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他に愛する人のいる彼の元を去ったら、何故か彼が追いかけてきます  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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41/51

41 ミラリアという女性⑥

「どうして……」



ミラリアが掃除をしていた部屋は、ちょうど現皇帝が皇太子だった頃に使っていた部屋だった。

部屋中には埃をかぶった肖像画がたくさん飾られていた。



描かれている人物は、皆同じ。

青い髪に、青い瞳の女性。

雰囲気が少しだけミラリアに似ていた。

しかし、彼女にはミラリアにはない気品やオーラがあった。



陛下と並んで映っている絵もあった。

その中の彼女は愛しそうに見つめる陛下とは違って、どこか浮かない顔をしていた。



「間違いない……彼女は亡くなった皇后陛下だわ……」



ミラリアにはそのことがすぐにわかった。

皇帝陛下は数年前に隣国の王女だった妻を亡くしている。

彼女は貴族ではなかったため、皇后陛下の顔を全く知らなかった。



彼女の脳裏に優しかった頃の皇帝の顔が浮かんだ。

愛しそうに自分を見つめる彼の顔が、未だに深く刻まれていた。



「陛下が……私をあれほど大切にしてくれたのは……」



そこでミラリアは全てを悟った。

――あぁ、自分は愛する皇后の代用品に過ぎなかったのだと。



そのことを知った彼女は、思わず部屋から飛び出した。

仕事中なのも気にせず、侍女服で別宮を駆け抜けた。

途中で何人かにぶつかったが、今はそんなこと気にもならなかった。



(どうして私は……こんなにも愚かなの……!)



走っている間、彼女の目から涙が溢れた。

――ロレンツォ伯爵と違って、陛下は私を心から愛してくれている。



少なくとも、以前まで彼女はそう思っていた。

今は寵愛が消えても、あのときの愛は確実で、イザークはそんな二人の愛の結晶だと。



だけど、実際は違った。

皇帝がミラリアを愛していたのは亡き皇后に似ていたから。

ミラリアを愛しているのではなく、皇后陛下を愛している。



彼が彼女に興味を失ったのは、ミラリアの見た目が変わってしまったせいだろう。

愛する女に似ていない彼女など、彼にとっては何の価値もない。



その事実が、彼女に重くのしかかった。



「どうして……どうしてなの……」



全てを知ったミラリアは、一日中泣き続けた。

あまりにも残酷な現実だった。

ずっと愛だと信じていたものは偽りで、彼女の妄想に過ぎなかった。

愛されていると信じて疑わなかった。

だけど、そうではなかった。



彼女は別宮の庭でひとしきり泣いたあと、ポツリと呟いた。



「……どうでもいいわ」



そして、全てに絶望したミラリアは池に身を投げた。



彼女の遺体は数日後に引き上げられ、皇帝は特に興味もない様子で事故だと処理した。



セレシアが四歳、イザークが三歳の頃だった。

突然母を失った二人は、それぞれ不幸な生活を送ることとなった。



セレシアは数年後に祖母を亡くし天涯孤独となり、イザークは唯一残った肉親である皇帝からも放置され、忘れられた皇子となった。




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