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聖女は世界をハックする 〜見た目は魔法!?超古代技術で貧しい村を天空都市に育てます〜  作者: 七森ふれあ
古い祠は、空への線を隠している

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第50話 星見台は、リュミナ村の外を映した

 星見台の中央皿に映った地図は、村へ戻ってからも、ミオの目に残っていた。


 リュミナ村。


 祈り橋跡。


 第三標識。


 星祠。


 外縁祠道。


 三つの小祠。


 星見台。


 それらが点ではなく、線でつながっていた。


 翌朝、リュミナ村の教会には、いつもの木札より大きな布が広げられていた。床いっぱいに近い。リタが端を押さえ、ラウが石で重しを置き、ベンが小さな丸をいくつも描き込んでいる。


「リタさん、ここ、第二小祠が少し左です」

「左」

「ミオ様から見て左です」

「そこ、ちゃんと書きましょう。左右で死にます」

「左右では死なないと思います」

「迷うと死にます」

「それはそうです」


 リタは真剣だった。


 木札係から地図係になった顔だった。本人は不本意そうだが、筆の動きは早い。


 布の地図には、リュミナ村の入口祈り場から星見台までの道が描かれている。小祠は丸。星祠は六つの点。星見台は大きな円。まだ見えていない外側の輪郭は、薄い線で囲ってあった。


 その薄い線を、白狐がじっと見ていた。


「白狐さん」

「はい」

「そこ、気になりますか」

「はい」

「封印に近い?」

「近いです。でも、そこそのものではありません」

「外側、ですか」

「はい。外側です。入口か、影か、ふちのようなものです」


 ミオは透明な板を開く。


[STAR OBSERVATION RECORD]

