表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女は世界をハックする 〜見た目は魔法!?超古代技術で貧しい村を天空都市に育てます〜  作者: 七森ふれあ
祈りの道は村を越える

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
150/193

第143話 西の係留石

 西側の境界石は、まだ鳴っていなかった。


 けれど、根元だけが白く光っている。


 東から伸びた細い線が、畑を横切り、井戸の脇をかすめ、地下倉庫の入口の前を通って、西の石へ届いていた。線の上では、豆葉がぱた、ぱた、と左右に分かれる。井戸の水面は、東へ寄ったまま、時々こぽんと小さく鳴る。倉庫の方では、こと、こと、と棚が控えめに鳴っていた。


 東側の布は、まだ持っている。


 たぶん、短時間だけ。


 ミオは西側の石の前に立った。


「白狐さん」

「はい」

「こっちは、まだ静かです」

「静かですが、根元は光っています」

「石、寝たふりしてませんか」

「石に寝たふりはないと思います」

「ですよね」


 リタは息を整えながら、ミオの後ろに立った。桶は置いてきた。子どもが見守っている。あれはもう、ひとつの仕事になってしまった。


「ミオ様、東の水は大丈夫でしょうか」

「見守り係がいます」

「はい」

「大丈夫だと信じます」

「見守り係は、とても真剣でした」

「そこは安心ですね」


 村人たちは、東と西の間に散っている。


 誰かが豆畑を見ている。誰かが井戸を見ている。誰かが倉庫の入口を見ている。そして何人かは、ミオが持つ透明の板を見ている。村人たちには、白い模様の浮いた聖なる石板に見えている。ミオがそれを西へ向けると、ざわっと空気が動いた。


「聖女様が、西の石もお鎮めになる」

「確認です」

「東と西をお結びになるのか」

「まだ結びません」

「でも、石板が」

「板は表示しているだけです」

「表示の御言葉」

「御言葉にしないでください」


 透明の板の文字が、ゆっくり濃くなる。


[WEST ANCHOR STONE]

――――――――――

西側係留石:未反応

東側係留:仮反応

村底部:東へ偏り

応急保持:短時間

確認:根元の白砂

――――――――――


「未反応」

「ミオ様?」

「西側は、まだ起きていないみたいです」

「起こすのですか」

「起こさないと、東へ寄ったままです」

「起こすと、何が起きますか」

「そこが問題です」


 白狐が西側の石を見た。


 東側と同じような境界石だ。草に半分埋もれ、根元に白い砂がうっすらたまっている。ただ、こちらはまだこつんとも鳴っていない。東側の石より少しだけ低く、欠けが多い。


「白狐さん」

「はい」

「欠けてますね」

「欠けていますね」

「これ、触ったら崩れたりしませんか」

「慎重にした方がよいです」

「慎重に払うの、難しいですね」

「ミオならできます」

「急に信頼しないでください」

「いつも信頼しています」

「今だけ少し重いです」


 ミオはしゃがみ、石の根元を見た。


 白い砂は、東より厚くない。けれど、溝の入り方が浅い。砂を払えば、すぐ線が出るようにも見える。逆に、線が欠けているようにも見える。


 ミオは布を出そうとして、手を止めた。


 東側に置いてきた布ではない。予備の小さな布だ。こちらも白い粉がついている。もう普通の布ではなくなってきている気がする。


「リタさん」

「はい」

「これも聖布になりそうですか」

「たぶん」

「使いたくなくなってきました」

「でも使わないと、石が」

「ですよね」


 ミオは布の端で、根元の砂をほんの少しだけ払った。


 ぱふ。


 白い粉が、石の横へ落ちる。


 何も起きない。


 もう少し払う。


 さら。


 石の根元に、細い白線が一本見えた。


 その瞬間、東側から、こつん、と音が来た。


 遠い。


 けれど、はっきり分かる。


 桶の水を見守っていた子どもが、向こうで叫んだ。


「水、少し戻った!」


 村人たちがざわっとした。


「今ので?」

「今ので」

「まだ少ししか払ってないです」

「はい」

「白狐さん」

「はい」

「西、効きすぎでは」

「東ほど強くはありません。ですが、釣り合いには反応しているようです」

「釣り合い」


 透明の板の表示が変わった。


[ANCHOR BALANCE]

