42 彼との出会い セレシアside
全てを知ったセレシアは、イザークの前で涙を流した。
関わったこともほとんどない母親だったが、何故か辛くてたまらなかった。
イザークはそんな異母姉をただじっと見つめていた。
「お、お母さんは……亡くなっていたんですか……」
「ああ、そうだ」
彼女はそのとき初めて母親が既にこの世にいないことを知った。
祖母は残された娘を気遣ってか、療養するため遠くへ行ったと嘘を伝えたのだ。
母の悲しき最期、祖母の優しさ、父親の非道さに、彼女は涙が止まらなかった。
それと同時に、自身をこんな目に遭わせた原因となった伯爵や皇帝への憎しみが募っていく。
(皇帝や父がお母さんの恋心を利用しなければ……!)
しかし、そんなこと考えたところでどうしようもない。
二人とも、一介の平民である自分にはあまりにも強大すぎる相手だったから。
イザークは泣き続けるセレシアにハンカチを差し出した。
冷たい人だと思っていたが、そのような気遣いができるのか。
(私が唯一残された肉親だからかな……?)
セレシアはハンカチを受け取り、涙を拭った。
ようやく落ち着きを取り戻した彼女に、イザークは話しかけた。
「お前は今、ここで一人で住んでいるのか?」
「はい……祖母は既に亡くなりましたので」
”祖母”というワードに、イザークが反応した。
「……俺は会ったことがない」
「あ……」
イザークはセレシアと違って幼い頃から周りに誰もいなかった。
彼の心情を考えると、彼女は何だかいたたまれなくなった。
イザークは私よりももっと辛い思いをしていたはず。
今思えば、彼に最初に抱いた感情は同情だったのかもしれない。
不幸な幼少期を送ることとなった自分よりもずっとずっと可哀相な人。
イザークとセレシアは半分血が繋がっていたが、他の姉弟よりも強い絆で結ばれていた。
二人は身勝手な父親と精神的に弱い母親に振り回された犠牲者だった。
似たような心の傷を抱え、誰よりもお互いを理解し合えた。
生まれ育った環境は正反対だが、似た者同士であることに変わりはない。
そのような境遇が、彼らの距離をグッと縮めた。
「時が経ったら必ず迎えに行く、それまで待っていてくれ」
「殿下……」
イザークはそれだけ言うと、セレシアの前から立ち去って行った。
それからというもの、彼女は異母弟のその言葉だけを頼りに過ごした。
今は辛い日々だが、いつかはきっとイザークが迎えに来てくれる。
彼は絶対に自分を見捨てない、と心の中で確信していた。
三年後、彼女はある人物と出会った。
セレシアが住んでいた村の近くで、傷だらけの少年が倒れていたのだ。
彼女はすぐに彼を抱き起こし、家へ連れて行って看病した。
数日後、少年は回復し、セレシアに深く感謝した。
その少年がまさに、アロイスだった。