――――――――――

リュミナ村:接続

祈り橋跡:接続

第三標識:接続

星祠:接続

外縁祠道:接続

小祠群:三基仮復帰

星見台:低出力起動

地方管理ノード外縁:候補

白狐封印関連:参照不可

――――――――――


 昨日の記録は残っている。


 でも、星見台の起動は低出力だった。


 星石は十二基のうち七基しか見つけていない。風鳴り環も一部しか鳴っていない。中央皿は地図を映したが、すぐに弱くなった。


 今日は、星見台をもう少し安定させる。


 そして、村の外をもう少し映す。


 神官さんが教会の入口から入ってきた。


「行けるか」

「行けます」

「昨日の今日だが」

「昨日の今日だから、行きたいです。星見台の反応が残っているうちに」

「分かった」


 止められなかった。


 神官さんは、布の地図を見下ろした。


「これはもう、村の道だけではないな」

「はい」

「なら、村だけで抱え込むものでもない。だが、今はまだ村が最初に知るべきだ」

「はい」


 ラウが縄を肩にかける。


「今日も空の上の方か」

「空の下です」

「だいたい同じだろ」

「違います」

「分かった。空の下の高いとこな」


 ベンは小袋を持ち上げた。


「今日は星石を探します。支え石と細い楔も持ちました」

「お願いします」

「星石、持ち帰りません」

「そこは大丈夫です」

「欲しい人がいるかもしれないので」

「ベンさん?」

「僕ではないです」

「また目がそらされました」


 白狐がすぐに言った。


「星石は持ち帰りません」

「はい」

 ベンは素直に返事をした。


 リタは布の地図を丸める。


「今日は木札、ほとんど持ちません」

「潔いです」

「地図帳にします。あと、星見台のところだけ仮札」

「何て書きます?」

「星見台。吹かない。石を抜かない。中央皿に顔を入れない」

「最後、ベンさん向けですか」

「はい」

「僕ですか」

「昨日、入りそうでした」

「入りません」

「入る顔でした」


 ラウが笑い、ベンは少しだけ不満そうにした。


 白狐は笑わなかった。


 でも、耳がほんの少し動いた。


 入口祈り場の前に出ると、数人の村人が見送りに来ていた。


 昨日、星見台の地図の話はまだ村じゅうには広げていない。それでも、星祠の先で大きな台を見つけたこと、小祠が三つ戻ったことは広まっている。


「今日はまた星の台へ行くのか」

「白狐様の何かが分かるって聞いたぞ」

「外の地図が見えたんだって?」

「見すぎると星に連れていかれたりしないかね」


 最後の人はかなり不安そうだった。


 ミオは少し考えてから答えた。


「連れていかれません。今日は、村へ戻るための地図を見に行きます」

「ああ、戻るためか」

「はい。行き先だけじゃなく、戻る道も見ます」


 村人は少し安心した顔になった。


 神官さんが入口祈り場の前で祈る。


「村の灯りよ。森の道よ。川を越える石よ。星祠へ続く道よ。今日は、星を見る台で、外の道を見定める。急ぎすぎず、閉じすぎず、戻る場所を忘れずに進ませたまえ」


 入口祈り場が、ぽうっと光った。


 遠く、森の入口の石列が応える。


 ミオは透明な板を胸の前に持った。


[OUTER SHRINE MAP RUN]

――――――――――

目的:星見台再起動

補助:星石追加検出/風鳴り環補修

同行:神官/白狐/ラウ/リタ/ベン

状態:出発可能

――――――――――


「行きましょう」


 森を抜ける。


 第一標識、第二標識、休み石広場、路肩小祠。


 昨日よりさらに早く進めた。驚きは薄れたのではない。使える道になったのだ。


 祈り橋跡では、沈み石が九つ、川の中で光る。ラウが先に渡り、みんなが続く。白狐は水面を見ずに、対岸を見ていた。気持ちはもう、その先にあるのだろう。


 第三標識を越え、星祠へ向かう。


 星祠は、六つの星石を光らせていた。


 風鳴り石が、ちりん、と鳴る。


 白狐が少しだけ目を閉じた。


「ここから先は、音が近くなります」

「白狐さんに?」

「はい」


 外縁祠道へ入る。


 白石道は足元で淡く光り、小祠が順に応える。


 尾根上小祠。


 第二小祠。


 第三小祠。


 昨日より、音が揃っていた。


 ち。


 ち。


 ちり、りん。


 第三小祠の白石半円が光ると、星見台へ向かう尾根道がはっきり浮かび上がった。


 リタが布の地図を少しだけ開く。


「ここ、昨日より分かりやすいです」

「道が安定してるんですかね」

「たぶん。地図も直します」

「帰ってからにしましょう」

「はい。歩きながらは書きません」

「えらいです」

「昨日、怒られましたので」


 星見台に着くと、中央皿には薄く枯れ葉が入っていた。


 昨日きれいにしたばかりなのに、もう風が運んできたらしい。


 ラウが手早く草を払い、リタが布で枯れ葉を集める。ベンは星石を確認し始めた。神官さんは供物を置き、白狐は中央皿の前に立つ。


 ミオは透明な板をかざした。


[STAR OBSERVATION DAIS]

――――――――――

星見台:低出力休止

中央皿:反応残存

星石:十二基中七基検出

風鳴り環:一部応答

外縁祠道:接続安定

追加起動:可能

――――――――――


「起動できます」

「星石、探します」

 ベンが言った。

「五つ全部は無理かもしれません」

「今日はいくつ見つかればいいですか」

「二つ。できれば三つ」

「分かりました」


 ベンは台座の外側を見て回る。


 ラウも棒で草の下を探る。


 リタは地図用の布ではなく、小さな印布を取り出した。見つけた星石の位置を記録するためだ。


「リタさん、準備がいいですね」

「地図係なので」

「出世ですね」

「仕事が増えただけです」


 星石は、すぐ一つ見つかった。


 台座の外側、半分土に埋まっている。泥を拭くと、角の丸い星形が出る。


「八つ目」

 ベンが言った。

「戻せますか」

「はい。浅いです」


 ミオが板で下の線を確認する。


「下部接続あり。ずれてるだけです」

「では、戻します」


 ベンが土を落とし、ミオが星石を溝へ戻す。


 こつ。


 ぽう。


 星石が光った。


[STAR STONE ARRAY]

