第5房 家庭教師の渡来
5歳の誕生日パーティーから数日が経過した。
マルーシャからはタンクについての説明を受けた。とは言ってもローニーは自らの意思でバナ放出ができるのでそこまで生活に影響はなかった。
わかったことがひとつ。自らのバナのみで大出力をした場合は環境影響なし。周りのバナを借用して大出力した場合にあの訓練場の様な状態になってしまう。
とあるよく晴れた昼下がり1人の女性がウェスト家を訪れた。しかしゴリラではない。風に靡く流れる様な赤髪のロングヘアー。まるでオランウータンの様だった。
「こんにちは。あなたがローランドですね?私は今日からあなたの教育係となったモリーです。お姉ちゃんって呼んでもいいわよ?よろしくね。」女性ははつらつとした声でそう言いニコッと笑った。
「大丈夫!あなたのことは聞いているわ異能持ちでしょ?私もだから!」ニマッと眩しいくらいの笑顔で笑った。彼女には距離感という概念がないらしい。
どうやらドタバタの騒がしい日々が始まる予感がした。
彼女はうちに下宿するらしい。ローニーの部屋の2つ隣...なんだか胸がドキドキした。
次の日から早速特訓が始まった。
ちょっと家から離れよっか?の提案にかつての修行場の近くの野原に案内した。ここならほとんど人は来ない。
「OK!ローニーまずは私の能力から見せるわね」
両手で蕾を作り、目を閉じる。蕾が薄緑色に発光する。「開け」という言葉と共に芽吹く草木次の瞬間。大きく成長した木がそこに現れた。
「私の能力は成長と増長。名を"マキノト"」
いい?と得意満面フェイスでこちらを見る。
「私がアルフレッド様から受けた依頼はこの3つのことを覚えてもらうため!」と大きく3本の立てた指を天に掲げる。
「ひとつ!バナと物質の共存について」
「ひとつ!バナの抽出と借用について」
「ひとつ!世界は広く美味しいものも沢山ある」
もう突っ込む気すら起きない。ローニーは次の思考に移っている。
「ちょいちょい!お姉さんの話聞きなさいな」
冷ややかな目線を送るが内心はバナのことで聞きたいことでいっぱいだった。
「あの...バナと物質の共存っていうのはどういうこと?」なんとなく想像はつく
「おお少年!良い質問です。バナっていうのは万物に宿る言わば存在す流ためのエネルギーです。だからそのエネルギーがなくなるとその物質は無くなってしまう。岩も草木も空気もね。」
これはあの修行場がそうだ。あれは強制的にバナを奪ったからそうなった。持論とも一致したことで納得がいった。
「次にそれによる破壊を防ぐためにバナの声を聞く」
鼻息をフンッと自信満々なモリー。
そこへ冷静に「声を聞くとは?」と返す。
「これはやった方が早いかもね。おいで」っと手招きするモリー。
懐疑的ながらもそれに従うローニー。
ここ座ってと自身の隣をぽんぽんと叩く。
「いいかい?いくよ!」
ローニーも座りモリーのマネをして目を閉じる。
モリーのバナを感じる。ザワザワザワザワ....!?
これは....歌?この感じどこかで聞いた様な....
...だよ....ょうぶだよ...大丈夫だよ
聞こえた!ローニーはハッと目を開ける。
隣には満面の笑みを浮かべたオランウータンがいる。ね?聞こえたでしょ?
なるほど...バナにはバナの流れがあってその音に耳を傾けることで物質のバナ量の臨界点を....
「何を難しい顔してんのさ!」声ききゃいいんよ
この時に全てを理解した。あの時のダムで聴いた歌の様な声。そしてあのパイルランダーの一件。全てバナの声だ!今までなんで気づかなかったんだろう。こんなにバナに助けられていたことに。
「わかった...わかったよ!師匠!」初めて見せるローニーの少年の表情と突然呼ばれた師匠という言葉。
モリーは顔を赤らめてえへへと照れた。
一方で腑に落ちないこともある....
