 小祠一の先に、点三つ。

 その先に、小さな黄色の印。


 リタの地図帳にも、同じ印がある。


「できたね」

「はい。小祠一の先に、灯り石候補です」

「次は、夕方に見えるか確認かな」

「夕方の道……少し怖いです」

「だから、戻るための確認だけ」

「はい」


 透明板に、最後の表示が浮かんだ。


[祠道記録]

灯り石候補:登録

点列:維持

小祠一:休止地点安定

次候補:夕刻確認


 夕刻確認。


 ミオはその文字を見て、入口祠の外へ視線を向けた。


 祠道は、昼だけの道から少し変わろうとしていた。


 暗くなっても、帰るための光がある。


 その可能性が、草の奥で小さく灯っていた。

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