――――――――――

星石:十二基

点灯:八基

中央皿:反応上昇

風鳴り環:待機

――――――――――


「八基になりました」

「見つかると早いな」

 ラウが言った。

「見つかるまでは大変です」

「もう一個、こっちにありそうだぞ」


 ラウが示した場所を、ベンが掘る。


 出てきたのは、割れた星石だった。


 半分だけ。


 ベンは悔しそうな顔をした。


「割れてます」

「使えませんか」

「半分だけなら、場所の印にはなります。でも点灯は難しいかも」

「ミオ様」

 リタが言った。

「半分星石って書きます?」

「書きます。でも、点灯数には入れません」

「はい」


 白狐が近づき、割れた星石を見た。


「これは、無理に戻さない方がよいです」

「なぜですか」

「欠けたものを、欠けたまま力だけ通すと、音が曲がります」

「音が曲がる」

「はい。嫌な鳴り方をします」

「じゃあ保留です」


 ベンは慎重に割れた星石を横へ戻し、印をつけた。


 九つ目は、中央皿のすぐ外にあった。


 土ではなく、薄い苔に覆われていた。苔を払うと、星石の表面に細い線が残っている。ベンが目を輝かせる。


「これ、きれいです」

「抜きませんよ」

「抜きません」

「早い」

「学んでます」


 ミオは星石に触れた。


 昨日よりも、星見台の反応が近い。


 星石を戻すと、中央皿の刻線が一瞬だけ光った。


 ぽう。


[STAR STONE ARRAY]

――――――――――

星石:十二基

点灯:九基

不足:三基/内一基破損

中央皿:表示準備

風鳴り環:一部応答待ち

――――――――――


「九基です」

「十分か」

 神官さんが聞く。

「昨日より安定します」

「では、起こそう」


 風鳴り環は、昨日残っていた二枚に加え、白狐がもう一枚使えそうな石片を見つけた。


 三枚。


 完全な円ではない。


 でも、音を回すには昨日よりましだ。


 白狐はそれを石の突起にかける。


 一枚目。


 二枚目。


 三枚目。


「白狐さん」

「はい」

「手つきが、完全に知ってる人です」

「体が先に動いています」

「怖いですか」

「怖いです。でも、今日は手が止まりません」

「なら、私が見ています」

「お願いします」


 白狐は少しだけうなずいた。


 神官さんが中央皿の前に立つ。


 供物は昨日より少し増えた。麦、豆、塩。小さな油揚げに近いものが一切れ。白狐が一瞬だけ見たが、何も言わなかった。


「言わないんですか」

 ミオが小声で聞く。

「今は星見台です」

「すごい」

「あとで確認します」

「戻ってきた」


 神官さんが祈る。


「星見台よ。昨日、そなたは村の道を映した。今日は、さらに外の線を見せよ。見せることで乱すのではなく、戻る道を増やすために。村の祈りが外へ迷わぬように。外から来るものが村を踏み荒らさぬように」


 風が止まった。


 星見台の上だけ、空気が静かになる。


 ミオは透明な板を構えた。


 リタは布を握る。


 ラウは足を開く。


 ベンは中央皿をのぞき込みすぎないよう、ラウの後ろに立った。


 白狐は、風鳴り環の前で目を閉じる。


 遠くで、星祠が鳴った。


 ちりん。


 小祠たちが順に返す。


 ち。


 ち。


 ちり、りん。


 音が尾根を渡る。


 そして、星見台に届いた。


 白狐の耳が動く。


「来ます」


 風が上がった。


 三枚の風鳴り石が揺れる。


 りん。


 りん。


 りぃん。


 昨日より澄んだ音が、星見台の上を回った。


 中央皿の刻線に光が走る。


 九つの星石が、順に点いた。


 ぽう。


 ぽう。


 ぽう。


 光は円になり、中央皿へ集まる。


 ミオの板に、ログが走った。


[STAR OBSERVATION DAIS]

