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聖女は世界をハックする 〜見た目は魔法!?超古代技術で貧しい村を天空都市に育てます〜  作者: 七森ふれあ
祈りの道は村を越える

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CROSSOVER episode.6 /REN

 広場の白い円は、まだ薄く残っていた。


 朝の光の中で見ると、それは夜よりも頼りなく見えた。土の上に粉で描いたような線。けれど、誰も踏まない。村人たちはもう、広場の中央を少し避けて歩いている。


 井戸の水は静かだった。


 地下倉庫の入口も閉まっている。


 豆畑の葉は、風もないのに、さわさわと小さく揺れていた。


 東西の係留石は、鳴っていない。


 古い祠には、白い野花が置かれている。


 南端石の周りには、見守り係の子どもが二人いた。近づかない。触らない。草も踏まない。そう言われて、ちゃんと遠くから見ている。けれど、顔は怖がっていない。少し得意そうだった。


 ミオは広場の端に座り、透明の板を膝の上に置いた。


 白狐さんは隣にいる。しっぽは一本にそろっていた。リタは少し離れたところで、井戸の人と話している。


「白狐さん」

「はい」

「昨日は、村、壊れてませんよね」

「壊れていません」

「浮いてもいませんよね」

「浮いていません」

「よかったです」

「はい」


 ミオは息を吐いた。


 それでも、白い円は残っている。


 昨日の表示も頭に残っている。


 村底部軽減。


 浮上機構。


 空帰還鍵。


 南側線。


 どれも、見なかったことにはならない。


 透明の板が、ふわっと光った。


[D BLOCK FINAL CHECK]

――――――――――

中央受け場:仮安定

井戸水重心:安定

倉庫荷重:安定

畑風受け:安定

古い祠:安定

東西係留:弱保持

南側線:待機

空帰還鍵:未検出

浮上:未実行

――――――――――


「未実行」

「はい」

「大事です」

「大事ですね」


 ミオは、未実行の文字を少し長く見た。


 浮いていない。


 まだ、ここにある。


 村人もそれを分かっている。だから、井戸へ水を汲みに行く。畑へ豆を見に行く。倉庫へ荷を見に行く。祠を掃く。東西の石を遠くから見る。


 怖いだけでは、もうない。


 自分たちの場所だから、見ている。


 ミオは透明の板を膝の上で開いたまま、広場を見回した。


 井戸。


 倉庫。


 畑。


 祠。


 東西の係留石。


 広場の白い円。


 昨日までばらばらに鳴っていたものが、今は一枚の表示に収まっている。


 南端石の草が、さわ、と揺れた。


 見守り係の子どもが、すぐに手を上げる。


「揺れた!」

「見えています」


 ミオは立ち上がらなかった。


 行かないためではない。


 ここからでも、見えるようになったからだ。


 透明の板が、もう一度光った。


 白い円から南へ伸びる細い線が、少しだけ明るくなる。南端石の草は、もう一度だけ、さわ、と揺れた。


[VILLAGE FOUNDATION RESPONSE]

――――――――――

地方管理基盤:仮安定

村底部軽減:確認

浮上機構:存在推定

空帰還鍵:条件型

南側線:未接続

接触:未成立

――――――――――


 ミオは、その文字をゆっくり読んだ。


 存在推定。


 未接続。


 未成立。


 全部、まだ途中だ。


 でも、昨日より散らかっていない。


「白狐さん」

「はい」

「村の状態が、まとめて見えます」

「はい」

「走り回らなくても」

「はい」

「便利です」

「便利ですね」

「怖い便利です」

「少し」


 白狐さんが、小さく笑った。


 板の端に、別の表示が薄く混じった。


 見慣れた形だった。


 名前の前に、斜めの線。


[CROSS ROUTE FRAGMENT]

