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聖女は世界をハックする 〜見た目は魔法!?超古代技術で貧しい村を天空都市に育てます〜  作者: 七森ふれあ
祈りの道は村を越える

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152/192

第145話 古い祠の白砂

 古い祠は、広場の端にあった。


 大きなものではない。腰くらいの高さの石祠で、屋根も小さく、角は少し丸い。村の人たちは、昔からそこにあるものとして扱っていた。何を祀っているのか、はっきり覚えている者は少ない。ただ、畑の前を通る時に少し頭を下げたり、子どもが石を蹴りそうになると大人が止めたりする。


 その祠の石の隙間から、白い灯りがちょん、ちょん、と跳ねていた。


 広場の白い円へ行きたいのに、途中で止まっている。


 そんな動きだった。


「白狐さん」

「はい」

「祠の灯り、届いてないですね」

「届いていませんね」

「届かないなら、来なくてもいいのに」

「来たいのでしょう」

「祠の灯りに、意思を持たせないでください」

「すみません」


 ミオは透明の板を持って、祠の前にしゃがんだ。


 板には、中央受け場の表示が薄く残っている。そこから古い祠へ細い線が伸びていた。だが、祠の手前で、線がぷつぷつ切れている。


[SHRINE LINK]

――――――――――

古い祠:未接続

中央受け場:仮接続

東西係留:接続

井戸・倉庫・畑:接続

不足:祠側の白砂

確認:石の隙間

――――――――――


「石の隙間」

「ミオ様?」

「祠の隙間に白砂が詰まっているみたいです」

「払うのですか」

「たぶん」

「ミオ様が払うと」

「何か起きますね」

「はい」

「言わなくても分かるようになってきました」


 リタは少し申し訳なさそうにした。


 村人たちは、祠の周りを遠巻きに囲んでいる。中央の白い円を見た後なので、もう誰も気軽に近づかない。ミオが透明の板を祠へ向けると、何人かが手を合わせた。


「聖女様が、古い祠をお開きになる」

「開きません」

「では、お清めに」

「掃除です」

「聖なる掃除」

「増やさないでください」


 白狐が祠の屋根に手をかざした。


「石は崩れていません」

「よかったです」

「ですが、隙間に白い砂が多いですね」

「見えます?」

「はい。屋根の下と、台座の横です」

「そこを払えばよさそうですね」

「少しずつです」


 ミオは布を出した。


 北、井戸、畑、東西の石。何度も白い砂を払ったせいで、布はもうかなり白い。普通の布だと言い張るには、少し無理がある。村人たちが見ている前で取り出すと、ざわっとした。


「聖布だ」

「普通の布です」

「東の石を鎮めた布だ」

「普通の布が、たまたま役に立ちました」

「聖女様の普通は、普通ではない」

「言い返しにくいです」


 ミオは布の端を細く折った。


 祠の屋根の下、石と石の間に、そっと入れる。


 ぱふ。


 白い砂が細く舞った。


 祠の中で、ちょん、と灯りが跳ねる。


 広場の白い円も、ふわ、と一度だけ光った。


 ミオは手を止めた。


「今、円も光りました」

「はい」

「祠だけじゃないです」

「中央とつながりかけていますね」

「かけている、で止めたいです」

「止まりますか」

「止まらない気がします」


 白狐は答えなかった。


 ミオは、もう少しだけ砂を払った。


 さらさら。


 石の隙間から、細い白線が出る。


 その線は、祠の台座を回り、土の上へ降り、広場の白い円へ向かった。だが、途中でまだ切れている。あと少し。ほんの手のひら一枚分くらいの距離だ。


 透明の板の表示が変わる。


[SHRINE WHITE SAND]

