94 新しい皇女
剣術大会から一週間が経過する頃に、ちょうど皇家では舞踏会が開催される。
その目的は、剣術大会の優勝者を祝うこと、そして大会で健闘した者を労うことだ。
フィオナは舞踏会に向けて、アロイスと共に着々と準備を進めていた。
今日はちょうど、おなじみのマダムマリーのブティックを訪れていた。マダムマリーはアロイスと共にやって来た彼女を驚いた目で見ながらも、快く中へ入れた。
「ねぇ、アロイス。このドレス、私に似合うかしら?」
「……フィオナ、なんて美しいんだ」
フィオナが今着用しているのは、赤と白を基調とした華やかなドレスだ。ドレスには豪華なレースがあしらわれており、上品さを醸し出している。
スカートの一部が短くなっているおかげで、膝から下が出ている。このようなタイプのドレスは初めてであるせいか、何だか不安になる。
しかし、アロイスは愛しくてたまらないというようにフィオナを抱きしめた。
「まるで妖精みたいだな、フィオナ。こんなにも美しいお前を他の男に見られるだなんて耐えられない。会場にいる男全員の目をくり抜いてやりたい気分だ」
「ア、アロイス……なんてこと言うのよ……!」
彼の腕の中から、彼女は絶句した。
もしアロイスが本当に目をくり抜いてしまったら、会場が血の海になる。それだけは阻止しなければと、彼女は心の中で固く誓った。
「全て本当のことだ、お前以上に綺麗な人はこの世に存在しない」
「い、いっぱいいるわよ……アイリス様とか……セレシア皇妃とか……」
セレシアの名を出した瞬間、フィオナはやらかしたと思った。二人でいるときに、元恋人の名前を出してしまうなんて。
結局自分は未だに、セレシアのことを引きずっていたのだと改めて認識した。
アロイスはきょとんと首をかしげながら、彼女の手を取って跪いた。
「そんなことはない、フィオナ。他に綺麗な人間がいようとも、俺にとってはお前が一番美しく見える」
「アロイス……」
アロイスはそう言いながら、彼女の手の甲に口付けを落とした。
彼の優しい言葉に、フィオナの顔が真っ赤に染まった。どうしてそんなにも恥ずかしくなるようなことを、平然と口にできるのだろうか。
フィオナは、美しさでは到底セレシアに敵わないと思っていた。彼女の輝くような美貌の前では、自分など霞んでしまう。
アロイスはそんなフィオナの気持ちに気付いたのか、安心させるように彼女を再び胸に抱きしめた。
耳元に顔を寄せると、そっと囁いた。
「……今すぐにでも脱がせて抱きたい」
「こ、この変態!」
フィオナの振り上げた右手が、アロイスの頬にクリーンヒットした。
***
それから数日後、皇家主催の舞踏会の日がやって来た。
事前に選んだドレスに身を包んだフィオナは、アロイスのエスコートで会場となるパーティーホールに訪れていた。
会場には、仲睦まじく歩くカイルとミランダの姿もあった。
ミランダはカイルの元恋人で、脅迫されるような形でスティンガー公爵の妻となった。
スティンガー公爵はミランダとは二十以上も年が離れており、離婚した前妻との間に彼女と変わらない年の息子がいた。まさに、アロイスと決勝戦でぶつかり合ったスティンガー公子である。
そんなミランダは、どうやら最近公爵と離婚を成立させたようだった。
何でもスティンガー公爵が思い通りにならないミランダに愛想を尽かし、他の女に走ったとのこと。
おかげで、彼女は真に愛するカイルと一緒になることができた。
フィオナと目が合うと、カイルはニコッと微笑んだ。
そんな彼に気付いたアロイスが、フィオナを隠すように前に立ちはだかった。
嫉妬深い彼も愛おしくて、フィオナは笑みを溢した。
「そういえば、褒美には何を望むの?」
「秘密だ」
「何よ、教えてくれたっていいじゃない」
アロイスは剣術大会の優勝賞品を、未だにフィオナには教えなかった。
そのため、一体彼が何を欲しがって死ぬ気で戦っていたのか、気になったままだ。
「――帝国の太陽・皇帝陛下のご入場です!」
皇妃、皇女、皇子、皇太子と会場入りし、いよいよ皇帝陛下の入場となった。
会場にいる貴族たち、皇族たちが胸に手を当てて礼を取った。
フィオナはチラッと皇帝を見上げ、違和感を感じた。
(……何かしら?いつもより機嫌が良さそうだわ)
皇帝陛下の表情が、明らかに普段と違う。
いつもしかめっ面の陛下だが、今日は機嫌が良さそうに口元に笑みが浮かんでいる。
彼は壇上に上がると、声高らかに話し始めた。気のせいか、いつもより明るい声色だった。
「今日は皆に伝えたいことがある」
「……!」
その一言で、全員が顔を上げた。
「――私の新しい娘を紹介しようと思う。そして私は、彼女を新しく皇太女にするつもりだ」
「む、娘……!?」
皇太女という言葉に、イザークがピクリと眉を上げた。
既に皇太子に就任している彼にとって、その決定は青天の霹靂だった。
「入ってこい、ドロシー」
「はい、陛下」
皇帝は柔らかい声で呼びかけると、一人の女性が扉から中へ入ってきた。
皇族の象徴である金色の瞳を露わにし、豪華なドレスと装飾品で身を固めていたのは、紛れもなくドロシーだった。
「ど、どうしてドロシーさんが……!?」
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