――――――――――

/REN

種別:観測経路

経由:地方管理基盤

送信:不可

返路:未確定

――――――――――


「レン」


 声に出た。


 白狐さんの耳が少し動く。


「出ましたね」

「はい」

「前にも出た道の名です」

「はい。でも、今日は広場の円に重なっています」


 `/REN`


 小祠や星見台で見た時とは違う。


 今は、広場の白い円の端に、その文字が乗っている。中央受け場。井戸。倉庫。畑。祠。東西の係留。南側線。その全部の表示の上に、薄く重なっている。


 透明の板が、もう一段ログを出した。


[CROSS ROUTE FRAGMENT]

――――――――――

/REN:REACQUIRED

種別:観測経路

経由:地方管理基盤

接触:未成立

音声:なし

――――――――――


「再取得」

「はい」

「でも、話せません」

「はい」

「声もありません」

「ありません」


 ミオは、少しだけ唇を結んだ。


 残念だと思った。


 でも、少しほっともした。


 今つながってしまったら、何を言えばいいか分からない。村が一瞬軽くなりました、と言うのか。南端石に鍵穴が出ました、と言うのか。空帰還鍵が未検出です、と言うのか。


 たぶん、全部おかしい。


 透明の板の端が、白く乱れた。


 旧文明の表示でも、村の祠の表示でもない。


 現代層。


 前にも出た言葉だった。


[外部ログ断片]

――――――――――

由来:現代層

鍵語:URL

NCODE:n4174mf

補足:URL内にNCODEを含む形式

――――――――――


「また出ました」


 ミオは、前の記録を一行だけ開いた。


[前回外部ログ断片]

――――――――――

NCODE:n6254mf

解釈:現在世界識別コード

――――――――――


「前のは、こっちでした」

「はい」

「今回は」

「n4174mf、ですね」

「はい」

「/REN 側かもしれません」


 白狐さんは、透明の板を静かに見た。


「レンの世界を示す名、ということですか」

「たぶん」

「確かなのですか」

「透明板は、まだ言い切ってません」

「では」

「消さないで残します」


 ミオは記録保持を選んだ。


[LOG HOLD]

――――――――――

/REN:REACQUIRED

接触:未成立

地方管理基盤:仮安定

外部ログ断片:保持

外部NCODE:n4174mf

次確認:南側線

――――――――――


 リタが戻ってきた。


「ミオ様」

「はい」

「何か出ましたか」

「出ました」

「遠くのものですか」

「たぶん」

「では、村の中から見えるようになったのですね」

「そうかもしれません」


 ミオは、透明の板の端に残った記録を見た。


 声はない。


 返事もない。


 でも、名前の道と、別の世界の番号が並んでいる。


 前より少しだけ、遠さの形が分かった気がした。


 気がしただけなので、言わない。


 白狐さんが広場の円を見た。


「ミオ」

「はい」

「次は、南側線ですね」

「はい」

「ここから見えています」

「はい」

「なら、村の中心から整えられます」

「……はい」


 南端石の草が、さわ、と揺れた。


 見守り係の子どもが、また声を上げる。


「揺れた!」

「見えています」

「見えてるならいい?」

「いいです。続けてください」

「うん!」


 子どもたちは、南端石の方を向き直った。


 村人たちが少し笑った。


 広場の白い円が、ぽん、と小さく鳴った。


 誰も逃げなかった。


 少しだけ身構えて、それから自分の場所へ戻っていく。井戸の人は井戸へ。畑の人は畑へ。倉庫の人は倉庫へ。祠の老人は、花の横の土を指で払っている。


 ミオは透明の板を閉じなかった。


「白狐さん」

「はい」

「次は、これを消さないようにします」

「はい」

「話せなくても」

「はい」

「道と番号をなくさないようにします」

「よいと思います」


 ミオは南端石を見た。


 鍵穴の模様は、もう見えていない。


 草だけが、さわさわと動いている。


 広場の白い円から、南へ伸びた線が薄く続いている。


 ここから見える。


 それが、昨日とは違っていた。


 南端石の草が、もう一度だけ揺れた。


 見守り係の子どもが、すぐに手を上げる。


「また揺れた!」

「見えています」


 ミオは、広場の円の外からうなずいた。


 昨日なら、走って見に行っていた。


 今日は、ここで分かった。

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