表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女は世界をハックする 〜見た目は魔法!?超古代技術で貧しい村を天空都市に育てます〜  作者: 七森ふれあ
祈りの道は村を越える

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
149/192

第142話 東だけでは危ない

 西へ向かおうとしたところで、桶の水が、ちゃぷんと鳴った。


 リタが置いた桶だ。子どもが真剣な顔で見守っている。その水が、また東へ寄った。こぼれはしない。だが、桶の片側にだけ水が集まり、ぷくっと盛り上がっている。


 東側の境界石から伸びた透明な鎖は、まだ薄く見えていた。


 石の根元から、斜め上へ少しだけ浮いて、土の中へ消える。風に揺れるわけでもないのに、ふるふる震えている。豆葉は東へ倒れたまま、ぱたぱた小さく鳴っていた。


「ミオ様」

「はい」

「水が、また東へ行きました」

「行かせないでください」

「どうやって」

「……見守ってください」

「見守りはしています」


 子どもが、すごく真面目に言った。


 ミオは少しだけ困った。見守りは、確かにしている。だが、水は東へ寄っている。見守りでは足りない。


 透明の板には、東側係留の表示が濃く残っていた。


[BALANCE WARNING]

――――――――――

東側係留:仮反応

西側係留:未確認

村底部:東へ偏り

井戸水面:東寄り

倉庫荷重:東寄り

畑風受け:東寄り

――――――――――


「白狐さん」

「はい」

「やっぱり、東だけだと危ないみたいです」

「そのようですね」

「西へ行く前に、東を止める方法は」

「ありますか」

「聞き返さないでください」

「すみません」


 東側の石が、こつんと鳴った。


 すると、桶の水がもう少しだけ東へ盛り上がった。子どもが、両手で桶を押さえる。


「水、こぼれそう」

「こぼさないでください」

「水が勝手に」

「分かっています」


 畑では、東側の豆葉だけが少し寝たままだった。茎は折れていない。葉も傷んでいない。だが、東へ引っ張られているように見える。畑の外縁石に走った白い線も、東側だけ濃い。


 倉庫の方では、かたん、かたん、と小さな音がしていた。


 荷が東へ寄っている。


 見なくても分かった。


「ミオさん、倉庫の棚が少し鳴ってる」

「東側ですか」

「東側だ」

「ですよね」


 村人たちがざわっとした。


 ミオが透明の板を見下ろす。村人たちには、聖なる石板を見て、村の傾きを読んでいるように見えているはずだった。実際には、表示を読んでいるだけだ。けれど、表示の内容が内容なので、今回はあまり違わない気もした。


「聖女様、村が傾いておるのですか」

「傾いてはいません」

「では」

「寄っています」

「寄っている」

「東へ」

「それは、傾いているのでは」

「言い方の問題です」


 白狐が、静かに東側の石を見た。


「ミオ。東の線を、強くしすぎない方がよいかもしれません」

「強くしたつもりはないです」

「はい。ですが、砂を払ったことで、東だけが反応しています」

「つまり、東だけ起こしてしまった」

「そうなります」


 ミオは東側の石の根元を見た。


 白い輪がある。


 透明な鎖がある。


 豆葉も水も荷も、そちらへ寄っている。


 やったことは、白い砂を払っただけだ。


 それなのに、村の中身が一斉に東へ寄っている。


「リタさん」

「はい」

「こういう時、聖女様ならどうしますか」

「祈ります」

「私は」

「ミオ様は、石板を見ます」

「ですよね」


 ミオは透明の板を持ち直した。


 板の中で、東側係留の表示が少し揺れている。下に、新しい行が浮いた。


[TEMPORARY HOLD]

――――――――――

東側係留:反応過多

単独固定:不可

推奨:西側係留確認

応急:東側出力低下

方法:根元輪の白線を一部遮る

――――――――――


「応急、出ました」

「ミオ様、何をすれば」

「根元の白線を、一部遮るそうです」

「遮る」

「はい」

「どうやって」

「……布で?」


 白狐が少しだけ首を傾げた。


「やってみる価値はあります」

「白狐さん、ちょっと雑じゃないですか」

「正しい方法が見えない時は、小さく試すしかありません」

「なるほど」

「大きく試すと、村が大きく動きます」

「それは嫌です」


 ミオは東側の石へ戻った。


 村人たちは、さっと道を空けた。聖女様が石を鎮めに戻る。そんな空気だ。ミオとしては、布を置きに行くだけだが、もう否定する気力が少し減っていた。


 東側の根元輪は、白く光っている。


 ミオは布の端を折り、白線の一部にそっとかぶせた。


 ぱた。


 小さな音がした。


 豆葉が少し戻った。


 桶の水が、ぷくっとした東寄りを少しだけゆるめる。


 倉庫の音も、かたん、から、こと、に変わった。


「……効きました」

「効きましたね」

「布で」

「はい」

「布で係留石を弱めました」

「そうなります」

「白狐さん」

「はい」

「言い方を変えたいです」

「布を置きました」

「それでお願いします」


 透明の板の表示が薄く変わる。


[TEMPORARY HOLD]

――――――――――

東側係留:出力低下

井戸水面:やや安定

倉庫荷重:やや安定

畑風受け:やや安定

西側係留:未確認

維持:短時間

――――――――――


「短時間」

「ミオ様?」

「長くはもたないそうです」

「では、西へ」

「はい。西へ」


 村人の子どもが桶を見た。


「水、ちょっと戻った」

「ありがとうございます」

「まだ見てる?」

「お願いします」

「うん」


 子どもは胸を張った。


 リタが、真剣な顔でその子にうなずいた。見守り係が正式な仕事になってしまった。ミオは少しだけ笑いそうになったが、今は笑えなかった。


 東側の透明な鎖は、まだ見えている。


 ただ、さっきより震えが小さい。布をかぶせた白線のあたりだけ、光が少し鈍っている。応急処置としては、効いているらしい。


 村人たちは、それを見てまたざわついた。


「聖女様が布で石を鎮めた」

「違います」

「では、聖なる布ですか」

「普通の布です」

「光っております」

「白い砂がついているだけです」

「白い砂の布……」

「増やさないでください」


 リタが小さく言った。


「ミオ様」

「はい」

「その布、村人にはたぶん、もう聖布です」

「嫌な昇格をしました」

「はい」


 白狐が、西側を見た。


「行きましょう。東は短く持ちます」

「短く」

「はい」

「急ぎます」

「走らないでください」

「走ると何か踏みそうです」

「はい」


 ミオは透明の板を見た。


 西側係留の文字が、前より濃くなっている。東側から伸びた細い線が、畑を横切り、井戸の近くを通り、村の反対側へ向かっていた。


 畑の豆葉は、東から西へ向かう線の上だけ、ぱた、ぱた、と左右に分かれている。


 まるで、道を作っている。


 いや、作っているように見える。


 その言い換えが、もう追いつかなくなっていた。


「ミオ様、西側です」

「はい」

「石板も、そちらを示しているのですね」

「はい」

「聖女様が、西の石を鎮めに」

「確認しに、です」

「確認しに」

「はい」

「鎮めるかもしれません」

「リタさん」

「すみません」


 村の反対側へ歩き出す。


 後ろで、東側の石が、こつんと小さく鳴った。


 桶の水が、ちゃぷんと揺れる。


 子どもが「あ、まだ大丈夫」と報告した。


 ミオは振り返らずに、手だけ上げた。


 畑の白い線は、西へ向かって、すうっと伸びている。


 その先で、まだ鳴っていなかった境界石の根元が、白く光り始めた。

「続きが読みたい」と思ったら下の評価とブックマーク登録をどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