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他に愛する人のいる彼の元を去ったら、何故か彼が追いかけてきます  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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73 パトリシア王女の残酷な結婚

両親の元へ向かったフィオナは、事の顛末を説明した。

当然、最初は半信半疑だった二人も、ドロシーの顔を見て確信したようだった。



「間違いない……あの見た目、今でもよく覚えているよ」

「ええ、亡き皇后陛下にそっくりだったわ」



二人は皇帝と皇后とは同世代であり、フィオナよりもずっと彼らのことを知っているだろう。

両親も信じられないようで、驚きを隠しきれていない。



「ねぇ、お母様。前皇后陛下は、どうしてお亡くなりになられたの?」

「……」



言いづらいことだったのか、母シンシアは黙り込んだ。



皇后パトリシアの死因は今でもハッキリとしていない。

理由は皇家が彼女が亡くなった原因を、公表していないからだ。自殺したとか不慮の事故だとか言われているが、どれもただの噂に過ぎず、真実は誰もわからない。



皇家はただ皇后が亡くなったと発表しただけで、死因については触れなかった。それが余計に、人々の疑念を深めることとなった。



もしかすると、聞いてはいけないことだったかもしれない。

しかし、彼女の娘であるドロシーと出会ってからというもの、妙にそのことが気にかかった。



母親は父を一瞥すると、フィオナに視線を移して口を開いた。



「皇后陛下の死因は私たちもわからないわ……色々な噂があるけれど……」



母はそこで一度言葉を切った。

重い話なのだろう、深刻な表情をしている。

セレナイト家は特別皇家と親しいというわけではない。そのため、両親も本当のことはわからないだろう。



「最も有力なのは―――皇帝陛下の日常的な暴力でお亡くなりになられたというものよ」

「ぼ、暴力……!?」



フィオナは衝撃を受け、開いた口が塞がらなかった。

彼女の脳裏に、以前パーティーで見た皇帝の姿が浮かんだ。年を取った今でも毎日のように女遊びを繰り返す、オランジュ帝国の至高なる皇帝陛下。

そんな彼が、妻に暴力を振るっていたとは驚きだ。



(皇帝陛下は女好きではあるけれど……女性を乱暴に扱うような人ではないと思っていたのに……)



もしそれが事実であれば、たしかに世間に公表などできるわけがなかった。



「パトリシア皇后陛下はね、皇帝陛下から日常的に暴力を振るわれていたそうよ。夏でも長袖のドレスを着ていて、絶対に肌を見せなかったほどだから」

「暴力を……」



肖像画に描かれていた彼女の浮かない表情は、もしかするとそういう意味だったのだろうか。

今となっては彼女の当時の気持ちなど知ることはできないが、そのような背景が隠されているのであれば合点がいく。



「お母様、お父様。パトリシア皇后陛下はどんな人だったの?」

「穏やかな性格で、常に優雅な笑みを携えている……素敵な人だったよ。陛下と出会わなければ、もっと長生きできたんじゃないかな……」



父親は悲しげに目を伏せて呟いた。



パトリシア皇后は、マレア王国の王女だった頃に視察で訪れた皇帝と出会った。

類稀な美貌を持ち合わせていたパトリシアに、皇帝はすぐに夢中になった。彼女は当時他に恋人がいたそうだが、両親は大帝国の皇帝に見初められたと大喜びし、彼女の気持ちを無視して婚約を結ばせた。



そうして、パトリシアは自らの意思とは関係なくオランジュ帝国の皇后となった。



(典型的な政略結婚ね……まぁ、王侯貴族の間では特に珍しいことでもないけれど)



フィオナも前世でアロイスの傍を選んでいなければ、きっと政略結婚していただろう。貴族にとって、家のために結婚するのは当たり前のこと。

むしろ愛で結ばれた夫婦の方が珍しい。



「フィオナ……彼女が前皇后陛下の子だと明らかになったのはいいが、これからどうするつもりだ?父親のことを知りたがっているんだろう?いつまでも隠しておくわけには……」

「わかっているわ……だけど、今はドロシーを皇帝に会わせるわけにはいかない……」



彼女の存在が明らかになれば、イザークや第三皇子が黙っていないだろう。

彼女の登場により、皇帝の座を巡る争いが余計に激しくなることは目に見えている。



(だけど、血の粛清が起きるまで待っていたら、陛下は死んでしまうわ……)



イザークが帝国を揺るがす血の粛清を実行に移すのは、今から二年後のことだ。その粛清で、彼は第三皇子を含めた皇孫たち、そして実の父親である皇帝を皆殺しにする。

血の繋がった家族たちの血で染まったその体で、彼は皇帝の椅子に座るのだ。



(何とかイザークや第三皇子にドロシーの存在がバレないようにしないと……)



しかしそれでは、ドロシーの父親に会うという目標は永遠に叶わないままだ。

どうしたものか、と彼女は頭を悩ませた。



そのとき、三人のいた部屋の扉がノックされた。



「失礼します」



扉から顔を覗かせたのは、セレナイト家の侍女だった。



「――フィオナお嬢様にお客様がいらっしゃっています」

「お客様?」



今日は来客の予定は無かったはずだ。

フィオナは一体誰が来ているのかと、彼女に尋ねた。



「――セレシア第三皇妃殿下です」

「………………何ですって?」



何と、先触れも無く突然フィオナの元を訪れた無礼な訪問者はセレシアだった―――




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