――――――――――

星見台:低出力安定

星石:九基点灯

風鳴り環:三片応答

外縁祠道:接続

中央皿:表示拡張

――――――――――


 中央皿に、空が落ちた。


 昨日より深い青だった。


 水ではないのに、水面のように揺れる。そこへ光の点が浮かぶ。リュミナ村。入口祈り場。巡礼道。祈り橋跡。第三標識。星祠。外縁祠道。三つの小祠。星見台。


 そこまでは昨日も見た。


 今日は、その外側が違った。


 星見台から、細い線が三方向へ伸びる。


 一つは尾根のさらに先。


 一つは森の外周へ下りる線。


 一つは、遠くの輪郭へ向かって薄く伸びる線。


 リタが息をのむ。


「昨日より、外が見えます」

「はい」


 ミオの声も、少し震えた。


 中央皿の中で、リュミナ村は小さな点ではなかった。


 村から出た水の線。


 豆の線。


 塩の線。


 祈りの道。


 それらが入口祈り場で重なり、森を抜け、川を越え、星祠へ届き、星見台へ上がっている。


 そして今、星見台からさらに外へ伸びている。


[OUTER SHRINE MAP]

――――――――――

リュミナ村:接続

祈り橋跡:接続

第三標識:接続

星祠:接続

外縁祠道:接続

小祠群:三基仮復帰

星見台:低出力安定

外縁祠群:複数反応

地方管理ノード外縁:輪郭検出

――――――――――


「外縁祠群……複数反応」

 ミオは読んだ。


 中央皿の地図に、小さな点がいくつも浮かぶ。


 三つではない。


 もっとある。


 尾根の先、森の外周、川の遠い上流側、星見台から見える空の下に、まだ眠っている祠が点々とある。


 ラウが声を落とした。


「おい、こんなにあるのか」

「はい」

「村の近くっていうより、地域ごとじゃないか」

「そうです。たぶん、地域の外縁をつないでます」


 神官さんは中央皿を見つめたまま言った。


「リュミナ村は、道の端ではなかったのだな」

「はい」

「外へ向かう入口か」

「入口です。中心ではなくて、入口」


 その言葉は、ミオの中でも落ち着いた。


 中心では大きすぎる。


 でも、入口なら言える。


 リュミナ村は、行き止まりではない。


 外へ向かう入口になった。


 リタは布の地図を広げようとして、やめた。


「無理です」

「リタさん」

「これは、今描いたら間違えます」

「判断が早い」

「見て覚えます。あとでミオ様の板を見ながら描きます」

「はい。そうしましょう」

「地図帳、大きめじゃなくて、かなり大きめです」

「分かりました」


 ベンは星石を見ていたが、すぐ中央皿に目を戻した。


「外縁祠群の点、星石の配置に似てます」

「どういうことですか」

「星見台の星石と、外の祠の位置が似てるんです。完全に同じじゃないけど」

「写しみたいなもの?」

「たぶん。小さい星の並びが、外の祠の並びになってます」

「ベンさん、それかなり重要です」

「はい。僕も今、かなり重要なことを言った気がします」


 ラウが笑う。


「自分で言うな」

「でも言いました」

「言っていい」


 中央皿の外側で、さらに大きな輪郭が浮かぶ。


 昨日は薄いだけだった。


 今日は違う。


 まだぼんやりしているが、円ではない。いくつもの線が集まって、広い輪のような構造を作っている。そこへ外縁祠群の点が、少しずつつながっている。


 ミオの板に、新しい表示が出た。


[LOCAL ADMIN OUTER RIM]

