38 ミラリアという女性③
それからミラリアはロレンツォ伯爵を待ち続けたが、彼が会いに来ないまま一ヵ月が経った。
その頃にはお腹が少しずつ目立ち始めていた。
(どうしよう……みんなが噂しているわ……伯爵様も私のことを無視するようになったし……)
子供ができれば、彼も夫人より私を選んでくれるかもしれない。
そんなことを考えていた自分がとても馬鹿馬鹿しく感じた。
「ねぇ、あのお腹……」
「間違いないわ、アイツきっと妊娠してるのよ……」
元々ミラリアは仕事ができ、同僚たちから好かれていた。
しかし、伯爵との不倫によりいつの間にか嫌われ者となっていたのだ。
「平民の分際で旦那様の子を孕むだなんて……」
「汚らわしいわ。あの女、奥様を追い出して自分が伯爵夫人になろうとしているんじゃないの?」
違う、私はそんなこと――
考えていない、と彼女は言い切ることができなかった。
”子供を産めば、私が彼の本妻になれるかもしれない”
たしかに彼女はそのようなことを考えていた。
(私……本当に最低な女だったんだわ……)
遊びを愛だと勘違いして浮かれた不倫女の末路としては相応しいのではないか。
それからしばらくして、ミラリアはようやく伯爵の執務室へと呼ばれた。
彼女は彼の妻になることなどとうに諦めていた。
しかし、お腹にいるこの子は間違いなく彼の血を引いた子。
せめて、養育費だけでももらえたらとミラリアは考えていた。
しかし、彼女を待ち受けていたのは残酷な現実だった。
何とミラリアは、伯爵からありもしない罪を並べ立てられて解雇を言い渡されたのだ。
彼女は全て身に覚えがなかったが、それを正したところで何の意味もないことを知っていた。
この屋敷において彼は絶対的な権力者であり、彼に嫌われた者は生きてなどいけないからだ。
本妻や使用人たちからも嫌悪されていたミラリアは、解雇を静かに受け入れた。
そんな彼女を憐れに思ったのか、伯爵は新しい職場をミラリアに紹介した。
――それがまさに、皇宮だった。
ちょうど侍女を募集していたのだ。
伯爵邸を静かに出たミラリアは、田舎へ帰り、母親の元で子供を産んだ。
子供はロレンツォ伯爵の美貌を受け継いだ、元気な女の子だった。
それがまさにミラリアの第一子・セレシアである。
ミラリアは産後数週間で、すぐに皇宮の侍女となった。
元々実家は裕福ではなく、今すぐにでも働きに出る必要があった。
毎日働き詰めなのは辛かったが、生まれたばかりの娘のことを思うと何とか耐えられた。
父親からは捨てられてしまった子だったが、不自由な思いはさせたくなかった。
その一心でミラリアは働き続けた。
セレシアに会う時間はほとんどなく、彼女を育てたのは祖母だった。
そして、侍女として皇宮に上がってからすぐ彼女はある人物の目に留まることとなった。
「――ミラリアっていう侍女は君か?本当に”彼女に”そっくりだな……」
それは、妻を亡くしたばかりの若き皇帝だった。




