86 アロイスの健闘
イザークが準決勝へ勝ち上がり、次はとうとうアロイスの試合となった。
彼が出場するとなり、フィオナは不安でたまらなかった。
(アロイスは利き腕を怪我してるのよ!?何かあったら……)
予選と違い、準々決勝ともなれば出場者のレベルも必然的に上がる。
普段のアロイスであれば難なく倒せる相手でも、利き腕が使えない今の状況では厳しいだろう。
「──第三回戦、アロイス・フェンダル!」
右腕に包帯を巻いたアロイスが、闘技場に姿を現した。
アロイスの相手は、騎士としてそこそこ名の知れた伯爵家の令息だった。
いつものアロイスなら苦戦するような相手ではないが、今はわからない。
もし、彼が怪我でもしてしまったら──
きっとフィオナは、耐えられないだろう。
不安感に押し潰されそうになりながらも、フィオナは試合を見届ける覚悟を決めた。
「――始め!」
合図と同時に、伯爵令息が駆け出した。
相手がアロイスではあるものの、利き腕を使えないのを見抜いたのか、初手から大胆な行動である。
彼は普段剣を握ることのない左腕で何とか応戦した。
スピードもパワーもアロイスのほうが上。しかし、左腕では思うように全力が出せていない。
刃がぶつかり合い、伯爵令息がニヤリと笑った。
余裕のないアロイスに気づいたのだろう。
優勝はアロイスかイザークの二択と言われる中で、そのうちの一人を準々決勝でやれるのは大きい。
しかし、アロイスもそう簡単に倒される男ではない。
右腕が使えない中で左腕を何とか動かし、伯爵令息の攻撃に応戦する。
(お願い、神様!アロイスを助けて!)
フィオナは心の中でアロイスの勝利を願い続けた。
自分でもなぜこれほど彼の勝ちを願っているのかがわからなかった。
──そのとき、アロイスが一瞬の隙を突いて攻撃を仕掛けた。
「グッ!!!」
渾身の一撃は伯爵令息の肩に命中し、彼はよろけて尻餅をついた。
試合は終了し、アロイスは見事片腕のみで勝利を収めてみせた。
(やった!アロイスが勝ったわ!)
フィオナはガッツポーズをし、彼の勝利を喜んだ。
***
準々決勝が終わり、次は準決勝となる。
参加者たちの休憩を挟んだ後、すぐに試合は始まる。
「お兄様、アロイスが勝ったわ!」
「あぁ、よく左腕のみで勝ち上がれたな」
「当然でしょう!?アロイスが負けるはずないわ!」
私は彼を信じていたわ──とフィオナは堂々とキースに言い放った。
アロイスが誰よりも強いことは、キースもよく知っている。
きっと彼もまた、左腕のみで戦うアロイスを心配しながらも信じていたのではないだろうか。
こう見えて、キースとアロイスも長い付き合いだった。
「アロイスなら、このまま優勝までいけるわ!準決勝も余裕で勝利よ!」
「……それはどうだろうな?」
フィオナの勝利を確信した言葉に、キースは意味深な笑みを浮かべた。
アロイスのことをよく知るキースなら、きっと同意してくれると思ったのに。
「お兄様ったら、どうしてそんなことを言うのよ?」
「準決勝のトーナメント表を見てみろよ、フィオナ」
その一言で、彼女は闘技場に大きく貼られたトーナメント表に視線を移した。
──『準決勝第二回戦――イザーク・オランジュ対アロイス・フェンダル』
イザークの名がアロイスのすぐ近くに記載されてるのを見て、フィオナは固まった。
「イ、イザーク殿下……」
「利き腕は使えないし、これはアロイスでも流石に勝ちはないんじゃないか?」
イザークはアロイスにも引けを取らないと言われるほどの剣の腕の持ち主だ。
他の人ならともかく、彼が相手となればアロイスもどうなるかわからない。
しかし、フィオナの心配をよそに予想だにしない事態が起こることとなる。
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