59 皇立図書館
アデライトを見送ったあと、フィオナは着替えて皇都へやって来ていた。
彼女が訪れたのは、オランジュ帝国で最も大きな皇立図書館だった。
皇都の一角にそびえ立つ巨大な建物には、世界中から集められた書物が大きな棚に敷き詰められている。
所蔵している本は五千万冊以上と、帝国最大級の規模を誇る図書館である。
馬車から降りたフィオナは、かぶっていた帽子を取って中に入った。
(ここに来れば、何かがわかるかもしれない……)
――そう、今日フィオナがこの場所へ来たのには目的があった。
彼女は入って早々、受付にいる司書に声をかけた。
「すみません、ある書物を探しているのですが……」
「何でしょう?」
若い女性の司書は笑顔で受け答えた。
「実は……虐げられた妾の子の嫁入りという本を探しているんです」
「……恋愛小説か何かでしょうか?」
司書はきょとんと首をかしげた。
いくら彼女が図書館で働いているとはいえ、全ての本を把握しているというわけではないだろう。
「ええ……恋愛小説です」
「なら、恋愛小説が並んでいる区画にご案内しましょう」
「ええ、お願いします」
彼女は前を歩く司書について館内を歩いた。
受付を過ぎ、二階まで上がると、司書が突然振り向いた。
「――こちらが、恋愛小説のコーナーになります」
「こ、こんなにたくさんあるんですか……!?」
大きな壁一面にズラリと並んだ本に、フィオナは驚愕した。
「恋愛小説は最近の若い女の子たちに人気ですからね。需要があるんですよ。ご令嬢もそれで探していらしたんでしょう?」
「え、ええ、まぁ……」
本当のことを言うわけにはいかず、フィオナは適当に話を合わせた。
「あとは自分で探します。案内してくださってありがとうございました」
「ええ、それではごゆっくり」
司書はニコッと愛想良く笑うと、そのままフィオナの前から立ち去って行った。
彼女がいなくなったあと、フィオナは目の前に広がる書物たちに向き合った。
(この中から本を探すなんて、骨が折れそうだわ……)
フィオナは覚悟を決め、一番端っこの棚から調査を始めた。
***
探し始めてから一時間後。
「ぜ、全然見つからない……!」
フィオナは疲れ果てた末に、膝を地面に着いて座り込んでいた。
一時間探し続けたところで、全体の半分にも到達していなかった。
(この量の中から一冊の本を探し当てるだなんて、やっぱり無謀だったのかしら……)
フィオナが今日ここへ来たのは、前にたまたま謎の書店で見かけた本を探すためだった。
アロイスとセレシアがヒロインで、フィオナが悪役であるあの恋愛小説。
あのときはあまりの衝撃でそのまま元の場所に返してしまったが、冷静に考えれば持って帰るべきだった。
あの本に書かれていたのは、間違いなくこの世界で起きていることだった。
読み込めば、何かがわかるかもしれない。
(結末に続くページが何故か破られていたから、続きを読みたかったのに……)
フィオナは目の前に広がるたくさんの本を見上げた。
「皇立図書館ならあると思ったんだけど……」
この量を一人で探すだなんて、日が暮れてしまいそうだ。
フィオナは公爵家の侍女に協力してもらおうと、一度戻ろうとした。
そのとき、突然頭上から聞き覚えのある声が降り注いだ。
「――フィオナ、こんなところで何をしているんだ?」
「……あなた、どうしてここに」
座り込んでいるフィオナを見下ろしていたのは、アロイスだった。
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