――――――――――

地方管理ノード外縁:輪郭検出

接続条件:外縁祠群の復帰

補助条件:星見台安定化

状態:本体未起動

権限:不足

――――――――――


「地方管理ノード外縁、輪郭検出」

 ミオはゆっくり読んだ。

「本体未起動。権限不足」


 神官さんが聞く。


「触れるのか」

「いいえ。今は触れません」

「触れぬものが見えた、ということか」

「はい。入口のさらに外側が見えました」


 神官さんは静かにうなずいた。


「十分だ」


 その声は、重かった。


 止める声ではない。


 今日の成果を受け取る声だった。


 白狐は中央皿の光を見ていた。


 その先に、白狐の封印に関わる表示がまた浮かぶ。


[SEALED TRACE]

――――――――――

個別封印領域:白狐

状態:未解放

関連:星見台/外縁祠群/地方管理ノード外縁

参照:一部反応

条件:不明

――――――――――


 ミオは板を持つ手に力を入れた。


「白狐さん」

「はい」

「出ています」

「分かります」

「触りません」

「はい」


 白狐はそう答えた。


 でも、目は中央皿から離れない。


「少しだけ、分かりました」

「何がですか」

「私は、ここから外へ向かう道を守っていたのかもしれません」

「守っていた」

「はい。あるいは、閉じていた」

「……どちらかは、まだ分からない?」

「分かりません」


 白狐は、ゆっくり息を吐いた。


「でも、ここは私を拒みません」


 ミオは何も言わなかった。


 言葉を足すと、薄くなりそうだった。


 中央皿の光が、また強くなる。


 リュミナ村から星見台までの線が太くなる。


 そして、星見台の先にある外縁祠群が、ぽつ、ぽつ、ぽつ、と淡く光る。


 実際に起動したわけではない。


 反応だけだ。


 けれど、村人が見れば、星が増えたように見えるだろう。


 リタが小さく言った。


「星が、道になってます」

「はい」

 ミオは答えた。

「星の地図です」


 神官さんが中央皿の前に膝をついた。


「星見台よ。リュミナの村は、今日、外を見た。見たものを欲に使わず、恐れに閉じ込めず、道として受け取る。戻る者のため、祈る者のため、運ぶ者のため、灯りを保ちたまえ」


 風鳴り環が鳴った。


 りぃん。


 澄んだ音が、中央皿から外へ流れる。


 その音に合わせて、外縁祠道の小祠たちが順に鳴る。


 第三小祠。


 第二小祠。


 尾根上小祠。


 星祠。


 遠くの入口祈り場まで、音は届かないはずだった。


 でも、ミオの板には、入口祈り場の反応が出た。


[PILGRIM ROAD RESPONSE]

――――――――――

入口祈り場:応答

星祠:応答

外縁祠道:応答

星見台:低出力安定

外縁祠群:微弱反応

――――――――――


「入口祈り場が応答しました」

「村まで戻ったのか」

 ラウが目を見開いた。

「音じゃなくて、線が戻りました」

「どっちにしても、戻ったんだろ」

「はい。戻りました」


 中央皿の地図に、リュミナ村の点が明るくなる。


 村から星見台へ。


 星見台から外へ。


 外から、また村へ。


 線が往復した。


 リタが両手で口を押さえた。


「これ、村の人に見せたいです」

「見せましょう」

 ミオは言った。

「でも、順番に。怖がらせないように」

「はい。星の地図、って言います」

「それがいいです」


 ベンが小さく手を上げた。


「ミオ様」

「はい」

「星見台の残り星石を戻したら、もっとはっきり見えると思います」

「はい」

「でも、今日はここまででいいと思います」

「ベンさんが言うなら、かなりそうですね」

「はい。石も、人も、今日は十分です」


 ラウも肩を回した。


「正直、俺も腹が減った」

「そこですか」

「そこも大事だろ」

「大事です」

 白狐が言った。

「供物確認も残っています」

「白狐さん」

「重要です」


 いつもの白狐の声に少し戻っていた。


 ミオは少しだけ安心した。


 神官さんが中央皿の前で、最後の祈りを置く。


「星見台よ。今日の地図を閉じよ。道は消さず、光を静めよ。次に来る時まで、風と石に記憶を預ける」


 ミオは透明な板を見る。


[STAR OBSERVATION DAIS]