じゃあ一体誰がバナ操作をしてパイルランダーの腕を治したんだろう?あれはローニーの力でないことは自覚していた。しかし周りにはマルーシャとパイルだけだった。2人のどちらか...いや違う。どちらかが特異ならお祖父様が知ってるはずだ。じゃあ誰が?
疑問は残るが考える猶予はこれ以上ない様だ。荒れ狂うお姉様の声が聞こえる。
「ししょーの話をきちんと聞きんしゃぁああい」
ドロップキックがクリーンヒットし初日は意識を失って終了した。
ーーー翌日-----
気がつくと。よく知っている天井だった。なんだか身体が重たい。そっと身体の方を見ると師匠が寄り添い...いやのしかかっていた。チョップで起こす。
あっふ...という呻き声...。
修行場にやってきた。
「よーし今日はバナの借用から放出をやってみようか!君はタンクだからバナ量は大きけどバナの本質は自然との調和だからね。自然からお借りして自然に返す。」
なるほど。バナは共有資産で世界全体で循環されるということか。師匠のギャップに圧倒されつつも着実に理解を深めていく。
「じゃあ座って!やって覚えよう!
大丈夫大丈夫。バナ獲りすぎたら私がリミッターになるから。」
座り目を閉じて空っぽになる。ヌルっとした感覚。これにももう慣れてきた。自分の体内でバナを混ぜる。ここで声を聞く....................
はいストーーップ!
パンっという手を叩く音で目を開ける。
「ちょっと獲りすぎ!もう少し丁寧に声を聞いて」
うーん。なかなか手厳しい。
ーーー3週間後----
修行場に2人の姿があった。
「うんうん。そのまま!いい感じ」
ローニーは手を目の前にバナも力で空気を圧縮して空気中の水分を絞るイメージ。
ザザザーっと空気中から数リットルの水が現れた。
「できた!!」ローニーは飛び跳ねて喜んだ。
「うんうん。君の能力ベルヌーイの本質は圧力による流体圧縮だからね。応用すれば色々便利そうだね。」となぜか誇らしげである。
それから2人はバナ操作の基礎や応用、新たな使い方や作用を研究していった。ローニーにとって勉強になっていたが、モリーにとっても充実した時間だった。
モリーもまたオランウータン族では異端とされ独りで育った。それゆえに純粋に同じ境遇のローニーとの出会いは彼女にとってかけがえのないものになっていた。
バナの修行だけでなくローニーはモリーから世界のことを学んだ。モリーは幼少期に特異体質が判明して依頼親と共に秘密にしてきたがついに7歳で発覚。オランウータン共和国では異能は神授の者と呼ばれるがそれは表向き。裏では人体実験の被験体に等しい扱いだった様だ。オランウータン族の異能持ちは数人程度入るらしいが詳しい数はわからない。それからモリーは国から亡命して単身で世界を回ったそうだ。そこでアルフレッドに会い、保護下においてもらったという経緯を話してくれた。
とても重い話にも関わらず彼女はまるで絵本の物語を語る様に軽やかに話してくれた。それがローニーの気持ちを少し軽くした。
「だって今が幸せだもん。いいじゃん?」と彼女は笑う。真の強さとはこういうことなんだろうなとローニーは思った。
そしてモリーが最初に言ったアルフレッドとの約束3つ目についてがとんでもなくローニーの心を揺さぶった。
オランウータン族の家庭料理
聞いたこともない果実を使ったお菓子や食べ物
チンパンジー一族に伝わる秘伝のスパイスを使った料理など世界中を旅してきたモリーだからこその一品の数々はよだれが止まらない。
アルフレッドは世界は広く、帝国が全てではないこと帝国の常識や正義だけが正しさではないということを伝えたかったらしい。
ドゴドゴドゴドゴドゴ!
突然の強い揺れに思わず地面にうつ伏せる。
メキメキと地面が軋む音。ギギギと木の悲鳴が聞こえる。
---なんだ?----地震か?----
見上げると空にはおおきな紫色の彗星が輝いていた。




