44 舞踏会後
舞踏会が終わったあと、フィオナは公爵邸へ帰り、くつろいでいた。
「リリアーン侯爵令息は婚約者として気に入ったか?」
「ええ、お兄様」
ちょうど同じ部屋にいたキースがフィオナに声をかけた。
「そうか、あの男は以前別の婚約者がいたというのに……」
「まぁ、そこは私と似てるし……過去の恋は気にしていないわ」
フィオナはそう言ったが、兄の目には心配の色が滲んでいた。
キースは普段冷たいことばかり言うものの、心の中では誰よりも妹を思っているのだ。
「お兄様こそ、早く結婚しなさいよ」
「俺はまだ自由を謳歌したいんだ」
「あんまり謳歌しすぎると……とんでもない悪女と結婚させられるわよ?」
「……」
その言葉に、キースはピクリと手を止めた。
三十年近く女の影すらほとんどなかった兄だが、さすがにそれは御免なようだ。
実際、キースは前世で売れ残りと言われた悪女の第四皇女を押し付けられた。
フィオナはキースのことが好きだ。
だからこそ、彼には幸せになってほしかった。
「そうだな……俺もそろそろ婚活するべきか」
「そうよ、お兄様はセレナイト公爵家の次期当主なんだから」
キースが前世でどのような結婚生活を送っていたか、フィオナは知らない。
しかし、我儘な皇女よりかはきちんと選んだ女性と結婚したほうが幸せになれるだろう。
「そういえば、もうすぐリリアーン侯爵令息の誕生日だろ?プレゼントは決めているのか?」
「そうだったわ……私ったら、何も考えていなかった」
あと一ヵ月で、カイルの誕生日だ。
フィオナが彼の婚約者である以上、プレゼントを贈るのは当然のことだ。
(アロイスには何を贈っていたかしら……)
フィオナはアロイスの好きなものを全て把握している。
だからこそ、プレゼントを選ぶときは楽だった。
しかし、今回は違う。
フィオナはまだカイルと出会ってばかりで、彼のことをあまりよく知らない。
「お兄様、男の人は何を貰ったら喜ぶの?」
「そうだな、別に何だっていいけど……刺繍入りのハンカチとかが定番ではないか?」
「刺繍入りのハンカチ……」
恋人や婚約者に贈るプレゼントの定番だ。
フィオナはキースの提案で、ハンカチを贈ることに決めた。
「せっかくなら、カイルの家門の象徴である剣を入れましょう」
「お前、そこまでの刺繍の腕ないだろ」
「何よ、失礼ね!それくらいできるから!」
実際、フィオナは不器用で刺繍が苦手だった。
しかし、前世でアロイスが亡くなったあと、することも特になかった彼女は家でよく刺繍をしていたのだ。
そのため、昔は苦手だった刺繍が今は特技の一つとなっている。
剣くらい、朝飯前だ。
「見てなさいよ、きっと驚くんだから!」
「そ、そうか……?」
半信半疑のキースをよそに、フィオナはさっそく刺繍に取り掛かった。




