77 やらかし
フィオナがドロシーを家に匿ってから数日が経過した。
あの日以来、ドロシーはセレナイト公爵家の大切なお客様ということで通っている。
彼女の正体を知っているのはフィオナと兄キース、そして両親だけなので使用人たちの前に出るときはいつもローブで顔を隠している。
そうでもしなければ、あっという間に噂が広まりそうで。
(それにしても、いつ頃彼女を父親に会わせるのがいいかしら……)
ドロシーには未だ、本当のことを伝えられずにいた。
皇帝に彼女を会わせてしまえば、どうなるかわからない。
ドロシーがただの婚外子であれば、こんなにも悩むことは無かっただろう。
だが、彼女は皇帝が深く愛した皇后の子であり、誰よりも高潔な第一皇女だった。
――皇帝の第一子。
これまではイザークを指す言葉だったが、それがドロシーのものとなるのだ。
(イザークがドロシーを前に何を思うか……想像もつかないわ)
前世で血の粛清を行った彼のことだから、絶対に彼女を生かしてはおかないだろう。
「――フィオナ様!お父様にはいつ頃会えるのですか?」
「……も、もう少しだけ待っていてくださいね。今、お父君は忙しいようでして」
フィオナはそう誤魔化すので精一杯だった。
「あら……まぁ、仕方がありませんね。突然のことでしたから」
ドロシーも深く尋ねるようなことはせず、ただ父親に会える日を待ち続けていた。
そんな希望に満ちた目を見ていると、何だか切なくなってしまう。しかし、今の状況でドロシーを皇帝の前に出す方が危険だった。
胸は痛むが、仕方が無い。
いつかそのときがやって来ることを信じて、フィオナは彼女を匿い続けた。
***
「ド、ドロシーさんがいない!」
「フィオナ、お前何やってるんだ!」
それから数日経った日の正午、フィオナは部屋からドロシーがいなくなっていることに気が付いた。
キースと協力し、公爵邸の中を捜索する。何が何でも見つけ出さなければという思いから、彼女は隅々まで探した。
――そしてようやく、公爵邸の庭でドロシーを見つけることができた。
「ドロシーさん!こんなところにいらしたんですね!」
「あぁ、フィオナ様。すみません、とっても綺麗なお花が咲いていたのでつい寄り道してしまって」
額からダラダラと汗を流すフィオナに、ドロシーはきょとんと首をかしげた。事情を知らないせいか、フィオナと違ってお気楽である。
今の彼女はローブを着ておらず、オランジュ皇家の象徴である金色の瞳を完全にさらけ出していた。
辺りをきょろきょろと見回すが、近くに侍女や執事たちは誰もいない。
庭師も、ちょうど今は不在だった。
(何はともあれ、見つかってよかった……)
不幸中の幸いというべきか、使用人たちには見つかっていないようだった。
――そうやって警戒を怠っていたのが、いけなかったのかもしれない。
ガサガサッ――という音と共に、二人の背後から誰かが近付いてきた。
フィオナが振り返ると、そこにいたのは――
「――フィオナ!お前に話したいことがあってついここまで……」
「ア、アロイス!?」
何と、庭に突然現れたのはアロイスだった。
一体誰が通したのか、何故ここにいるのか。全く理解が出来ない。
(ど、どうして彼が!?)
アロイスの登場で慌てていたことで、フィオナはドロシーのことまで気を配っている余裕が無かった。
彼女は彼の声で振り返り、アロイスと完全に目を合わせてしまった。
「……どちら様?」
「ド、ドロシーさん!」
大慌てでドロシーの前に出るが、時すでに遅し。
アロイスはバッチリ、彼女の金色の瞳を目撃してしまっていた。
彼はよっぽど衝撃だったのか、黙ったままパチクリと瞬きをした。
「………………き、君は」
「……」
――あぁ、何てこと。
アロイスにドロシーの存在がバレてしまった。
フィオナは自身がやらかしたのに気付いたが、もうどうすることもできなかった。
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