43 姉弟 セレシアside
セレシアはアロイスが公爵家の嫡男だということを最初から知っていた。
以前、皇都へ行ったとき一度だけ顔を見たことがあったのだ。
しかし、セレシアはそんなこと特に気にしなかった。
彼女の異母弟はこのとき既に一介の皇子から皇太子になっていたからだ。
何かあったとしても、きっとイザークが助けてくれる。
そのような思いから、彼女はアロイスを特別扱いすることなく、他の人たちと同じように接した。
――そういうところが彼に気に入られたようだった。
アロイスは回復し、皇都へ帰ったあとでもたびたびセレシアの住む家へ訪れるようになった。
そのときに彼は決まって花束やイヤリングなど、セレシアへのプレゼントを持ってきていた。
彼女はアロイスが自分を好いていることに気付いていた。
しかし、セレシアはそこまでされてもアロイスに特別な感情を抱くことはなかった。
アロイスはセレシアより三つも年下だったし、十八歳の少女からすれば十五歳など子供にしか見えなかった。
そのような気持ちから、最初は彼からの誘いを断り続けていた。
彼も彼女の気持ちを強要するつもりは無いようで、身分を盾にすればすぐに引いた。
しばらくして、彼女は伯爵令嬢としてロレンツォ家に引き取られることとなった。
裏でイザークが手を回したのだと、セレシアはすぐに悟った。
彼女はロレンツォ伯爵令嬢となり、社交界デビューを果たした。
父や継母、異母兄弟たちからはいない者のように扱われていたが、虐められないだけマシだとセレシアは思った。
それと同時に再び始まるアロイスからのアプローチ。
彼女は今回も受け入れるつもりは無かったが、イザークから思いもよらぬことを言われた。
『フェンダル公爵令息は駒として使える。結婚はしなくてもいいから、交際を受け入れろ』
その一言で、セレシアは不満ながらもアロイスを受け入れた。
社交界では相思相愛の恋人同士として知られていた二人だったが、実はセレシアのほうは彼に恋愛感情を抱いていなかった。
ただ、異母弟である皇太子に言われたから付き合っただけ。
しかし、アロイスは彼女のそんな気持ちには気付かず、交際中セレシアをとても大切にした。
優しくされるたびに、彼女の胸は罪悪感でいっぱいになった。
彼と付き合ってしばらく経った頃、皇太子から第二の計画を打ち明けられ、彼女はそれを実行に移した。
アロイスには悪いと思っていたが、イザークと二人で決めた目的を果たすためには多少の犠牲はやむを得ない。
――だから彼には、犠牲になってもらった。
その後すぐ、セレシアはイザークの計らいで第三皇妃となった。
権力で強引に引き離されたと思われていたアロイスとセレシアだが、実際皇妃となったのは彼女の意思だった。
そして、今に至る。
セレシアは目の前に座る異母弟をじっと見つめた。
彼女を映すその瞳からは、何の感情も感じられなかった。
最初は恐ろしかったが、今はもう平気だ。
セレシアはソファから立ち上がると、座ったままのイザークを抱きしめた。
「……どういうつもりだ」
「特に意味はありません、ただこうしたくなったんです」
イザークは不快そうに眉をひそめたが、彼女を振り払うようなことはしなかった。
――あぁ、イザーク。
私よりもずっと可哀相な、この世でたった一人の大切な弟。
二人は他の姉弟よりもずっと、固い絆で結ばれていた。