――――――――――

白砂:除去中

祠線:一部露出

中央受け場:反応

灯り:移動準備

不足:台座下

――――――――――


「台座下」

「ミオ様?」

「下です」

「また下ですか」

「はい。最近、下ばかりです」

「村の下に、いろいろありますね」

「ありすぎです」


 ミオは祠の台座を見た。


 動かせる大きさではない。石でできているし、古い。下に手を入れる隙間も少ない。そこに白い砂がたまっている。どう見ても、やりにくい場所だった。


「白狐さん」

「はい」

「台座下を払うには」

「細い枝か、平たい板が必要ですね」

「ありますか」

「村の方に頼みましょう」


 村人の一人が、すぐに細い木片を持ってきた。別の人が薄い木べらを持ってきた。誰かが布も持ってきた。集まるのが早い。


「準備がいいですね」

「聖女様のお清めだからな」

「掃除です」

「掃除でも、聖女様の掃除だ」

「もう勝てない気がします」


 リタが、小さくうなずいた。


「ミオ様」

「はい」

「今日は、勝たなくてもよいと思います」

「何にですか」

「呼び方に」

「負けたくないです」


 ミオは木べらの先に布を巻き、祠の台座下へそっと差し込んだ。


 こすらない。


 押さない。


 ただ、白い砂を引っかけるように、ゆっくり動かす。


 さら。


 さらさら。


 台座の下から、白い砂が出てくる。


 思ったより多い。


 小さな山になって、祠の前に落ちた。


 灯りが、ちょん、とその山を飛び越えた。


 広場の白い円へ、一歩近づく。


「動きました」

「動きましたね」

「あと少しです」

「はい」


 ミオはもう一度、木べらを差し込んだ。


 さら。


 今度は、白い砂と一緒に、小さな石片が出てきた。


 欠けた石だ。


 祠の台座の一部だろうか。丸く削れていて、表面に白い線が一本入っている。ミオが拾うと、透明の板の表示が濃くなった。


[SHRINE KEY PIECE]

――――――――――

欠け石:検出

祠線:断線

中央受け場:待機

作業:欠け石を戻す

注意:押し込み不可

――――――――――


「戻す」

「ミオ様?」

「この石を戻すみたいです」

「押し込んではいけないのですか」

「はい。押し込み不可って出ています」

「では、置くのですか」

「たぶん、そうです」


 ミオは祠の台座をよく見た。


 右下の角に、小さな欠けがある。そこへ石片を近づけると、白い線がふわっと浮いた。ぴったりではない。少し向きを変える。もう少し。角度を変える。白い線がつながる。


 カチ、とは鳴らなかった。


 ただ、ふわ、と石片が吸い寄せられ、台座の欠けへおさまった。


 村人たちが声を出す。


「石が戻った」

「ミオ様が戻された」

「置いただけです」

「置いて戻るのが、聖女様です」

「そういうことにしないでください」


 祠の中の白い灯りが、今度は大きく跳ねた。


 ちょん。


 ちょん。


 ちょん。


 祠から広場へ向かう白い線が、最後の隙間をつないだ。


 広場の白い円が、ふわりと明るくなる。


 東側の石。


 西側の石。


 井戸。


 地下倉庫。


 畑。


 古い祠。


 それぞれが、小さく一度ずつ鳴った。


 こつん。


 こつん。


 こぽん。


 ことん。


 ぱた。


 ちょん。


 最後に、広場の円が、ぽん、と低く鳴った。


 透明の板の表示が変わった。


[CENTER LINK COMPLETE]

――――――――――

中央受け場:仮接続

東西係留:接続

井戸水重心:接続

倉庫荷重:接続

畑風受け:接続

古い祠:接続

状態:中央確認待ち

――――――――――


「つながりました」

「ミオ様」

「はい」

「全部ですか」

「今、見えている分は」

「今、見えている分」

「はい。そこが怖いです」


 村人たちは、祠と広場の円を見比べていた。


 聖女様が古い祠を清め、欠けた石を戻し、村の中心へ光を通した。


 たぶん、そう見えている。


 ミオとしては、砂を払って、石を戻しただけだ。


 だが、祠から広場へ白い線が伸びているので、やっぱり否定が弱い。


「白狐さん」

「はい」

「中央へ戻るんですよね」

「はい」

「円の中には」

「まだ入らない方がよいでしょう」

「よかったです」

「ですが、外から確認は必要です」

「ですよね」


 リタが、そっと祠へ頭を下げた。


 村人たちも、つられて頭を下げる。


 ミオも、なんとなく下げた。


 祠の白い灯りは、もう跳ねていない。石の中に戻ったのか、見えなくなっている。ただ、台座の欠けに戻した石片だけが、うっすら白い。


 広場の方で、ぽん、と音がした。


 さっきより低い。


 さっきより近い。


 透明の板の端で、中央確認待ちの文字が濃くなる。


「行きましょう」

「はい、ミオ」

「ミオ様」

「はい」

「中央が、また鳴りました」

「聞こえました」

「行きますか」

「行きます」


 ミオは透明の板を持ち直した。


 祠から広場へ、白い線がすうっと伸びている。


 その線の先で、白い円が、薄く、丸く、待っていた。

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