――――――――――

西側係留石:反応開始

東側係留:応急保持中

水重心:中央へ戻り始め

倉庫荷重:中央へ戻り始め

畑風受け:中央へ戻り始め

注意:急接続不可

――――――――――


「急接続不可」

「ミオ様?」

「急に繋ぐな、だそうです」

「では、ゆっくりですね」

「はい。ゆっくりです」

「ミオ様は、ゆっくりできますか」

「できます」

「本当に?」

「たぶん」


 白狐が、小さく笑った。


「ミオ。少しずつです」

「はい」


 ミオは、もう一度だけ砂を払った。


 ぱふ。


 さらさら。


 西側の根元輪が、細く浮いた。


 東側と同じだ。けれど、こちらの輪は少し欠けている。白い線が一周しきらず、途中でぷつ、と切れている。切れた先には、古い土が詰まっていた。


「切れてます」

「見えます」

「これ、直せますか」

「払えば、線は見えるかもしれません」

「払って、壊れたら?」

「困ります」

「ですよね」


 村人の一人が、おそるおそる近づいた。


「ミオさん、その石、昔から少し傾いていた」

「そうなんですか」

「子どもが上に乗ると、ぐらっとするから、近づくなと言っていた」

「子どもが」

「はい」

「登りますよね」

「登ります」

「石ですもんね」


 妙な納得があった。


 ミオは切れた線の周りの土を、指で少しだけ崩した。石を動かさないように、ほんの少し。白い粉が下から出る。さらさらと払う。すると、途切れていた線の先が見えた。


 繋がっている。


 欠けているのではなく、土で隠れていただけだった。


「ありました」

「はい」

「よかったです」

「本当に」


 ミオは布で、線の上だけをそっと拭った。


 白い輪が、一周した。


 西側の石が、こつん、と鳴った。


 東側の石も、遠くでこつんと返した。


 桶の水が、ちゃぷん、と中央へ戻ったらしい。子どもがまた叫んだ。


「水、丸くなった!」


「丸く?」

「普通に戻った、って意味だと思います」

「子どもの報告、かわいいですね」

「はい。少し助かります」


 畑の豆葉が、東へ寝ていた分を起こした。


 ぱた。


 ぱたぱた。


 今度は西へ倒れすぎない。東と西の間で、ふわふわ揺れながら戻る。倉庫の方でも、こと、こと、と鳴っていた棚が静かになった。


 透明の板に、新しい表示が出る。


[WEST ANCHOR ROOT]

――――――――――

根元輪:露出

西側係留:仮反応

東側係留:応急保持

水重心:中央寄り

倉庫荷重:中央寄り

畑風受け:中央寄り

――――――――――


「中央寄り」

「ミオ様?」

「中央へ戻っているみたいです」

「よかったです」

「まだ仮ですけど」

「仮でも、戻っています」

「そうですね」


 村人たちが、ほっと息を吐いた。


 だが、その直後だった。


 東側の透明な鎖が、ふっと濃くなった。


 西側の石の根元からも、透明な線が一本浮いた。


 東と同じように、斜め上へ少しだけ出て、土の奥へ消える。二本の見えない鎖が、村の左右で同時に揺れた。


 ふる。


 ふる。


 桶の水が、中央で小さく震えた。


 井戸が、こぽんと鳴った。


 倉庫の床下から、すう、と風が出た。


 畑の豆葉が、東西に分かれて、道を空けた。


 その道の先。


 村の中央の方で、ぽん、と音がした。


 ミオは顔を上げた。


「今の」

「中央ですね」

「白狐さん」

「はい」

「東西が揃ったら、中央が鳴りました」

「そのようです」

「やっぱり、そうなりますか」

「はい」


 リタが、村の中央を見た。


「中央には、何がありましたか」

「広場です」

「広場」

「はい」

「何かありましたか」

「たぶん、なかったです」

「ミオ様」

「はい」

「最近、なかった場所から出ます」

「知っています」


 透明の板の表示が、すうっと変わった。


[ANCHOR PAIR]

――――――――――

東側係留:仮反応

西側係留:仮反応

東西偏り:弱

井戸水重心:中央寄り

倉庫荷重:中央寄り

畑風受け:中央寄り

次確認:村中央

――――――――――


「村中央」

「ミオ様?」

「次、広場です」

「聖女様が、広場へ」

「確認しに、です」

「はい。確認しに」

「その言い方、少し慣れてきてませんか」

「はい」

「慣れないでください」


 村人たちは、もう中央の方を見ていた。


 東と西の係留石が、こつん、こつん、と交互に鳴る。まるで、広場へ行けと言っているみたいだった。いや、石は言わない。言わないが、音がする。


 ミオは透明の板を閉じなかった。


 東西の文字が薄く残り、その下で村中央の文字が濃くなっている。


 広場の方から、もう一度、ぽん、と音がした。


 今度は、少し低かった。


 地面の下で、大きな木桶を叩いたような音だった。

「続きが読みたい」と思ったら下の評価とブックマーク登録をどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