40 ミラリアという女性⑤
ミラリアは皇帝の提案を受け入れるしかなかった。
侍女たちからの嫌がらせで憔悴しきっていた彼女は、もはや多少の醜聞など気にもならなかった。
(伯爵には奥さんがいたけど……陛下は独身だし……)
皇后にはなれなくとも、大切にしてもらえるのではないだろうか。
そう思いながら、ミラリアは皇帝と関係を持った。
彼の愛人となってからすぐ、ミラリアは懐妊した。
ミラリアが不安に思っていたのとは裏腹に、皇帝は彼女の妊娠をそれはそれは喜んだ。
彼女にとっては二人目の子だったが、彼にとっては初めての子だった。
皇帝の愛人になってからというもの、ミラリアは彼にとても大切にされていた。
周囲からの嫌がらせも次第に無くなり、彼女の脅威となるものはもはや何もなかった。
皇帝の恩恵を受け、他の侍女よりも良い待遇を受けられるようになった。
彼女は毎晩、彼の腕の中で眠りに就いた。
(陛下は伯爵と違ってとても私を愛してくれているわ……)
ミラリアは次第に皇帝を心から愛するようになった。
しばらくして、彼女は出産した。
皇帝は後継者となる男児が生まれたことに喜び、初代皇帝と同じイザークと名付けた。
ミラリアは伯爵との間に生まれたセレシアのことなど忘れ、新たにできたイザークを大切に育てた。
まだ赤ちゃんだったが、この子は将来帝国の皇帝陛下になるんだ。
そう思うと、自然と涙が出てきた。
ミラリアはイザークへの愛と同時に、もっと彼から愛されたいという気持ちが芽生えた。
そのためにはもっと綺麗にならないと。
ミラリアは比較的整った顔立ちをしていたが、社交界で注目される貴婦人たちと比べたら天と地の差だ。
彼が皇帝である以上、何もしなくても女なんてたくさん寄ってくる。
ミラリアは他の女に彼の寵愛が移ることが不安でたまらなかった。
この頃から、彼女は美容に気を遣うようになった。
髪の毛を切り、メイクを変え、着ていた服の系統もガラリと変えた。
周囲は突然雰囲気の変わった彼女に驚いた。
ミラリアは、自分が美しくなっていると信じて疑わなかった。
――そして、彼からもっと愛されるようになるとも思っていた。
しかし、ミラリアが変われば変わるほど皇帝は彼女の元を訪れなくなった。
彼女はそのことを不思議に思ったが、努力が足りないせいだとさらに自分磨きを重ねた。
そんな努力も虚しく、皇帝は産後一年も経つと皇宮に他の女を囲うようになった。
ミラリアはそのことを問い詰めた。
「陛下、どうしてですか……?どうして他の女を……!」
あれだけ私のことを愛していたのに、と彼女は皇帝の前で涙を流した。
彼はそんな彼女を冷たい目で見つめていた。
「……君は随分変わったな」
「……どういう意味ですか?」
ミラリアは、自身の容姿を指していることに気が付かなかった。
皇帝はそんな彼女を呆れたような目で見つめると、そのまま立ち去った。
わけもわからないまま、ミラリアは”皇帝に捨てられた女”というレッテルを貼られることとなった。
その後、彼女は皇帝宮から皇帝が皇太子だった頃に住んでいた別宮の配属となった。
何でも陛下が直々にそう命じたのだと。
二度と会わない、と宣告されているような気がして辛くなった。
それでも彼女は懸命に働き続けた。
別宮へ配属されてしばらく経った頃、彼女は掃除中に部屋に飾られた肖像画に釘付けになった。
「私に……似てる……?」




