37 ミラリアという女性②
それからというもの、ミラリアは月に何度か伯爵の部屋へ呼ばれては行為を重ねた。
妻子のある男と男女の関係になる。ミラリアはそれがしてはいけないことだとわかっていた。
しかし、伯爵を本気で愛していた彼女はいつまでも関係を切ることができなかった。
そうしているうちに、伯爵との愛人関係は五年も続いた。
その間ミラリアは本妻になりたいとずっと思っていたが、当然言えるわけがない。
関係が終わることが、彼女にとって何よりも恐ろしかったのだ。
そして、六年目を迎えようとしていたとき、彼女にある異変が訪れる。
生理が止まり、体調不良が続くようになった。
(私……妊娠したみたい……)
――ミラリアは、ロレンツォ伯爵の子供を身籠ってしまった。
嬉しくないわけではなかった。
愛する人との子を産むのは、彼女の幼い頃からの夢だったから。
(子供ができたら……旦那様はもしかすると私を正妻にしてくれるかもしれない……)
彼女は僅かな希望を抱き、伯爵の元へと向かった。
「旦那様、お話があるんです」
「何だ?こんな時間に来るだなんて、君らしくないな」
伯爵は突然やって来たミラリアを、いつものように笑顔で出迎えた。
その笑顔に、彼女はとても安心できた。
今なら言える。
ミラリアは覚悟を決めて口を開いた。
「旦那様、私妊娠したみたいなんです……」
「……何だと?」
ロレンツォ伯爵が驚いたように目を見開いた。
突然のことで理解が追い付かないのだろう。
ミラリアはもう一度ゆっくりと言葉を発した。
「お腹に、旦那様の子がいるんです……」
「……」
彼はミラリアを見つめたまま固まった。
驚いて言葉も出ないようだ。
一体何を言われるのだろう。
彼女はドキドキした。
しかし、彼から返ってきたのは予想外のものだった。
「……そうか、嬉しいよ」
「……」
彼は冷たくそれだけ言うと、すぐにミラリアから視線を逸らした。
まるで何事もなかったかのように、再度執務を始めた。
「今は仕事が忙しいんだ、またあとにしてくれ」
「旦那様……?」
ミラリアは呆然としたまま伯爵を見つめていたが、彼がこれ以上何かを言うことはなかった。
彼女は仕方なく、執務室を出て行った。
伯爵の執務室を出て廊下を歩いていると、ミラリアは侍女たちからの嫌悪の視線に晒された。
(な、何かしら……?)
これまでミラリアは浮かれていて気が付かなかったのだ。
彼女と伯爵の不倫が、同僚たちにバレているということに。
そんな状況の中でも、ミラリアは心を強く保った。
(……平気よ、旦那様だけは私を見捨てたりしないもの)
他の誰に何と思われていようが、伯爵にさえ捨てられなければそれでいい。
ミラリアはそう思い、何とか耐えた。