――――――――――

星見台:低出力安定

地図記録:保存

外縁祠群:微弱反応保存

地方管理ノード外縁:輪郭保存

個別封印領域:白狐/未解放

終了処理:可能

――――――――――


「終了処理、できます」

「頼む」

「はい」


 ミオは中央皿に向かって、板をゆっくり下げた。


 光の地図が、少しずつ薄くなる。


 リュミナ村。


 星祠。


 外縁祠道。


 小祠群。


 星見台。


 外の輪郭。


 全部が、水面に沈むように、中央皿の中へ消えていく。


 最後に、リュミナ村の点だけが残った。


 ぽう。


 それも静かに消えた。


 中央皿は、ただの石の皿に戻った。


 でも、もう昨日までの石ではない。


 リタが布を握りしめる。


「描きます」

「はい」

「大きい地図を描きます」

「お願いします」

「木札も立てます」

「やっぱり」

「地図だけだと、ラウさんが吹きます」

「俺かよ」

「はい」


 ラウは否定しきれず、少しだけ目をそらした。


 ベンは星石をもう一度確認している。


「九基、安定してます。割れた星石は保留。残り二基は、次に探せます」

「次ですね」

「はい」


 白狐は中央皿の前で、静かに頭を下げた。


 神獣らしい、深い礼だった。


 ミオも隣で頭を下げる。


「白狐さん」

「はい」

「次は、白狐さんのことも、少し分かるかもしれません」

「はい」

「でも、勝手に触りません」

「……はい」


 白狐は少しだけミオを見た。


「ミオは、手を洗ってから触る顔をしています」

「え」

「大事なものに触る前の顔です」

「それ、褒めてます?」

「はい」


 ミオは少し困ってから、笑った。


「じゃあ、ちゃんと手を洗ってからにします」

「お願いします」


 風が尾根を渡る。


 星見台の風鳴り環が、りん、と鳴った。


 遠くで星祠が返す。


 ちりん。


 その音は、村の方へ落ちていく。


 帰り道、ミオたちは何度も振り返った。


 星見台は、もう光っていない。


 でも、そこに道があると分かる。


 第三小祠、第二小祠、尾根上小祠、星祠。音と白石道をたどって戻ると、リュミナ村の屋根が遠くに見えた。


 小さい。


 でも、もう小さいだけではない。


 あの村から、線が伸びている。


 水の線。


 豆の線。


 塩の線。


 祈りの道。


 それらが外へ向かい、空の下で星の地図になった。


 リタが布を抱えて歩きながら言う。


「ミオ様」

「はい」

「リュミナ村、地図の端じゃなかったですね」

「はい」

「入口ですね」

「はい」


 神官さんも、静かにうなずいた。


「入口なら、守らねばならぬ。閉じるためではなく、乱れず通すために」

「はい」


 ラウが肩の縄を直す。


「で、次は外縁祠群か」

「その前に地図と支えと星石です」

「急に現実に戻ったな」

「現実がないと、先に行けません」

「そりゃそうだ」


 白狐が言った。


「供物も必要です」

「そこも現実なんですね」

「はい。とても」


 みんなが少し笑った。


 ミオも笑った。


 笑いながら、もう一度だけ星見台の方を見た。


 星見台は、リュミナ村の外を映した。


 外縁祠群。


 地方管理ノード外縁。


 白狐の封印に関わる場所。


 まだ触れないものが増えた。


 でも、見えた。


 見えたなら、道は作れる。


 リュミナ村の巡礼道は、村の外を映し始めた。

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