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第4房 バナとバナと時々私

 禁書庫から3週間。ローニーの中でなんとなく考えが固まってきた。

 まずはバナの操作については独学で鍛錬をして世界を回りたいと思う様になった。転生した世界の全貌を見たいという好奇心と、転生したからには何か役割があるのでは?という思いからだった。しかし現在の帝国、特に4支族の宗家であるローニーには家業がある。そんな環境で自由を求めることはタブー視されると容易に想像できた。まぁそれは後で考えればいいや。


 ローニーは毎朝9時に出かける。この時間はマルーシャは洗濯か掃除をしており、シャバーニも仕事に行っているためひとりになれるチャンスであった。

「母様!行ってきます!」とショルダーバッグに本と飲料水を入れた革の水袋を詰めて出かける。

--気をつけるのよぉ!壁は超えちゃだめよぉ!---

 マルーシャの声が背中越しに聞こえる。壁というのは国の周りをぐるっと囲む大きな壁だ。

 原っぱを抜けて小川を上流へ登ると小さな話の中に泉がある。そのほとりの岩の上がローニーの定位置だった。


 まずはあの感覚を試すか..

 目を閉じて、身体を空っぽにするイメージ...

 ヌルっとした感覚が身体に入ってくる。少しビクッとなったが今回は冷静だった。

 意識を保ちながら身体の中で混ぜて....ピリッ!

途端に目を開く....

「またダメかぁ...」を空を見上げた。

 ここ最近バナがどんなものかが感覚的にわかり始めてきた。芽吹く草木や流れる水、そしてこの岩にもバナが宿る。それらのバナが身体に入ってくると自分の中のバナと会話をしている様な、身体の取り合いをしている様な感覚だった。

 これらも自らのバナを消費するのか長い時間はまだできなかった。5回も試せばどっと疲労が押し込めてくる。でもこのトライアンドエラーが楽しく、目標に近づくためにと原動力になっていた。


 ----3か月経過----

 いってきます!ローニーはもはや母親の顔を見ずに家を飛び出す。

 気をつけてぇ、壁の外側には行かないでねぇ!

 マルーシャもいつものことなので気にせず声をかける。

 ローニーは定位置の岩の上に座り目を閉じる。

 この頃になると自然バナを取り込み自身のバナと混ぜて身体全体へ満たせるくらいのコントロールができる様になっていた。

 動的バナへの変換がすごく難しい。細部まで神経を研ぎ澄ませて指先から放出....ぷしゅぅう

「あー上手くいかない!」と空を見上げる。なんだかここ数ヶ月よく見る景色だなと感じた。


 ---2週間経過----

 ここで新たなことを発見した。自然バナを抽出し尽くしたその物質はなくなること。そして動的バナの放出が物質に作用すること。つまり抽出によってその点の空気がなくなる。逆に放出で押し出せる。

 おぉおお!理論実証にローニーは飛んで換気した。この世界のウサギは彼なのかもしれない。


 ---1週間経過----

 この日はついに大技を決める時がきた。

 岩の上に立ち泉に向かって両手をかざす。水面には圧力がかかり一切の波のない状態になった。そこから中央の圧力を取り除く。途端に一気に水は空へ上がり一体を大雨が降り注いだ。

 彼の理論は確信に変わった。おそらくバナは流体に作用できる。そして能力を"ベルヌーイ"と名付けた。

 しかしエネルギー消費が凄まじいのか。立てないほど力が抜けてしまった。しかし口元はおそらく世界中の誰よりも緩んでいたことだろう。


 それから1週間高熱で寝込んだ。

 産まれてこのかた大きな大病をしたことがないローニーの苦しむ姿を見てマルーシャは慌てふためいた。

 昼夜と問わずそばで看病しその甲斐あってすっかり回復した。この時期に風邪なんて珍しい...バナの不調か?と医者がつぶやいた時は内心ドキリとした。


 高熱もすっかりと引き、いつもの岩へ向かう。何ヶ月も通った風景は知らない景色になっていた。青々と生い茂っていた花木は枯れ、あんなに勢いのあった泉の湧き水はちょろちょろと塩らしげにしか出ていない。岩も風化し砂になったものもあった。

 ローニーは愕然とした。そうか...バナは言わば生命の源。無限の超エネルギーじゃあないんだ。エネルギーが無くなればそれは物質にとっての死を意味するのか...。ローニーは変わり果てた特訓場の姿に胸が痛くなった。


 ローニー5歳の誕生日。

 シャバーニとマルーシャ、それからウェスト一族総出の盛大なお祝いだった。中でもウェスト家当主のアルフレッドは孫の誕生日を大いに喜んだ。マルーシャは、お父様飲み過ぎではないですか?と少し皮肉ったが豪快な性格のアルフレッドは気にする様子すら無いまま宴は続いた。

「ところでロニ坊。バナについて興味がある様じゃの?ロガール嬢から聞いとるよ。」

 !?え...あ..はい、と突然の話題に返事もままならない。

「お祖父様はロガールさんを知っているの?」

「おまえさんくらいの頃から知っとるぞ?」とニヤリとした。

 そうじゃそうじゃとひとりの男を呼んだ。ウーフォンちょいとこいつを見てやってくれ。

 するとウーフォンはローニーの手を握る。

 途端にギュイーンとローニーのバナが吸われる。

 やばいやばいやばい!とバナの放出を留める。ここで綱引き状態になる。30秒くらい経ったろうか。

 突如こう着状態は終わった。

 そしてウーフォンがアルフレッドにこう話す。

「ロー様。この子はマルーシャ様と同じです。そしてたった今私のバナ抽出を強制的に停めてみせました。この子は2人目の特異体質です。」


 ローニーと両親、アルフレッドとウーフォンは別室に移った。外のどんちゃん騒ぎが嘘の様に静まり返っていた。

 重い空気を破ったのはアルフレッドだった。

「ローニー、いやローランドよく聞きなさい」

 急に本名で呼ばれ背筋が伸びる。

「おまえさんは我が娘のマルーシャと同じタンクという性質じゃ。バナが体内に貯蓄できるのは知っているな?個人差はその量が通常の10〜30倍じゃ。」

 ローニーは真剣に頷く。それを見て理解したと判断したのか話を続ける。

「バナは時に心身を蝕む。故にマルーシャは定期的にバナを発散させるためにこのウーフォンのところに通っている。」

 ーーーなるほど..でも自分で放出すれば...よくないか?---

「本題はここからじゃ。お主バナの操作。しかも細かな制御まで可能じゃろ?」

ローニーは遂にバレたと観念しコクリと小さくうなづいた。

「バナの操作制御は誰にでもできることじゃあない。非常に稀有な者じゃ。その上お主はタンクである。この意味がわかるな?」

 ーーー膨大なエネルギーとそれを扱う能力、まるで生きた兵器だ。ーーー危険性は言わずとも理解できた。

「この能力を特異体質という。帝国において過去にも数名おるが、現在はお前さんとロガールの2人だけじゃ。」

 ローニーは突然呼ばれた名前に驚いた。

「じゃあロガールさんも同じ様なことが?」

「いんや。能力は個人によって異なる。彼女は声帯を使って操る。その副作用であんなに可愛い声になってしまったがな」と少し笑った。

「ローニー。おまえさんの生きる道を止める権利は誰にもない。じゃがの慎重に進めんけりゃならん。よぉおく考えて生きろ。お主は救世主にも破壊神にもなれる。かの英雄シルバックの様にな。」

  

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