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他に愛する人のいる彼の元を去ったら、何故か彼が追いかけてきます  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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85/107

85 準々決勝の始まり

セレシアは、この世の全ての男を憎んでいた。

母を弄んだ伯爵と皇帝も、祖母を捨てた祖父も、自身を見つめて下卑た笑みを浮かべる貴族男性たちも。



(お母様、あなたの無念は私が晴らしてみせますから……どうか安らかに眠ってくださいね)



セレシアはあの世にいるであろう母親に向けて、心の中で呟いた。

疎遠だった母親だけど、自分を養うために必死の思いで働いてたことは知っている。

彼女が給料の良い皇宮勤務だったおかげで、幼少期は何不自由なく暮らせていたということも。



全く恨んでいないと言えば嘘になるけれど、感謝している面もあった。

同じ魔女一族の末裔だし、彼女の仇は何が何でも取りたかった。



イザークとの話を終えたセレシアは、一人席へ戻っていた。

その途中、彼女はある光景を目にした。



「――ロレンツォ伯爵……やめてください……」

「いいじゃないか、君のような美しい人は初めて見たんだ……」



突然耳に入った実父の名に、セレシアは思わず立ち止まった。

視線を向けると、父ロレンツォ伯爵が一人の若い侍女に迫っているところだった。



(何をしているの……?)



ロレンツォ伯爵には妻がおり、既に成人済みだがセレシアを含めた子供がいる。

既婚者で子供もいるうえに、明らかに自分より二十以上下の女性に関係を迫るだなんて。

ハッキリ言って気持ち悪いし、不快だった。



いつもなら揉め事を見たところで、巻き込まれたくなくて通り過ぎて行くセレシアだったが、今日は違った。



ロレンツォ伯爵が、身分的に断ることのできない平民の侍女に迫っている。

――その姿が、自然と母ミラリアと重なった。



次の瞬間、彼女は気付けば魔術を発動していた。

手から放たれた黒い闇は、瞬く間にロレンツォ伯爵を襲った。



「ギャアアアアアア!!!」



叫び声を上げながら、彼はその場に倒れた。

黒い魔術――魔女の使う闇魔法だ。

死んではいないが、二度と愚かな真似はできない身体になった。



「……女性を弄ぼうとした罰よ」



セレシアは冷たく言い放つと、そのまま何事もなかったかのように立ち去った。



***



一方、剣術大会は予選が終わり、準々決勝が始まろうとしていた。

フィオナとその兄キースの悩みの種は、やはりドロシーに関することだった。



「フィオナ……ドロシーさんをいつ皇帝に会わせる気だ?」

「それはまだ考え中よ……遠くから見るだけじゃやっぱりダメかしら……」

「本人が納得するとは思えないけど……」



ちょうど、遠く離れた場所には皇帝の姿が見える。

サイドを皇妃二人で挟んで座っており、興味がなさそうに闘技場を眺めていた。



その金色の瞳は、ドロシーのものとそっくりだった。



「まぁ、何とかするわよ……きっと悪い方向へはいかないはずよ……」

「そうか……」



ドロシーをセレナイト家に連れて来たのは自分なのだから、自分で解決しなければならない。

そんな彼らの悩みなど気付きもせず、ドロシーははしゃぎながら声をかけた。



「フィオナ様!準決勝が始まりますよ!一回戦目はイザーク皇太子殿下ですよ!」

「イザーク殿下……」



予選にて、アロイスと同じく圧倒的な勝利を見せたイザーク皇太子。

彼はちょうど今、模擬刀を手に、予選を勝ち上がった侯爵令息と向かい合っていた。



侯爵令息は果敢にもイザークに向かって行くが、その攻撃はいとも簡単に受け止められる。

一撃一撃を軽くいなされ、侯爵令息の顔に焦りが見えた。



助走をつけて放った渾身の一撃も、イザークにとっては大したことがないの一言に尽きる。決勝に向けて余計な体力を使いたくないのだろう。彼はあまり本気を出していないように見えた。



最後、イザークは足を使って侯爵令息を転ばせると、その喉元に剣先を突き付けた。



「――勝者、イザーク・オランジュ皇太子殿下!」



たった今、決勝に出場する選手が一人確定した。




読んでくださってありがとうございます!


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