34 二人の関係 セレシアside
皇太子が出て行ったあと、セレシアは再び一人になった。
彼女は彼がいなくなった部屋でふぅと一息ついた。
シーンとした部屋では、外にいる侍女たちの声が丸聞こえだ。
「やっぱり、皇妃様と皇太子殿下は男女の関係にあるのかしら……」
「間違いないわ。皇太子殿下、週に一度はセレシア様の元へいらしているもの」
――皇太子イザークと第三皇妃セレシアは禁断の不貞関係にある。
王宮内でそのような噂が蔓延っていることを、セレシアは知らないわけではなかった。
ただ、どうでもよかったから否定も肯定もしてこなかっただけ。
(私と殿下が不倫してるだなんてね……)
彼女は可笑しくて笑いが出そうになった。
セレシアは、皇太子と初めて出会った日のことを思い浮かべた。
セレシアの母親は、平民ではあったものの、皇宮に侍女として勤務していた。
父親は生まれたときからおらず、母に誰が父か聞いてもはぐらかすだけ。
母は仕事で家を空けることが多く、彼女を育てたのは母方の祖母だった。
セレシアが四歳になった頃、母は皇宮の侍女を辞め、突然彼女と祖母の前から姿を消した。
祖母に聞いても理由はわからなかった。
ただ、母親は精神的にかなり辛いことがあったから遠くへ療養しに行ったのだと。
幼い彼女は不思議に思いながらも、受け入れた。
母親はほとんど家にいなかったし、別にどうでもよかった。
セレシアは父親の顔も知らず、母親からの愛も得られないまま不幸な幼少期を過ごすことになった。
彼女の不幸はそれだけにとどまらなかった。
母親の失踪から数年後、祖母が亡くなった。
祖母は母がいなくなってからというもの、毎日のように泣き、やつれていった。
彼女は十歳にして、天涯孤独となってしまったのだ。
村にいた人々が支援をしてくれたおかげで、何とか生活できてはいたものの、その暮らしは幸せとはいえなかった。
自分も祖母の元へ行こうか、悩んだことが何回もあった。
それから数年が経ち、彼女が十五歳になったある日、一人の少年が家を訪ねてきた。
「はい、どちら様ですか?」
「……」
少年は何も言わなかったが、ローブの隙間から見える青い髪は彼女が幼い頃に数度見た母親にそっくりだった。セレシアの頭の中に、ある疑念がよぎった。
(もしかして、この人は……)
自分は母親の青い髪を受け継がなかった。彼と似ているところなんて一切ない。それ以前に、彼とは今初めて会った。なのに、どうして……
――他人のように、思えないのだろうか。
「……よかったら、お茶でも飲んでいってください」
「……」
彼女は無意識に彼を家に入れ、向かい合って座った。




