45 一歩進む アロイスside
「……」
舞踏会が終わってから数日、アロイスは自室で酒を飲んで過ごすことが多くなった。
部屋には酒の空き瓶が何本も転がっている。
彼は虚ろな目をしたまま、ある人物の名前を呟いた。
「フィオナ……」
彼女がいないという現実に、彼は耐えることができなかった。
額を手で押さえては、彼女の名を繰り返し呟く。
元々フィオナとカイルが婚約するという話は社交界で噂になっていたが、ただの噂だと思っていた。
そのため、アロイスは特に深く考えていなかった。
しかし……
彼の脳裏に、舞踏会で見たフィオナとカイルの姿が思い浮かんだ。
仲睦まじく微笑み合う二人、愛する者を守るかのように自身の前に立ちはだかるカイルの姿まで。
永遠に彼の頭から離れなかった。
「終わり……なんだろうか」
アロイスはフィオナを愛している。
以前まではセレシアを未だに想っていると、そう勘違いしていたのだ。
セレシアを失って疲弊していた彼の傍をずっと守っていたフィオナ。
いつからか、彼はそれを当たり前だと考えるようになった。
永遠に、このまま何も変わることはない、と――
アロイスはフッと笑った。
自分自身の愚かさを身に染みて感じた。
(そういえば、あのときもこんな風に酒を飲んでばかりいたな)
あの日、憔悴していたアロイスを立ち直らせるためフィオナが強引に扉を開けて――
「――旦那様!」
そのとき、ちょうど部屋の扉が強引にこじ開けられた。
ちょうどあの日のように、扉は勢いよく開いた。
もしかして、フィオナ?
彼は期待しながら、扉の方に視線を向けた。
「……お前」
「旦那様、いい加減にしてください」
そこにいたのはフィオナではなく、アロイスの侍従だった。
侍従は新しく酒の瓶を開けようとしている彼の前に立ちはだかった。
「早く仕事に復帰してください、旦那様。あなたしかフェンダル公爵家の執務をできる方はいないのですよ」
「……それもそうだな」
アロイスはその言葉でようやく自分の立場を理解したのか、酒瓶を机に置いて立ち上がった。
彼はカーテンを開け、窓の外から見える快晴を眺めて呟いた。
「俺は……六年間何をしていたんだろうな」
「旦那様」
その瞳には、後悔の念が滲んでいた。
「フィオナのことをまともに見ようともせず……俺を一番に支えてくれたのは彼女だったというのに」
今になって後悔しても遅すぎた。
そんな彼に、侍従は元気付けるように声をかけた。
「旦那様、過去を変えることはできませんが……未来を変えることはいくらでもできます」
「……」
アロイスはこれまで過ぎ去ったことを悔いてばかりだった。
しかし、そんなことをしていたところで何の意味もない。
「旦那様が心を入れ替えてセレナイト公女に接すれば……きっと何かが変わるはずです」
「お前……」
その言葉で、アロイスは胸が熱くなるのを感じた。




